第5話 少女の日常

少女は日中の太陽を避けるようにフードを目深にかぶり、薄暗い路地へと入ってゆく。


日の光が届かず、ごろつきの溜まり場になっている路地を通り、一軒の店へと入ってゆく。


店内は薄暗く、カウンターのベルを押す。


棚の影より男性が顔を出す。


少女を見ると、無言で箱を抱えてやって来た。


「あまり無茶苦茶な使い方するなよ、すぐダメになるぞ」


箱をカウンターの上で開けると、数本のナイフとピアノ線が入っている。


ナイフは綺麗に研かれ、見ただけで切れ味抜群とわかる。


この店は街一番の鍛冶屋であり、情報屋でもあった。


人体の油で切れ味が悪くなるので、頻繁にメンテナンスを頼んでいる。


多めに支払い、暗殺リストを受けとる。


ほとんど会話などない。


それがいつもだった。


が、今日に限って店主は少女の変化に気づく。


「何かあったのか?」


少女の表情は相変わらず無だ。


しかし、付き合いが長いからこそ気づく。


ピクリと、一瞬反応して今朝がたの事を思い出す。


一目惚れと言われ、手の甲にキスまでされた。


直後反射的に祥を平手打ちして、屋敷を出てきたのだ。


今まで感じたことのないほど心臓がうるさい。


初めて人を殺した時ですら、こんなになったことはなかったのに。


「変態に合った」


「…そんなに大変な仕事なのか。"舞姫"なんて恐れられているお前さんがねぇ」


店主のにやけ顔が気にくわない。


もう用は済んだことだし、少女はさっさと店を出て行った。

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