1-2
◆
夜は深くなるほどに空に浮かぶ星々の輝きが増し、世界は幻想的な色を強めていく。国民達はみな夢のなかを泳ぐかのように昼の騒がしさは消えている。
ヒース国の広大な城下町を護るかのように囲った堅牢にして巨大な外壁。そこから一歩出ればそこは雄大な農地と果てない道だけが地平の彼方まで続いている
薙ぐ風に揺られた草の擦れ合う音すら騒がしく思えるほどの静寂を噛みしめながらヒュウはいまだ正体の分からない依頼人を待っていた。
「城門の裏って、ほんとにここで良いんだよな?」
多少不安に思いながら頼りならない記憶を思い出しながら約束の場所を確認する。
「おっ。はやいはやい。感心したもんだ」
あてにならない記憶だが、そこにレインが来た事でヒュウは安堵の息を吐き出す。
「んで護衛対象は?」
「こちらだ」
「ん?」
レインの後ろに隠れるように立っていたそれはゆっくりと前に出る。全身ローブで覆い顔すらまともに見えないが小柄だ。
「こっちがあなた様をお守りする何でも屋のヒュウ=ロイマンだ」
依頼人である相手にレインは腰低く喋る。
「なるほどね。噂にはよく聞き及んでるよ」
──子供?
声は高く少年か少女か判別のつかない声だ。
思わずヒュウは眉を顰めた。
大金のかかった仕事だ。どれだけの要人が出てくるのかと思えば出てきたのは子供と見まがうほど小柄な依頼人だ。
この仕事から漂うきな臭さが一層香り立つ。
「仕事の条件は以前伝えたとおりだ。
この方の護衛だ。
これからある場所へ行って帰ってくるまで守る。それがお前の仕事だ」
「ある場所ってどこだよ?」
「そりゃ俺も聞いてない。直接この方から聞くことになるだろ。それじゃあ俺の仕事はここまでだ。実務はお前の仕事だ。じゃあよろしく頼んだぜ」
レインは知ってる情報だけを口早で一方的に語っていくとその場を走り去る。
「おーい……」
残されたヒュウにはわからないことだらけだ。こんな得体の知れない奴と二人っきりなど溜まったものではない。
「で、どこに向かうんだ?」
二人っきりになり風の流れる音に耳を傾けていたヒュウが焦れるかのように口を開いた。
「俺はどこに行くか。なにからあんたを守るのか。そんなことを全く聞かされずに来たんだぜ。その辺を是非聞かせて欲しいもんだな」
「ふっ」
依頼人は鼻で笑うような声を小さくこぼして顔を上げた。目深に被った薄汚いローブの奥から青い双眸がヒュウを見つめてくる。
「仕方ないさ。仲介人の彼には何も伝えてないのだからね。ただの僕の護衛。それだけしか彼は知らないのだから。僕の顔すら知らないよ」
少年とも少女とも判別のつかない幼い声。それでいて語調ははっきりとし、語る言葉には一切の濁りがない。
「さて、こんな暑苦しい恰好もいい加減やめようか……」
喋りを続ける依頼人はおもむろに頭を覆うようなローブに手をかけ顔を星空の下に晒す。
冷たく、澄んだ青い双眸と短く整えられた白髪は月の光を受ける。
顔を見ても中性的で男か女かまるで区別のつかないヒュウは思わず体を上から下までゆっくり見るがそれでも判別できない。
「改めて自己紹介させてもらおう。僕の名前はリンダラッド。これ以上のことは言えないけどよろしく」
「そっちは俺のこと知ってるみたいだな。ヒュウ=ロイマンだ。そんでどこに行くんだよ?」
「ヒース遺跡」
「ヒース遺跡?」
名前は知っている。
街外れの丘に野ざらしとなった遺跡であり、オリジンと呼ばれる特別製のレイ・ドールがかつて発見された場所だ。
しかしそれも遥か昔の話しであり、今では名ばかりの観光施設の一つとして扱われてる場所に過ぎない。
「そんな老人の散歩コースみたいな場所行くのに俺に護衛を頼んだのか?」
「そうだ。何か不満でも? 僕が知ってるヒュウ=ロイマンは金にがめつい男だと聞いているから、楽な仕事なら何一つ不満のない話しだろ」
「まあな。確かにそうなんだけど……」
