第19話『桜咲く!?』

四月になって桜が咲き始めた。

わたし、幕ノ内桜の恋も花開いた!


二年生になってクラス替えがあったけど、わたしと桐山は同じクラスなることが出来た。


念ずれば通ずって言うけれど、恋する乙女の力は強力だね!


桐山はこの春休みからバスケ部のレギュラーに昇格して、部活に忙しい日々を送っている。


「桐山、お・は・よ・う!‥それと、バスケ部のレギュラー昇格おめでとう!」


「ありがとう!幕ノ内さんのおかげだよ」


「謙遜しないの、桐山の努力の賜物だよ、それとまた同じクラスになれて良かった‥二年生の一年間もよろしくね!」


「うん!幕ノ内さんとまた一年間同じクラスなんだね!神様っているんだね」


「ほ~っ、神様ね?確かにそうかもね‥桜と桐山がね、まさか付き合うことになるなんてね‥でも二人はお似合いだよ」


横で聞いていた菊乃がわたし達の会話に割り込んできた。


「菊乃!今頃気付いたの?桐山はわたしがずっと目を付けてたんだからね、カッコいいし、お似合いに決まってるよ!」


「ふ~ん、そうですか?桜とはまた同じクラスになっちゃったし‥この一年もよろしくね」


「わたしの方こそよろしくね!でも菊乃寂しくない?鶴松も猪野萩も別なクラスになっちゃってさ」


「ようやくあいつらと腐れ縁が切れて清々してるよ、わたしも素敵な彼氏を見つけるからね!桜に負けられないよ!」


菊乃がわたしにウインクをして応えた。


「桐山君!おはよう!ようやく同じクラスになれたね!一年間よろしくね!あっ、ついでにそちらの幕ノ内さんもよろしくね!」


「おい!鶯原‥何どさくさに紛れて桐山にくっ付いてんだよ、桐山から離れろ!」


「えっ?あれ‥本当だ、いつの間に‥桐山君バスケのレギュラーおめでとう!良かったね、見てる人はちゃんと見てるんだよね!」


「ハハハ‥鶯原さん、ありがとう‥」


わたしは桐山の嬉しそうな態度と鶯原のわたしを無視した振る舞いに怒りを抑えることが出来なかった。


「鶯原!離れろって言ってるだろ、聞こえないのかよ!お前、彼女のわたしの前で堂々と何してるんだよ!」


「お~っ、怖いな‥桐山君さ友達として忠告するけど、桐山君にはこんな怖い人より、才色兼備でもっとお淑やかな、そう、わたしみたいな人がお似合いだと思うんだよね、今からでも遅くないから、こんな野蛮な人はやめた方がいいと思うんだけどな〜」


「く~っ、自分のこと才色兼備とか言うかな?鶯原‥いい加減、桐山のことは諦めな!」


「そうはいかないわよ!桐山君は騙されてるの、幕ノ内さん以外の人なら諦めもつくけど、あなたみたいな人、絶対に桐山君に相応しくないから‥それに、わたしあなたに負けてるところなんて、一つもないんだからね!」


