Track2:人面犬を捕まえて

人面犬を捕まえて(1):探偵業にはむかない人

【探偵業法2条】

 この法律において「探偵業務」とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。

2 この法律において「探偵業」とは、探偵業務を行う営業をいう。ただし、専ら、放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいい、これに基づいて意見又は見解を述べることを含む。以下同じ。)を業として行う個人を含む。)の依頼を受けて、その報道の用に供する目的で行われるものを除く。

3 この法律において「探偵業者」とは、第四条第一項の規定による届出をして探偵業を営む者をいう。

――――――――――――


 久住音葉(クズミ‐オトハ)は、記憶喪失である。

 数か月前、街の交差点で水鏡紅(ミカガミ‐ベニ)と名乗る女性に手を引かれていた以前の自分のことを一切覚えていない。

 自分について知っていることは名前――もっとも紅が音葉をそう呼んでいるに過ぎない、それと、紅との契約により特異な力を行使できることだけだ。

 歩き方や一定の社会常識、映画や小説のことは覚えているから最低限のコミュニケーションはとれるが、音葉が知っている情報のなかに身元特定の手がかりになりそうなものはない。

 紅と交差点で出会った当時、音葉が所持していた荷物は現金とバックのみ。出所不明の100万円を超える現金は、ひょっとすると音葉の過去につながる手がかりであったかもしれない。

 もっとも、音葉は、現金をもって警察に出頭し、記憶喪失を告げるほどには能天気ではなく、また、記憶喪失の彼には活動資金たる現金が必要であったことから、既に消費が始まっており、現段階で何かの手がかりを探すのは難しい。

 所持品以外に手がかりがあるとすれば、音葉自身、あるいは水鏡紅の証言だろう。そう考えて、音葉は自分の身体を調べたことがある。

 身長は175センチメートル。どちらかといえば身長が高い方である。

 性別が男であることは間違いない。瞳と髪は黒く、肌はどちらかというと白い。

 記憶喪失後の拠点である喫茶店「マボロシ」のマスター曰く、あまり外に出たがらない引きこもりの大学院生のような風体らしい。彼の評価を基にするなら年齢は26前後だろうか。

 タトゥーなどはなく、右足の親指が少し巻き爪なことと、右手の人差指が薬指と同じくらいの長さであることくらいしか、身体的な特徴はなかった。

 水鏡紅はどうだろうか。紅は、頑なに音葉の過去について語ろうとしない。

 紅は、記憶が消える前の音葉と、今の音葉に過去を伝えないという約束をしたという。紅自身は人の記憶を消す方法は知らないと話すが、他方で、音葉が自分の記憶が消える時期や方法について知っていたか? という問いに否定はしない。

 もっとも、彼女が知っている久住音葉の過去というのは、彼の人間性に関することに偏っているようである。そもそも、彼女と音葉はそれほど長い付き合いではないのだ。故に、彼が今までどこでどのように暮らしてきたかはあまり知らないのだという。

 結局、久住音葉が記憶喪失になったとき、彼のことを示す客観的な手がかりは残されていなかった、つまり、音葉は自分の過去を知る術がない状況にあるといえる。

「随分と整理されたし、よくわかる話だと思う。そのうえで、身分の保証がないと生活ができないという君の懸念も理解できる。ただ、やはり、君が自分から意図して記憶喪失になったという点が引っかかる」

 男が音葉の身上話を聞くのはこれで5回目だ。毎度のように話がわからないとか、もっと調べる術がないのかなどと注文をつけていたが、今度は、音葉が自分から記憶喪失になったのが気になるという。

「僕も知りたいですが、そもそも意図して記憶喪失になったかもわからないじゃないですか」

「ふむ。しかし、水鏡君の話を信じるならば、君は記憶喪失になる前、自身が記憶を失うことは理解していたことになる。君の周りに徹底して過去を示す資料がないのも、以前の君が企図したと考える方が道理にかなっている。少なくても、今の状況ではその説明が合理的に聞こえる」

