第3話 煮崩れハンバーグ
アタムとは、あのあと昼食を食べてから別れた。
「来年の二月頃には出ようと思うけど、まあ、考えといてくれよな!」なんてアタムは言っていた。
アタムと一緒に行きたい、という気持ちは自覚している。けれど。
暗い紺色の扉を開けると、すぐそこにおばさんが立っていた。
「ただいまー……」
「ハル。今日は給料日だったろう?」
「あ、うん」
「さっさとよこしな。……たく、イズミと関わって稼いだ汚い金でもうちに置いてやってるんだから、早く帰って手伝うんだよ」
おばさんは僕から受け取った給料を数えて「少ないねぇ」と舌打ちをした。
「これでも給料良いほうだから……」
「フン、早く晩御飯の支度をしな。追い出すよ」
少しでも口答えをするとこうだ。逃げるように台所へ行く。今日のメニューは煮込みハンバーグだ。
おばさんはナダヨミで、イズミを忌み嫌っている。違う性質を持っていることや対立の歴史から、お互いの種族のことを見下している人間はたくさんいる。
また、おおらかなイズミに比べ、ナダヨミの方が(おばさんのように)差別意識が強い。ナダヨミとイズミが共に住むこの街で、犯罪の被害者になるのは大体がイズミだ。
……あ、ハンバーグが崩れてしまった。
おばさんと向き合って、煮崩れたほうのハンバーグを食べる。
お互いに無言。たまらず隕石ラジオをつける。と、聞き慣れた声が聞こえてきた。司祭だ。
「……ナダヨミとイズミが協力し合うことで、この世界の可能性は一気に広がります。長い対立状態は二十年前に終わりました。にも関わらず、その協力姿勢は未だ整わないままです。みなさ……」
ブチッ。おばさんが乱暴にラジオを消す。
再び無言。おばさんは食べ終わると、何も言わずに風呂場の方へと去っていった。風呂場の扉が閉まる音を聞いてから、ラジオをつけなおす。流れてきたのはチープなバラードだったが、無音で食器を洗うよりは良い。
アタムはどのくらいの時間を旅するのだろうか。宇宙は広い。まだ未知の現象も多い宇宙に、たった一台のスペースワゴンで。
ついて行きたい。アタムのいない生活なんて考えられない。朝起きて、教会に行く。そこでアタムと会う。仕事をする。たわいもない話をして別れる。明日また会える……
けれど、世間の目はどうだろう。僕とアタムが旅から帰ってきた時に向けられる世間の目は。ナダヨミとイズミがつるんで旅から帰ってきた。なんであんなやつと付き合っているんだ。裏切り者、裏切り者……
結局、アタムについて行くか否かの答えは出せずに、年を越した。
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