「鶯原!新学期早々、わたしに喧嘩売ってんのか?」


「あら‥喧嘩なんて野蛮な、でも売られた喧嘩は買いますよ!言っときますけど、わたし合気道の有段者だからね!幕ノ内さんが怪我するだけよ」


「くっ!‥その言い方、ますます腹立つな‥」


「桐山君、この人が嫌になったらすぐに言ってね、わたしは気が長いから、いつまでも待ってるからね!この一年間よろしくね!」


そう言うと鶯原香梅は笑みを浮かべて自分の席に戻っていった。


「菊乃‥今の聞いた?何あれ‥超ムカつくよね!」


「は~っ、また変なのが同じクラスになっちゃったな‥桐山を好きになる子ってみんな頭のネジがどっか抜けてるよね」


菊乃が大きなため息をついて言った。


「菊乃までそんなこと言うの?」


「桐山さ‥大変だよこの先、お願いだから上手くやってよね」


「ハハハ‥高杯さん、何かあったら助けてね‥」


「桐山、笑ってる場合か?桐山がハッキリ断らないで友達とか言ってるからなんだぞ!鶯原と絶交してこい!今すぐに!」


「絶交‥いくらなんでも、それは穏やかじゃないな‥」


「穏やかじゃないのはあいつの方だよ!桐山‥まさか鶯原の肩持つんじゃないよね?」


「えっ?そんな訳ないよ!僕は‥」


「僕は?僕は何だよ!?」


「桜‥それ殆ど脅迫だよ、桐山困ってるよ」


菊乃が呆れたように言った。


「困ってる?困ってるの桐山?」


「高杯さん、大丈夫だよ!僕は幕ノ内さんが好きだから安心してよ」


「本当だよね?‥桐山」


わたしは桐山に念を押した。


「うん、本当だよ、僕がお願いしてようやく彼女になってもらったんだから、これからもよろしくね、幕ノ内さん」


「桐山!ありがとう‥」


「桜‥夫婦漫才は他でやってよ、ここは演芸場じゃないんだからさ‥」


「ハハハ‥菊乃、夫婦になるのはさすがにまだ早いよ~」


「いやいや、そう言う意味じゃなくてさ‥」


菊乃が呆れた顔をしている。


ちょっと調子に乗りすぎたかな‥

春の陽気ですっかり気が緩んでいるな‥

いけない、いけない、気をつけないと‥


桐山の表情を見るといつもと変わらず涼しい顔をしている。


「オッス、桜!」


「すすき、あれ?同じクラスじゃないよね?」


「いやだな、やっぱり隣のクラスだよ、隼人も一緒なんだよ」


「へ〜っ、雁野も一緒か‥相変わらず仲がよろしいようで」


「桜もね!まさか桜が桐山君とね‥でも桜は見る目あるって思うよ」


「へへへ、そうでしょ‥おっと、そんなことより何か用事かあるんでしょ?」


「桜に相談があるんだけど、今日の帰る前ちょっと時間ちょうだいよ」


「相談?」


「そう、桐山君も一緒にね!じゃあまた後で来るからね!」


そう言ってすすきは教室を出て行った。


「何だろうね?すすきの相談って、桐山

どう思う?」


「そうだね‥何だろうね?」


体育館での始業式を終えて教室に戻ってくると、短いホームルームで今日の日程は終わりだった。


しばらくして教室にすすきがやって来た。


「悪いね、桜」


「ううん、すすきの相談って?」


「桜さ、バスケ部に来ない?」


「バスケ部?」


「そっ、わたしと一緒にマネージャーやらない?」


「マネージャー?わたしが?」


「うん、桐山君もその方が嬉しいでしょ?」


すすきが桐山を見て言った。


「ハハハ‥そりゃ嬉しいけど、マネージャーは大変だからね」


「桜、せっかく桐山君と付き合ってるのに、バスケ部の練習遅いから一緒に帰れないでしょ?だからマネージャーをやれば一緒に帰れるよ、それにしっかり桐山君を見張ってないと悪い虫が付くかもよ?」


確かに‥

桐山は最後まで残って相変わらず練習を遅くまでしてるしな‥


鶯原梅香も桐山を諦めてないようだし、また一緒に帰ろうとか誘ってくるかも知れないな‥


「桜、ちょっと真剣に考えておいてよ!よろしくね!」


そう言うとすすきは行ってしまった。


「桐山どう思う?」


「どうって‥その‥気にしなくていいんじゃない?」


「どうして?」


「マネージャーは大変だし、幕ノ内さんには‥」


「なに桐山?わたしには無理だって言いたいの?」


「いや、そうじゃなくて、僕のために無理して欲しくないんだ‥帰るの遅くなるし、高杯さんとかと一緒に帰れなくなるよ‥」


「桐山‥」


「だから‥無理しなくていいよ」


「無理すればいいんじゃないの‥桜?」


振り向くと菊乃が立っていた。


「菊乃‥」


「わたしと桜はそんなことで無くなる友情なんかじゃないからね!ようやく桐山を物にしたのに、隙見せたら鶯原に横取りされちゃうよ!」


「菊乃‥いいの?」


「いいも悪いもないよ、桜が選んだ道でしょ?わたしは大賛成だよ!桐山もそう思うだろ?」


「高杯さん‥ありがとう、幕ノ内さんさえ良かったら‥是非お願いします」


「しょうがないな‥菊乃にそこまで言われちゃね、わかったよマネージャー件は引き受けるよ、でも、菊乃と一緒に帰る日もわたしは作るからね、いいでしょ桐山?」


「もちろんだよ、ありがとう幕ノ内さん」



それからわたしの高校生活は一変して忙しくなった。


「桐山、部活行くよ!試合近いんだから気合い入れてよね!そうしないとまた補欠に逆戻りだからね!」


「うん、わかってる、頑張るよ!」


「相変わらず桜は厳しいな‥桐山はよくやってるよ」


菊乃が桐山に同情するように言った。


「菊乃、厳しいけどこれは愛情の裏返しなんだよ、せっかく獲ったレギュラーの座なんだから、なんとしても守らなくちゃね!」


「桜‥自分から愛情の裏返しとかよく言うよね‥」


「高杯さん、大丈夫、幕ノ内さんはいつも僕をちゃんと見ててくれるからね」


「ハイハイ、相変わらず仲がいいことで‥早く行きな、桜も桐山も頑張ってね!」


菊乃がそう言って手を振りながら笑っていた。


「桐山、さあ行くよ!」


わたしは桐山の背中を叩いて言った。


「うん、気合い入れて行こうね!」


わたしと桐山は教室を出ると体育館へ向かって廊下を歩き出した。


廊下から見える桐山が鶯原梅香に告白された中庭には桜が満開に咲いている。


桜の季節になったんだな、ようやくわたし、幕ノ内桜にも春が来たんだ!


わたしと桐山は見つめ合うとお互い笑顔になった。


校舎の中は春の穏やかな風が優しく吹き抜けていた。

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