 男はそう言って丸々と太った顔を揺らし、顎に生えた無精ひげを撫でた。何だか馬鹿にされているようで憎たらしい。このまま、この男に相談を続けていて事態が前進するとは到底思えない。

 耐えかねて音葉が席を立とうとすると、隣に座る紅が音葉の足を強く踏みつけた。


*****

 久住音葉と水鏡紅は、先月、雑誌記者の篠崎ソラ(シノザキ-)の依頼を受け、とある港町を訪れた。彼女の依頼は、港町に伝わる、生物のように動く硝子細工の噂に関する真偽鑑定だった。

 結局、噂の根本には、黒硝子と呼ばれる怪異――紅はこれをノイズと呼ぶ、が関係しており、音葉たちがそのノイズを封印することとなった。

 その調査の過程で、音葉たちは一人の風変りな医師と知り合った。医師の名は、鷲家口眠(ワシカグチ-ネムリ)。警視庁のとある部署からの依頼で、全国各地の変死体の検視を請け負っているのだという。音葉たちが町を訪れた当時、眠は、黒硝子の影響により硝子化した遺体の検視を請け負っていたのである。

 黒硝子を巡る一連の事件に収拾がついた後、音葉は街へ帰る列車で、偶然にも眠と相席になった。旅の時間つぶしにとせがまれて、音葉は自分の身の上について説明したところ、眠は音葉たちの手助けをしたいと申し出た。

 意外な申し出であったが、当座の活動費に関する援助に加えて、音葉が直面している最大の問題、身分の確保について助力できるという話を聞かされ、音葉は眠の申し出を受けた。

 もっとも、そのために町へ戻ってくるのは更に1週間遅くなり、立ち寄り先で再び奇怪な死体と直面する羽目になったのだが……


*****

 とにもかくにも、音葉は眠より、一人の男を紹介してもらうことができた。男の名前は遠上則武(トオガミ-ノリタケ)。眠の高校の同期で、今は音葉たちの暮らす街の法律事務所に勤務している。目の前で太った身体を揺らし、音葉の身の上話について色々とケチをつけている男である。

 法律事務所に勤めているというが、弁護士なのかは確かめたことがない。会うのはこれで3度目だが、記章をみたことはないし、彼の名刺には名前とフンボルトペンギンのスケッチしか書かれていないのだ。非常に怪しい。

「久住君の話は、第三者には自分が記憶喪失であると演じているように聴こえるんだ」

 そのようなことを言われても、音葉自身は記憶がないのだからどうにもならない。

「君は僕を疑っているようだが、僕自身は、君が記憶喪失であることも、君たち二人が奇妙な力を持っていることも信じている。鷲家口が僕に連絡を入れてきたのもそういうわけだろうしね」

 どうして今の話の流れで鷲家口眠の話が出てくるのか。遠上という男は話がひどく回りくどい。

「鷲家口から聞いているかは知らないけれども、あいつも僕も、怪異、君らは雑音、ノイズと呼ぶみたいだが、そういった手合いと距離が近い。お互いの家の事情でね。ちなみに、僕は、 祈祷師や拝み屋、いわゆる霊能者と付き合うことが多くてね」

「その人たちとも、今日みたいなやり取りを繰り返すのですか」

「霊能力者には、記憶喪失をきっかけに力を得る者もいる。記憶を失うタイミングが悪ければ、久住君のように過去の手がかりがない状態のこともある。そうなってしまうと、君と同様に身分を証明できるものがない。解決策として僕が薦める方法がこれだ。」