どこか釈然としないヒュウは噛み合わせが悪いかのように口をもごもごさせながら頷く。
目の前に落ちてる金は有無もなくネコババするのがヒュイの信条だが、幾多もの死線を潜ってきた勘だけがその大金が腑に落ちない。落ちている金が罠かそうでないか。その判別のつかない人間に与えられるのは死。そういう仕事をこなしてきた。
「さて、仕事時間は半日の護衛だ。
今から朝日が出るまでしっかり僕を護ってくれ」
「……ああ」
幾ら考えてもしょうがない。
金持ちの道楽と思い込む事で無理やり納得させたヒュウはリンダラッドのはきはきとした言葉に力なく頷く。
「着いたな」
護衛と言うのはその対象が危険に晒されると言うことを予想し事前に配備されるものだ。
そんなことをヒュイが考えているうちに遺跡の入り口まで到着してしまう。
──護衛とは……。
当然と言えば当然だ。
遺跡までの道は整備されている。ましてや夜だ。
道を塞ぐ運送のレイ・ドールも居なければ、世間話しに興じてくる人々もいない。
街外れの丘と言っても城門を出てから歩いて二〇分もあればついてしまう。
「なんだか呆気ない仕事だな」
「何を言っているの。君には僕を守ると言う大事な仕事があるから」
「て言ったって、こんな観光名所の遺跡に危険もくそもないだろ」
「仕事はこっからが本番だよ。行こう」
高い声を出したリンダラッドは今にも壊れ崩れてしまいそうな石門を潜り、力なくため息を吐いているヒュイを手招きする。
観光名所などと呼べば聞こえは良いが、それは既に形骸化したものであり、実のところはただの廃墟だ。
「こんな場所にわざわざ護衛なんて連れてくる必要ないだろ」
レイ・ドール一体がゆうに通るほどの巨大な門を抜けるとヒュウは愚痴がこぼれる。
遺跡と呼ぶには相応しく、理解不能な記号を刻んだ石碑が等間隔で奥まで並んでいる。
星空の光で照らし出された遺跡はあまりに殺風景であり、ヒュウの興味をひくものは一片もない。
「何が悲しくて夜中にガキと二人で遺跡見学なんぞせにゃならんのか」
「君は知ってるか?」
リンダラッドはおもむろに振り向きヒュイの顔を見上げた。蒼く大きな二つに瞳が星空の下で輝く。
「人類がレイ・ドール製造技術を手に入れるための足がかりともなった最初のレイ・ドール。通称オリジンがかつてここには崇拝されてた」
「あー……そんなことガキの頃に習ったような習ってねえような……」
人類が最初に手に入れたレイ・ドール。その始まりなどヒュイにとって興味のある昔話ではない。なぜならば、金の匂いがしない。この一点に尽きる。
「ここが一番最後か」
かつてはオリジンが飾られていたであろう窪みの残った巨大な石壁が二人を迎える。
入り口の門を抜けて数分も歩けば石壁であり、その後ろは遺跡の終わりを雄弁に語るかのように地平の彼方まで草原が続いている。
観光名所として機能せず形骸化したのもこうして歩いてみると良く分かる。
歴史学者ならばともかく、子供や他所の国の奴が出向いてまで見たいと思える場所ではない。
大したスケールでもなく、壁や窪みを気持ち程度保護するかのような綱で区切ってある程度のものだ。
「こんな場所に来るだけなら別に俺なんて必要なかったな」
「なにを言ってるんだ。君の仕事はここから先だよ」
リンダラッドはにっこりと笑うとその張られた綱の下を抜け巨大な石壁に触れる。
「こんな壁に何があるってんだ? まさか砂金でも取れる訳じゃあるまいし」
「それ以上のものが取れると思うよ。少なくとも僕にとってはね」
「へえ。じゃあ何を探してるのか教えてくれねえかな? 出来れば俺もそれにあやかりてえしな」
「行けばわかるよ。君は依頼通り、僕を護衛してくれれば良いから」
巨大な壁を見つめたまま微動だにしないリンダラッドはヒュウの言葉に答えにならない返事をしながらその細く白い指先でそっと撫でる。
付着した砂が払われ、その下からは幾多もの記号が露わになる。
