第7話 葉蔵からの電話
少し早い夕食を食べて、風呂にも入り、後は寝るばかりという時に店の黒電話が鳴った。
骸は出られないから、当然私が出ることになる。
途中で切れないだろうか。そんな事を期待してのろのろと移動するが、受話器に手をかけても鳴りやむ気配はなかった。
「はい、九十九屋」
ぶっきらぼうに告げると受話器の向こうから知った声が聞こえてくる。
「あ、やっと出た」
「こんな時間に何の用だ、葉蔵」
「こんな時間って、まだ十時だよ。ほんと、おばあちゃんだよね、鈴音って」
「さっさと要件を言え」
相手が葉蔵と知って、私の言葉に遠慮が無くなる。それを気にした様子もなく葉蔵は続けた。
「鈴音、ニュース見た?」
「いや。骸が占拠してるんだ」
ちらりと座敷の方を見ると、骸が胡坐をかきながらバラエティー番組を見て大笑いしているのが見える。
私は小さくため息をつくと、葉蔵の困ったような笑いが聞こえた。
「あ、今日モノマネ選手権だっけ」
「あぁ、困ったもんだ。で、どんなニュースがあったんだ?」
「連続幼女誘拐事件。いや、殺人事件かな。
桜の下にあった死体、やっぱりその被害者だったって。
で、その犯人が捕まったらしいんだ」
「ほう……」
葉蔵に話を促すように、私が言う。
「それでね、刑事の友達に聞いたんだけど、犯人が変なもの持ってたんだってさ」
患者の間違いじゃないのか?
そう思いながらも、話の腰を折りたくなくて聞き返す。
「変なもの?」
あぁ、何だか話が見えてきた。私は受話器を持ち替える。
「そう。腕にね、女の子の使うような飾りゴム着けてたんだって。
被害者の女の子たちのものじゃないらしいんだ」
「それが花のだと? 強引すぎやしないか?」
「それだけじゃないんだ。その犯人ね、ゴム着けてる間に頭の中で声が聞こえたんだって。
今度はうまくやる。殺さない、って。
後は「ごめん」の繰り返し。話を聞く価値はあるんじゃない?」
「……、どちらにだ?」
「う~ん、両方じゃない? あ、場所分かる? 何なら適当に理由付けて案内してもらうようにするけど」
返事もしないうちから、葉蔵は私が行くことを前提に話を進める。
しかしここで言い返せば、「どうせ暇でしょ?」と言われるのがオチだ。
私はせめてもの仕返しにと、嫌味を言ってみる。
「いいのか、医者がそんな事ベラベラ喋って。守秘義務というのがあるんじゃないのか?」
「さて、何のことかな?」
葉蔵の涼しげな声を最後に、鈴音は受話器を置いた。
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