1-4
◆
空が白む。明けの明星とも相応しい星の輝きが夜が終わっていく空に燦然と輝く。
観光施設としてすでに機能していなかった遺跡一帯は一夜で、巨大な地盤沈下により大地に飲み込まれるようにその姿を変えている。
「……ん?」
肌寒い風に身震いを一つしてからヒュウは眼を覚ます。
どれくらい寝ていただろうか。
全身が軋むように痛いなかでゆっくりと顔を起こしてヒュウは辺りを見渡す。
地盤沈下を起こした場所から凡そ数メートル離れた草原の上だ。
地平の彼方である草原の向こうからゆっくりと日が上ってくる。
「何してたん……そ、そうだ! 俺のレイ・ドール!! ん?」
思い出したように草の上から体を起こしたヒュウからカードが一枚こぼれる。
それを拾い上げたヒュウはマジマジと見た。
縦長のカードにはあのオリジンが一枚の絵としてそこに収まっている。
「レイ・カード……」
レイ・ドールを所有するライダーが、自身の愛機であるレイ・ドールをカード化させたものだ。それはライダーならば例外なく持っている。
そしてそれを持っていると言うことはヒュウもまたレイ・ドールを駆るライダーとなった証だ。
「よっしゃ! こいつが俺様のレイ・ドールだ!!」
世界を照らす輝きを放つ太陽にカードを突きつけるようにしてヒュウは叫んだ。
「見とけよ! こいつで冨も名声も手に入れてやる!
俺の時代にしてやるからな!」
今まで自分のしたいことがあっても、レイ・ドールが無いと言うだけで避けようのない壁がヒュウの前にあった。
しかし、今は違う。
その壁を越え、その先に行く手段が手の中にある。
カードは日の光を浴び金色に輝く。
◆
ヒース国の中央となるヒース城。巨大な庭園に囲まれた城の壁を音もなく蒼白の光が駆けあがり窓が開くと同時にその光は消える。
「一度ならず二度までも。
勝手に出かけるなどこれっきりにしてくださいよ。もしもあなたの身になにかありましたらそれこそ大変なのですから」
整った鼻梁のジールは溜息交じりの声で抱きかかえたリンダラッドをゆっくりと床へと降ろしてから、レイ・カードを懐にしまう。
豪奢な装飾品に囲まれた一室。ドアノブ一つ、コップ一つ。どれをとっても値がつけがたいほどの品物ばかりだ。
ここにヒュウが居れば涎を垂らしながら喜ぶ姿が容易に想像できたリンダラッドは小さく笑ってみせた。
「いやー、申し訳ないね。まさかこんな危ない目にあうとは思わなんだな。でもジール、君が助けに来てくれて助かったよ」
「命令さえ頂ければいつでも私が遺跡探索をします。ですから──」
「わかってる。わかってる。でも君には大事な遠征があったじゃないか。そこに私事で横槍を入れるような真似を僕がしたらお父さんだって許してくれないからね」
肩を竦めるようにしてリンダラッドは笑みを浮かべた。
護国において最強の盾であり矛の存在であるジールを身勝手気ままに動かす事はできない。
「ですけど良かったのですか?」
「なにが?」
小首を傾げたリンダラッドは神妙な顔つきのジールを見た。
「オリジンであるレイ・ドールをあのような下賤な者に預けといてしまって。
命知らずのヒュウ=ロイマン。
仕事に信条や矜持などなくただ金のためだけに働く男。そのようなものにオリジンを渡しとくなど。なんならこの私が力ずくで奪ってきても──」
「でもオリジンが彼を選んだんだ。彼をライダーとして認めたんだ」
八重歯を見せつけるようにリンダラッドは笑う。
あの我儘で強欲で、金と宝のためならば己の命すらも平気で分の悪い方へと賭けてしまう男。その強欲なレイを選んだのは間違いなくあの遺跡で眠ったオリジンだ。
「君も見ただろ。あの赫金の力を。
彼でなければ扱うことも出来ないのは事実だし今はまだ預けておこう。
面白そうな逸材だよね」
日が地平線の彼方から姿を現し、夜は朝に追いやられていく。
城門の向こうにずっと広がっている未だ見ぬ世界を見るかのように、リンダラッドは窓際に立つ。その碧眼は煌々と輝く。
新たな一日が迎え入れる世界で高揚感を抑えきれないリンダラッドは一層笑みを濃くした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます