第7話『藤村子規ってマジやばいバカ!?』
「幕ノ内桜!ちょっと顔を貸してもらうぞ!」
廊下の陰から発せられた声の主を見ると、記憶が曖昧ながら、見覚えがあるキザったらしくて、少しなよっとした感じのやさ男が立っていた。
「誰だっけ?」
「は~っ、幕ノ内桜、俺を知らないのか?同じクラスだろ!」
それで見覚えがあるのか‥
でも名前が出てこない‥誰だったかな?
「同じクラス?お前みたいな奴いたかな?」
「いたよ!いや、いるんだ!」
「そうだっけ?名前が出てこない‥」
「藤村、
その男はどうだと言わんばかりに自分の名前を名乗った。
「藤村子規?知らないな‥」
本当にその名前に覚えがなかった。
「幕ノ内桜‥お前ふざけてるのか?」
ふざけてる?こいつ誰に物を言ってると思ってるんだよ!
「ふざけてるのはお前の方だ!気安く人をフルネームで呼ぶな!」
「‥そりゃ失礼、ん!幕ノ内桜、そんな口が利けるのも今のうちだぞ!」
「どういう意味だよ?」
「お前に話がある、顔を貸せ!」
「それが人にものをお願いする言い方なのか?本当にふざけるなよ!」
わたしは藤村のさっきからの口の利き方が頭にきて大きな声を上げた。
「いや、幕ノ内桜‥さん‥君にとっても悪い話じゃないと思うんだ、ちょっと時間をもらえないかな?」
「人にものを頼むの時はそういう言い方が正しいんだよ、だけどお前の相手をするほど暇じゃないから断る!」
「なんだって!断る?ふ~ん、そっか断るんだ‥それじゃあ仕方がないな‥」
藤村は気持ち悪いほどの微笑みでニヤッと笑うと、
「みんなに話すしかないね‥幕ノ内桜は桐山鳳太のことが大好きだってね!」
何言ってるんだ‥こいつ?
藤村子規‥一体何者なんだ?
「お前、何言ってるんだよ?」
「あれれ、顔色が良くないみたいだね?どうしたのかな?幕ノ内桜」
「何を言いだすかと思ったら‥そんなことある筈ないだろう」
わたしは平静を装って冷静に答えた。
「隠して無駄だよ、さっきもここで二人で会ってたよね?」
うっ!
幕ノ内桜一生の不覚、さっきの見られてたのか?まずい‥
「クラスが一緒なんだから話をしたって不思議じゃないだろ?」
「そうだよね、でも話なら教室ですればいいんじゃないのかな?こんな所でコソコソ話をするなんて、何か後ろめたいことでもあるのかな?」
藤村は勝ち誇ったように言った。
くっ!こいつ相当なバカだけど‥頭の回転は悪くないようだ‥
仕方がない、話だけでも聞いてみるか‥
わたしにも悪い話じゃないってどういう意味なんだ?
「わかったよ、とりあえず話だけは聞くよ」
「ハッハッハ!最初からそう言えばいいんだ、幕ノ内桜!」
「いいから早く要件を言え!」
「勘違いするなよ幕ノ内桜!立場は俺が上だからな、それと、俺は本来はお前みたいな単細胞とは話なんかしたくないんだ、それをわきまえろ!」
こいつバカか?こんなマジやばいバカの相手が出来るか!
「だったら帰る!」
わたしは藤村に背を向けてその場を立ち去ろうとした。
「わかった、待ってくれ!桐山鳳太が俺には目障りなんだ、だから協力して欲しい!」
「目障りだ?そんな協力なんかする訳ないだろう!」
わたしは振り返って藤村に叫んだ。
「だから単細胞って言うんだよ幕ノ内桜、俺は桐山鳳太に興味は無い!」
「じゃあ、何に興味があるんだよ?」
「お前、鶯原梅香は知っているな?‥俺は鶯原梅香と中学、小学校が一緒で住んでる所も近所なんだ、俗にいう幼馴染という奴だ。うちは代々茶道の家元の由緒正しい家柄で小学生の頃は彼女と一緒に合気道も習っていた。今は茶道一筋に日々精進してるのでやめてしまったが、鶯原梅香とは同じ
こいつ‥
何が言いたいんだよ、言ってる意味がさっぱりわからない‥
お前の方がよっぽど単細胞じゃないのか?
