たいらは小説が書きたい
たいら
たいらは小説が書きたい
朦朧とする意識の中でおいらはある決断を迫られていた。
小説を書くべきか、書かないべきか。
「あー今日も全然書きたいネタ思いつかないじゃん」
その日もそう言っておいらはノートPCを閉じた。なんとなく小説が書きたいと思っていたが、書き方もテーマも全然思いつかないのだ。
「コンビニでポテチでも買ってくるじゃん」
そう言っておいらは重い腰を上げた。
「小説のネタって道ばたに落ちてたりしないかしら」
そう言いながら道を歩いていると、何か光る物を見つけた。
「なんぞこれ……なんだ、ただの万年筆じゃん」
古めかしいがちょっと高級そうな万年筆だった。ネコババしようかと拾った矢先に、突然耳元で女の声が囁いた。
「フフフ……触りましたね……触ってしまいましたね……」
その声はゾッとするほど冷たく、おぞましい響きだった。おいらは驚いて後ろを振り返った。
しかし、その姿を見る間もなく、おいらは物凄い力で頭を締め上げられた。
「痛い痛い痛い痛い痛い!!」
頭から割れるような激痛が走った。どうやらフロントヘッドロックを極められているらしい。締め上げる腕は万力のような力で、おいらはどうにも抜け出すことができない。
「私はこの万年筆に宿る幽霊……小説家を夢見る普通の女子高生でしたが、不慮の事故により命を断たれてしまいました……私は成仏しようにも小説家への夢を諦めきれず、魂だけでもこの万年筆に宿り……最初に触れた方に私の代わりに小説を書いていただこうとここで待っていたのです……」
普通の女子高生は相手にヘッドロックかけながら物を頼んだりしないと思う。
「もし断れば、腹いせにあなたが死ぬまでずっとヘッドロックし続けようと思います……」
なんて怖ろしくて迷惑な幽霊なんだろう。
「さあ、どちらにしますか……? 私の代わりに小説を書くか……私のヘッドロックの餌食になるか……?」
言いたいことは色々あったが、意識はすでに朦朧としており声を出す気力もなかった。このままではあと10秒ほどでおいらの意識は途絶えるだろう。おいらは急いで決断しなければならない。
彼女の申し出を受け入れば、当然小説を書くことになる。おいらは小説なんて書いたことないし、書き方もわからない。ちょっと書きたいと思うこともあるが、結局はやる気が続かず途中でやめてしまう。
はっきり言ってめんどくさい。小説を書くくらいならおいらは別の事をして遊んで暮らしたい。
しかし申し出を断れば、おいらは一生ヘッドロックに悩まされることになる。この激痛が続くのはとても耐えられそうにない。
「スリー……ツー……ワン……」
彼女はなぜかカウントダウンし始めた。いよいよ決断の時が来たらしい。おいらは懸命に声を振り絞った。
「わかったじゃん……書くじゃん……小説……」
おいらは小説を書くことを選んだ。
「本当ですか……?私のヘッドロックから逃れるために適当に選択しただけではないですか……?」
彼女はさらに力を強めた。これ以上はマジでやばい。
「本心を言えばおいらもちょっと小説が書きたいと思っていたじゃん……書き方を一から教えてくれるなら書いてあげてもいいじゃん……」
「そうですか……それを聞いて安心しました……」
彼女は腕の拘束を解いた。しばらく頭痛が響いたがなんとか顔を上げることができた。そのときおいらは初めて彼女の顔を見た。
(えーめちゃくちゃかわいいじゃん!!)
漆を流したような艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、端正を極めた顔つき。どの部分を見ても「美少女」と形容するに差し支えはない。
この少女のどこからあんなゴリラパワーが出ていたんだろう。
おいらはこんな綺麗な子に取り憑かれるなら逆にちょっとラッキーとか思ってしまった。
「それではあなたには書いていただきますね……私の理想の……ガチムチハードゲイSM小説の傑作を……!」
うん……?
「あなたが書き上げるまでずっと離れませんからね……フフフ……!!」
(続かない)
たいらは小説が書きたい たいら @taira87
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