石碑に刻まれたものと同様の記号がうっすらとだがヒュウにも見える。
星空の灯りだけを頼りにリンダラッドはその文字を追うかのようにゆっくりと指を横へと滑らせていく。
「確かこの辺に……あった!」
細長い華奢な指が文字を指先で探ると僅かな凹みを見つける。リンダラッドはそこを押し込む。
──ズッ……
何かが噛み合わせがずれるような音が遺跡に響く。
「な、なんだ!?」
突然の地鳴りにヒュウは咄嗟にリンダラッドの小柄な身体をマントで覆い、腰に携えた銃に手をかける。
その振動の正体がわかるまでおよそ十秒。額に浮かんだ冷や汗を拭うヒュウの目の前で巨大な石壁はゆっくりと横へスライドする。
そこに現れたのは深い闇の底へと続く石階段だ。
正体を露わにした通路の左右に火が灯り二人を誘うように通路の奥までその火は等間隔で並ぶ。
「ずいぶんとお出迎えの準備が良いことで」
小高い丘の頂上で野晒しとなりいまや観光施設としてすら機能しない遺跡の下にこのような階段があるだなんて誰が想像しただろうか。
その底の見えない階段を前に思わず生唾を呑み込むヒュウのマントからリンダラッドは軽々と一歩飛び出す。
「さあ、僕をきちんと守ってね」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
にこりと屈託のない笑みを浮かべて階段を降りていくリンダラッドをヒュウは追いかける。
◆
仕事内容によっては非合法であり、命を賭さなければならない場合が往々にしてよくある話しだ。ヒュウはそう言った仕事をこなし大金を稼いできた。
羽織ったマントに刻まれた、金貨で頭蓋をたたき割られた骸骨は、命を天秤に賭けて仕事をするヒュウそのものだ。
「うぉっ!!」
その骸骨の絵もいまや無惨と呼ぶに相応しく、狭い通路の両側から射出された幾多もの槍が貫いている。
「……」
リンダラッドを抱いたまま床に伏せたヒュウの頭上を紙一重で槍が通過し反対側の壁へと突き刺さる。
立っていれば、全身に隙間もないほど綺麗な串刺しが出来上がるだろう。
「こういう……わけか」
「こういうわけ」
組み伏せられるように下敷きになったリンダラッドがにこりと笑う。
命の危険をまるで感じていないかのような緊張感のない笑みだ。
「なるほど。こいつは確かに護衛だな」
槍が両側の壁に収納されると立ち上がったヒュウは僅かにくぼんだ床を見た。
先を歩くリンダラッドが床を踏みくぼませたと同時に左右の壁から大量の槍が突き出された。侵入者を殺すと言う明確な目的のもとで作られた紛れもない罠だ。
「いやー、すまない。興味のあるものを見るとついついそっちに意識がいってしまうんだ。ほらあそこの文字など、かつて繁栄していた古代文明のもの──」
「勝手に飛び出すな。また罠を踏まれちゃたまらねえからな」
今にも走り出しそうなリンダラッドの首をむんずと掴んだヒュウは通路の奥を見た。
誘うように等間隔に灯った火が揺れている。
「ったく、上等だよ。報酬分はしっかり働かせてもらうか」
大量の槍によって見るも無残な布切れと化したマントをリンダラッドは脱ぎ捨てる。
歪な笑み浮かべ体に巻き付けられた武器の数々を晒す。
それらはリンダラッドが判別のつくものだけでも日用品から武器まで多種多様だ。
「そんなに色んなモノを持ってきてるのか!?」
「わからんことだらけの仕事に裸一貫で来るほど腕に自信はねえからな。なにが起きてもある程度対応しなきゃならねえだろ。命賭けるなら」
「さっきまでのやる気のない顔とは違って実に楽しそうだね」
「そりゃ……張り合いが出てきたからな」
──金。
張り合いの裏に隠れたそれを言葉にしなかったがヒュウの頭の中はその一文字が支配していた。
──前人未踏の遺跡があり、罠があれば、その奥に眠っているものがあるとすればそりゃ『宝』。それがお約束ってもんだ!