 遠上はぷよぷよの指で、机上の紙を指さした。戸籍を新規に取得する手続。初めて会った時から彼が音葉に薦めているものだ。だが。

「この前の話だと、申立から戸籍が取得できるまでかなり時間を要するのでしょう」

「それは、一概にはいえないが……1ヶ月や2ヶ月とは限らない」

 音葉はそんなに時間をかけてはいられない。手元にはそれほど現金がないし、ノイズを探すとなれば遠隔地を放浪する必要も出る。

「だから君はこのプランを立てたわけだろう。けれも、これはダメだ」

 遠上がしきりにNGを出しているのは、音葉の生活基盤を作る計画だ。

 水鏡紅は、記憶を失う前の久住音葉と契約を結んだ。紅が求めるのは常識の埒外の存在、ノイズを探しだし封じることである。ノイズの封印には副次的な効果があり、音葉と紅は封じたノイズの力を借りられる。便利なノイズを封印すれば、活動の選択肢は広がる。

 問題はノイズを探す手段だ。今まで音葉が封じたノイズは、たまたま知った噂をきっかけに遭遇した。だが、運頼みでは効率が悪い。

 かといって、身元不詳でも働ける仕事を探しても、肉体労働が多く、拘束時間が長い上に給料も時間的な余裕も少ない。これでは結局ノイズを探せない。

 そこで、目を付けたのが探偵業だ。ノイズが関係する噂を集めやすい仕事だと思った。

「確かに怪異の噂は、普通の仕事では手に入らない。拠点にしている街以外にも出かけるなら、自由が利いて、金に困らない職が理想的だ。だから、探偵業に目を付ける気持ちはわかる。けどね、探偵業を始めるなら、公安委員会への届出が必要なんだ。久住音葉、君は今、自分が誰かもわからないんだぜ」

「だから、最悪、どこかで戸籍を買おうと思っています」

 篠崎ソラから黒硝子の噂を聞いた時、初めに思いついた手段だ。見た目を変える能力があれば、身分証などを偽造するのは容易い。

「買っちゃったらなおさら公安委員会に顔を出せないでしょう」

 他にどんな職がある。音葉にはノイズを探すための時間を確保しながら就ける職業が思い至らなかった。

「そもそもさっき君たちに見せた通り、法律が定める探偵業は、人の所在や行動等を調査する業務とされている」

 遠上は机上に置かれた資料の中から、探偵業法と書かれた束を手に取った。

「他方、君たちが今までノイズを見つけた経緯は、人の所在や行動とは無関係だった。僕の知り合いにも、特定人に憑く怪奇現象を扱う霊能者はいますが、数は少ない。どちらかというと、心霊スポットのような“場所”や噂を探っている方が、アタリを引く確率は高いんじゃないか。

 つまりだね、この法律に書かれた探偵業をやっても、ノイズの情報を集められるとは限らない。君が求めているのは、ノイズ探しが副次的に収入を生む。そういう仕事だろう?

 それなら、今すぐ探偵業の届出なんてしないで、もっと曖昧に、そう、たとえば便利屋とかを始めてみる方がよっぽど有益だと思うという話だよ」

 便利屋と探偵業。遠上の説明を聞いても、その二つが違うようには思えない。それに、探偵事務所であれば、看板が客を呼ぶ可能性があるが、音葉には便利屋として看板を掲げてもどんな依頼が来るか想像がつかなかった。

「まあ、だいたい同じ、というか便利屋の中には探偵業に足を突っ込んでいる人もいる。探偵業の届出があるからこそできることもあるが、今は便利屋として仕事を始めたほうが色々と融通が利くんじゃないかというのが、僕からのアドバイスだ。

 そもそも探偵事務所を開いたってすぐに客なんてこないだろう。便利屋も同じだよ。そう不安げな顔をしなさんな。依頼を集めたいなら、犬探しから始めるのはどうだ?」

 騙されたと思って試してみよう。そう言って巨体を揺らす遠上則武の姿は、やはりどこか胡散臭い気がした。


*****

 犬には血統書というものがあるそうだ。

 血統書付きの犬とそれ以外の犬では取引価格が異なる。血統書があれば高い。

 おそらく、飼い主の犬への執着も、取引価格に比例する傾向があるだろう。そうだとすれば、迷い犬探しの依頼は大抵が血統書付きの犬に違いない。

 そして、そういう犬は目立つからすぐに見つかる可能性が高い。


 遠上に探偵業計画を否定されて2週間後。音葉と紅は、遠上の犬探しに関する適当な説明を信じ、便利屋の仕事を始めた。といっても、本格的な事務所を構えられるわけでもない、とりあえずはマスターに頼み込んで、「マボロシ」のカウンターに小さな広告を置かせてもらった。