「ふ~ん、そっか、わかった」
「何がわかったんだ?」
「要するに、お前が鶯原梅香が好きで、彼女が桐山鳳太のことを追っかけまわしているからなんとかしたい、だから、わたしに協力して欲しいってことなんだろ?それともつ一つわかったよ、お前が合気道をやめた理由‥どうせ鶯原梅香に敵わなくて、恥ずかしくてやめたんだろ?」
藤村は驚いて顔を真っ赤にして言った。
「‥何でわかったんだ?単細胞のお前に」
単細胞はお前の方だ!
こいつやっぱり相当なバカだ、こんな奴、まともに相手にしてられない‥
関わるのはやめて、やっぱり帰ろう。
「悪いけど他を当たって、協力なんてしないから、じゃあね!」
「いいのかな?帰っても‥みんなにバラすよ桐山鳳太のこと!」
「いいよ、言いたきゃ言えば?‥お前みたいなバカの言うことなんて、誰も信じないよ‥」
「なるほどバカか‥確かにそうかもね?‥」
藤村はまた気持ちが悪い笑みを浮かべていた。
こいつ‥なんで笑ってんだ?
「幕ノ内桜、しぶといね、ここまで俺の手を焼かすとは、褒めてあげるよ」
「褒められても嬉しくないけど‥そりゃどうも、じゃあね」
わたしはバカらしくてその場を離れようとした。
「俺のことは信じてもらえなくても、これは信じてもらえるよね?」
そう言って藤村は制服のポケットからスマホを取り出した。
「何だよそれ?」
「これかい?昨夜のお前と桐山鳳太の密会現場を押さえた写真だよ、仲良くファミレスでお食事なんてうらやましいな‥」
「お前!つけてたのか!ストーカーかよ?」
「お前をつけてた訳じゃないさ、俺はずっと桐山鳳太がボロを出すのを狙ってたんだ、でも彼はなかなかボロを出さなかった。毎日、毎日遅くまでバスケの部活をして、彼のバスケに対する情熱には、さすがの俺も頭が下がったよ、彼は、桐山鳳太は俺が大好きな鶯原梅香が認めただけのことはあるってね、でも昨日の夜‥とうとうボロを出してくれた。昨日はいつもと違って部活が終わると、そそくさと帰っていったんだ。俺はピンときたね!これは何かあるってね、案の定、調布駅前のファミレスに入って、そこにはお前、幕ノ内桜がいた!俺は勝ったと思ったよ」
こいつ‥
やっぱりかなりのバカだ‥
三流サスペンスドラマの見過ぎじゃないのか?
でも昨夜の桐山との写真はまずい、どうするか?
「で、どうしろって言うんだよ、お前の作戦を教えなよ?」
「簡単な作戦だ‥まず、俺が鶯原梅香に幕ノ内桜も桐山鳳太のことを好きだということをリークする、梅香は頭がいいからお前を絶対に調べる」
「わたしを調べてもなにも出ないよ、桐山との接点なんて中学が一緒なくらいだからね」
「それで充分だよ、家も当然近所だ、そして最後に俺が梅香に決定的な写真を見せれば、桐山鳳太を諦めるだろう」
「そんなことで諦めるのか?あの鶯原梅香が‥それならとっくに諦めてるだろ?」
「どういうことだ?」
「藤村はまだ知らないと思うけど、さっき桐山は自分は相応しくないって、鶯原梅香に断りの返事をしたんだよ、でも諦めないって、これからも誘うからよろしくって言ってるんだぞ!」
「そうか‥確かに梅香は昔から一度決めたことは、頑として最後までやり通す性格なんだ、どうすれば‥」
まったく‥鶯原梅香、面倒なやつだな‥
ちょうどいい、鶯原梅香との勝負にこいつを利用するか‥
「いい方法がある、ただしリスクもあるけど‥」
「リスク?」
「話の腰を折るな、話は最後まで聞け!」
「ハイ‥」
「まず、うちの学校にお前と鶯原梅香の共通の女子の知り合いはいるか?」
「女子の知り合いか?いない‥」
「お前、女子の知り合いもいないのかよ?」
「こともない‥」
どっちなんだよこいつ、考えることなのか?