闇に潰れた通路の遥か奥から香ってくる金の匂いに心が湧き立つ。
高揚が抑えられない。
「さて罠がなんぼのもんだ! 俺が片っ端から叩き壊してやるよ!」
意気揚々と一歩踏み出したヒュウの鼻先を霞めるように槍の鋭い穂先が駆け抜けていく。
「君に死なれたら僕は大人しく帰らなきゃならないんだから。せいぜいしっかりと働いてくれ」
「わ、わかってるって……」
宝を侵入者から守るためのトラップの数。そしてその豊富さ。リンダラッドはそれ以上に、その罠を全て適切に解除、もしくは有無言わさず破壊していくヒュウに驚く。
「君には罠の位置がわかるのか?」
「簡単な話しよ。泥棒が嫌がりそうな罠ってのは泥棒が一番わかってるだけの話しだ」
「つまり君は今までにもこういう真似を……」
「してきたさ。金を手にするためには墓荒しや強盗だってしてきたさ。こちとら地獄の釜の底にこびりついた垢を舐めとるような生活してきてんだ。金のためなら何でもするさ」
「ふむ」
罠を解除しながらゆっくりと進んでいくヒュウの言葉にリンダラッドは小さく頷く。
金貨で割られた頭蓋の絵を思い出す。
あれは紛れもなくヒュウを象徴したものであり納得もできる。
「なんだ? そんな奴に仕事を頼んだを今になって後悔したのか?」
ごくたまにだがいる。
ヒュウのような罪を犯し道徳観念の薄いものに依頼したことを露骨に後悔してみる依頼人が。
後ろからついてくるリンダラッドも小柄だが、品の良い顔立ちや仕草。その一挙手一投足から富裕層の香りが嫌でも匂ってくる。
ヒュウを嫌い、ヒュウが嫌うタイプだ。
「いや」
即答。
試すようなヒュウの質問にリンダラッドはその小柄な顎に細い指を当て小さく頷く。
「この仕事は僕が頼んだものだ。君はあくまで金のために僕の仕事を請けただけ。それだけの関係」
わかりやすくも当然の利害関係。しかしそれをわざわざ言葉にするものは少ない。
罪の意識を抑え込むような美辞麗句や行為を正当化する建前。それらを口に出す素振りのないリンダラッドへとヒュウは向き直った。
「お前ってすれたガキだな」
「それは僕を褒めてくれてるのか? 貶しているのか?」
「褒めてんだよ。見た目はガキだけど肝はそこらの奴より据わってやがる」
「僕としても君のその強欲さは褒めるに値するよ。大金とは言えこんな秘密だらけの仕事を請けたのは君だけだ。君のそのお金への執着は他の人とは一線を画すものがあるな」
「ほっとけ」
ヒュウは口を尖らしながら返事する。
金への異常な執着。ヒュウを知る者はみな知っている。
そしてヒュウ自身もそれを自覚しているが、それが悪いこととはまるで思っていない。
「ガキに褒められても何も嬉しくねえ」
「君は僕を子供扱いし過ぎてる節があるな」
「見たままガキだろ。それともなにか? 実はそんな見た目で大人だって言うのか? だいたい歳は幾つだよ? それも秘密か?」
「……一〇歳だ」
「ほれみろ。見た通りじゃねえか」
僅かに頬を膨らますリンダラッドの顔は少年とも少女ともつかないが、年齢相応の顔つきだ。
「そ、そんな年齢なんてどうでも良いだろ! それよりも君は罠を破壊してさっさと前に進むべきだろ」
「前見ろ。壁だ」
ヒュウは前を指さす。
この通路一面を覆うだけの巨大な壁が二人の前に立ち塞がる。
「罠は?」
「全部破壊した」
「それじゃあ……」
リンダラッドは再び壁に顔を近づける。
既視感のある動きだ。
あの巨大な石壁が動いたときによく似ている。
「もしかしてこの壁も動くのか?」
「それは知らないよ。ただ、前回はここまで来てユーターンだったけど、今回は色々調べてきたからね」
リンダラッドの目が煌々と光る。
興味による探求。その衝動に満ちた大きな碧眼が壁を見つめてゆっくりと横へ動いていく。