 そんな経緯で始めた犬探しだが、実際に始まると依頼のほとんどが血統書などない雑種犬の捜索だ。当然、遠上が言うような目立つ見た目の犬はいないので、一匹捜索するにも時間と労力がかかる。

 雑種犬であっても依頼人はそれなりの報酬を支払ってくれるのは意外であったが、ノイズ探しに役立っているのかは紅にはよくわからない。

 ともあれ、少なくても2ヶ月で10匹の犬を見つけ出した音葉には犬探しの才能があると思う。

「でも、君たちを見つけるのと同じくらい、あっちのお世話になるのもどうかと思うんだよね」

 紅はしゃがみこみ、箱に入った茶色い子犬の頭を撫でた。目を閉じてくぅんと鳴き声をあげる様子がかわいい。

「もう少し待ってね。音葉が戻ってきたら飼い主のところに連れて行くからね」

 子犬に声をかけるが、経験上、音葉はあと数時間は戻ってこないだろう。気になって建物の方を伺うと、入口に立つ警官がこちらを視た気がして、紅は慌てて警官に背を向けた。

 もちろん、警官たちも紅を監視しているわけではない。ここは、警察署で、彼らは署の入口の見張りをしているに過ぎないのだから。それでも、警察署の前で二時間近く子犬と戯れる女について、そろそろ怪しいと思い始めていてもおかしくない。

 願うことなら、見張りの警官にも『犬探しの賞金稼ぎ』の噂が流れていてほしい。


 見つけた犬は2ヶ月で10匹。捕らえた犯罪者は2ヶ月で6人。犬探しの仕事は、音葉の下に犬と一緒に空き巣、車上狙い、ひったくりといった犯罪の現場も引き寄せた。

 犯罪を見過ごすのも気分が悪いため、私人逮捕を続けた結果、警官の間では犬探しの賞金稼ぎと噂されるようになってしまった。犬と犯罪者を見つけるたびに警察署に赴き、逮捕のときの事情を調書に残している。

 身元に関しては深く尋ねられることはないが、遠上の言うとおり、戸籍の偽造などに着手しなくてよかったと胸をなでおろす日々である。もっとも、それはそれとして記憶喪失とわかるとあらぬ疑いをかけられそうで、聴取の度に気が気でない。

 今日、音葉の聴取を担当するのは盗犯係の小手川三広(コテガワ-ミツヒロ)巡査部長だ。小手川はまだ三十代前半で若い。短髪に揃えた髪に、灰色のスーツ。捜査のために現場を歩き回るのだろう、革靴はよれているが、本人は健康的な肌つやをしている。

 過去に2回ほど聴取を受けたが、事情聴取中は常に温和で気さく。こちらの話の意図を酌んだ調書を作ってくれる印象がある。

 裏を返せば、事情聴取全体においては小手川がイニシアチブを持っている。彼が意図する方向へ音葉の話を誘導することに長けているともいえる。あまり気を緩めてしまうと余計なことまで話してしまいかねない男である。

「なるほど。逮捕の状況はよくわかりました。これなら逮捕の有効性を争われることもないでしょう。やっぱり6人も現行犯逮捕をしていると、私人でも手慣れてくるものだねぇ」

 数時間前、子犬を見つけた時に空き巣と遭遇した状況が、小手川の手によって調書に起こされていく。しかし、今日の小手川は、もう少し音葉に質問したいようである。右手に持ったペンを回転させながら思案顔で音葉と調書を見比べている。