本当にいるのかよ?
「誰なのそれ?」
「
「どっちがアホだ?」
「う~ん‥」
「質問を変える、どっちが信じ込みやすい性格なんだ?」
「それは八橋菖蒲だな‥」
「じゃあ八橋を使う、まず八橋菖蒲に偶然にファミレスで鶯原梅香が想いを寄せている桐山鳳太を見かけたという話をする。あくまでもさりげなく話せよ、そして、桐山は他の女の子と一緒だったって言うんだ。桐山はそんなことするようなタイプじゃないから‥最初は信じないかもしれない、そこで昨夜撮った写真を見せるんだ、その写真は絶対に渡すなよ、見せるだけでいいからな、そして、これって桐山と同じクラスのわたし、つまり幕ノ内桜だって言うんだ。わかった?これで終わり、以上」
「‥たったそれだけ?」
「全部一から説明しなきゃダメなのか?お前本当にバカだな‥」
わたしはさっき藤村の頭の回転をまともだと思ったことを訂正した。
「いいか、一度しか言わないよ、まず、鶯原梅香の女友達を使うのは、女子はこの手の話が大好きだからだ、しかも友達の話だったら尚更親身になるから、そして藤村、お前の為でもある」
「俺の為?意味がわからない」
「お前は女子の気持ちがわかってないな?もし、お前が直接、鶯原梅香に話をしたら‥お前は鶯原梅香とは付き合うどころか嫌われてしまうよ、それでもいいのか?」
「何で?」
「自分の好きな男のそんな密会写真持って来るやつに絶対に心変わりなんてしないよ、お前は鶯原梅香にとってある意味、
「なるほど‥確かにそうかもしれないな」
「写真を直接、鶯原梅香に見せないのは、想像力を働かせてもらうため、写真はただ食事しているだけで、そんな親密そうに写っている訳じゃないから‥それを親密な写真にするには、直接見せない方が効果的だからだよ、想像力が膨らんで、きっと親密そうに写ってる写真じゃないかと考えるだろう。そして最後にリスクだけど、鶯原梅香が桐山に直接真相を確認したらこの話は終わりだ。わたしと桐山は単なるクラスメイトで、桐山は多分、正直にそのことを話してしまうからね」
「‥梅香が桐山鳳太に真相の確認をしたらどうするんだ?」
「それがリスクだけど‥多分それは無いと思う、鶯原梅香は相当にプライドが高そうだ‥桐山には聞かない、多分‥わたしの所に直接来るね」
「直接‥それでいいのか?」
「わたしは桐山と、周りの友達にバレなきゃ構わないよ」
「幕ノ内桜って勝負師だな‥肝が据わってるな‥」
「そりゃどうも、一つだけ約束してよね、絶対にわたしとグルだって誰にも言うなよ、そしたらお前は鶯原梅香とは終わりだからね、わたしも桐山とは‥そしたら一生恨んでやるからな、いいね?」
「わ、わかった‥約束するよ‥」
わたしは藤村と別れて一人で教室に戻った。
あんなやばいバカと組んで大丈夫なのか‥それが本当に心配だった。
藤村が言った勝負師‥本当にそうだと思った。
さて、どう出てくるか‥いよいよ鶯原梅香との
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