「調べてきたってことは二度目か?」
「正確には三度目さ。
一度目は少々事情があって、この通路を見つけた際に探索する間もなく調査打ち切り。二度目は個人的に人を雇って来たんだ。今の君のように。ただ、その男は僕の目の前であからさまな罠に引っかかって重傷。ここまでは来たけどそれで終わり。探索も打ち切り。
三度目の正直が君ってわけだ。
君が有能で僕はほんとうに助かるよ」
「それで、この壁に来るのは二度目だけど、何を調べてきたんだよ? そろそろ話してくれても良いんじゃねえか? 何をしにこんな遺跡の奥まで来たのか」
報酬以上の香りが満ちているこの遺跡のなかでヒュウ自身、得られる情報のすべてを記憶し理解しようとしたが、ここが何のためにあるものなのか? そして罠は何を守っているのか。それがまるでわからない。
「オリジンと呼ばれる最初のレイ・ドール」
「ああ。入り口だった遺跡から発掘された奴だろ」
「そう。量産型のレプリカとは違って、その絶対的な力を持ったレイ・ドールがなんでも複数存在するらしい。僕も書籍なんかで調べたことだからいまだ最初の一騎以外見たこともないんで真偽は定かじゃないけど、面白い話しだと思わないか?」
「……」
ヒュウは満面の笑みになりそうな顔を隠すかのように踵を返し来た道を眺める振りをしてみせた。
抑えきれない高揚感から笑顔以外の表情が浮かべられない。
リンダラッドの話しの九割九分九厘が信じられない。だが、残りの一厘。
それが本当の話しならばこの仕事の報酬である十万ガルなど子供のお小遣いにもならないほどの宝だ。
「そ、そいつがあるかどうかの確認ってわけか?」
「そうだよ。本当ならばこの目で見ておきたいしね。僕は何でも自分の目で見たいんだ。本で得た知識は実験しないと気が済まないしね」
「へえ」
ヒュウは務めて冷静な声を出すと一度だけ腰に携えた銃に手をかける。
もし、この壁の向こうに言葉通りのドールがあるならばリンダラッドを脅してでも奪い取る。
心構え出来ている。あとは壁の向こうを見るだけだ。
「それで、この壁は開くのか?」
「うーん、どうだろう。一応調べてきた文献とかを参考にすれば開くもののようには思えるけど」
「なるほどな。ちょっとどけ」
「うわっ!」
壁に刻まれた微小の文字を眺めるリンダラッドの首をむんずと掴んだヒュウは後ろに放り投げる。
壁に手を触れ一度叩いてみせた。
「この程度の壁なら……ちょっと後ろ下がれ」
ヒュウに指示されるがままにリンダラッドは来た道を僅かに戻り壁から離れる。
何かを確信するかのようにおもむろに銃を取り出し構えたヒュウを前にリンダラッドは眼を丸くする。
「何する気だ?」
ここは青空の下に広がる遺跡ではない。長い階段をおり、罠だらけの通路を歩いた先の壁だ。四方は当然壁であり土に囲まれている。そんな場所で爆発など正気ではない。しかし銃を構えたヒュウの眼は真剣そのものだ。
「これなら五号呪弾で壊れるだろ」
「冗談だろ──」
弾頭に刻印が彫られ精製されたレイ式銃用特殊弾丸。細長いその弾をリボルバーに装填すると同時に銃は激しい音をたてる。
己の魂であるレイを原動力として打ち出すレイ式拳銃。
時代の進化の過程で消えていった代物だが、根本の技術はレイ・ドールと同じだ。
「ぐぅっ!」
体から力が奪われていく感覚。
ヒュウの全身からレイが光となり銃に吸われていく。その光を余す事なく込められた弾へと詰め込まれ、音は更に激しさを増す。
「うおりゃああぁぁ────ッ!!」
声とともに引き金が引かれ弾は閃光となり射出される。
一瞬の発光。
リンダラッドの視界が真っ白になると同時に爆発による轟音が遺跡内に響き渡る。
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