「ところでさ。これは調書に書く話ではないし、疑っているわけでもないんだけど、久住さんはどうしてこんなに犯罪の現場に出くわすんだい?」

 いずれ誰かから尋ねられると思っていた。だが、音葉にもよくわからないのだ。

「コツもなにも、僕と紅は犬探しをしているだけで、犬が現場にいるから、僕が犯罪者と遭遇する。そういうことなんじゃないかと」

「運がいいのか悪いのかわからないね。こんなに何度も犯人を連れてくる人も珍しいし、久住さん、まるでドラマに出てくる探偵みたいだって噂になっているんだよ。犯罪の匂いを嗅ぎ付けるコツがあるなら教えて貰えって、先輩が茶化しててさ」

 そんなコツがあるのなら音葉が知りたい。全力で犯罪の現場から遠ざかり、警察署へ足を運ぶ回数を減らしたい。

「確かに。そして僕たちが久住さんみたいな一般市民に助けられることなく犯罪者を逮捕出来れば、お互い平穏な毎日かもしれないねぇ。さて、気を取り直して調書の読み聞かせを終わらせてしまおう。外で待たせている水鏡さんにも悪い」

 どうやら、音葉の心は声に出ていたらしい。小手川は笑いながら書いた調書のページを確認し、音葉への読み聞かせの準備を始めた。手続が終わるまであと2,30分といったところだろうか。


「その犬かわいいな」

 陽が傾きはじめ、上着なしでは寒くなってきた。動物を署内に持ち込むと受付の警官に叱られるので、なるべく外で待っていたいのだが、これ以上時間がかかるなら犬と一緒に避難したい。紅は子犬を入れた箱を抱えて身体を温めるために足踏みを繰り返していた。

 すると、警察署から出てきた茶色のスーツを着た恰幅のよい男が紅の前で立ち止まった。箱の中の子犬を覗き込んでにこりと笑顔を見せる。頻繁に警察を訪れているが、目の前の刑事は見たことがない。

「誰?」

「通りすがりのおっさんだよ。その犬、君の犬か? 随分とかわいいじゃないか」

「えっと、おじさんに関係ある?」

「関係ないなあ。ただ、もし迷子犬なら引き取ってもいいかもしれないと思ってね」

「それは残念。この子の飼い主は決まっているので」

「残念だね。ところで、随分長くここにいるみたいだが、誰か待っているのかい」

 突然話しかけてきたことといい警戒すべき相手のように見えた。紅の警戒心が伝わったのか、男は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。子犬に向けた顔に比べて随分とぎこちない。

「怪しまれちゃったようだな。君、あれだろ。『犬探しの賞金稼ぎ』の相棒」

「おじさん、ここの刑事さんか何かなの」

「相棒ということを否定はしないのか。僕は刑事でもなければ警官でもないよ。警察署に相談にきた善良な一般市民の一人さ。今日は相談事を無下に断られてしまってね、失意に満ちて帰宅しようとしたら、そんな可愛い犬を抱えている女性がいるのだから、つい声をかけてしまったという次第さ」

 この男は紅を『犬探しの賞金稼ぎ』と噂されている久住音葉の仲間であると知っていた。男の説明は、紅に声をかけた事情をまったく示していない。

「結局、おじさんは誰なの」

「お、おじさんに興味持ってくれた。私はね、こういうものなんだ」

 男は紅に一枚の名刺を差し出した。市役所市民相談室の主任 木曽尾道(キソ-オノミチ)。

「知り合いの刑事から噂を聞いてね。君と久住音葉さん、犬を探す才能があるっていうじゃない。私はね、君たちのその犬探しの才能を買いたい」

 どうやら、この人は音葉の依頼者らしい。

 犯罪者逮捕よりも犬探しのほうが儲かる。警察内の妙な噂が日々の活動費につながるのならありがたい限りだ。紅は、木曽に向けて精一杯の笑顔を作った。

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