15話
星が見え始め夜の帳とばりが下りた頃、埋葬を終えたセルジオは再びダンジョンに潜る。
カンテラの光が照らす遺体の山は一見昼間と変わらないように思える。
しかし、夜のダンジョンからは何やら陽炎のような歪みを感じた。
怨嗟えんさの囁ささやきや啜すすり泣き、強い痛みで呻うめく声、恐怖に震え慄く声、喉を裂く狂気の叫び、さまざまな思いが聞こえる気がする。
セルジオは既に500体を越える遺体を埋葬していた。
そして、その霊が埋葬する度に彼を訪れる。
日常的、いやほぼ毎日幽霊と対面している。
とても異常な日常。
だが・・・・
ここまで来ると、逆に慣れない方がおかしい。
セルジオは最近、幽霊関連に対し、なにも感じなくなっていた。
怖い?
恐ろしい?
まったくそう感じない。
それどころか、いつも訪ねて来る知り合いの様に親しささえ感じている。
そんな心持だからか、一人で遺体を回収していても、日々の空耳も、まぁいつもの事かと聞き流している。
なので今更感満載、彼には酒場で毒づく酔っ払いの戯言レベルに聞こえていた。
『まぁ、死んでも誰にも弔って貰えなかったんだから、愚痴の一つも言いたいよな』
程にしか感じていないセルジオだった。
ゴロン
「結構重たそうだから、転がしていくか」
大人の目方めかた3名分もあろうかという重さのゴーレムの頭に石鋤をあてがい、箒で掃くようにゴロゴロ転がし坂を上がっていく。
長い坂道を掃きあげる。
そして、ダンジョンの入り口に足を掛けると、最後の一掃き。
ゴロリと地上に履き出した。
ドォム!!
相当な重さなのだろう地面半分ほど、めり込んでしまう。
「相当な重さなんだなぁ、日が昇ったらニーニャさんに見てもらおう」
そう言いつつも、長い坂道を地上まで運び上げた達成感と、掘り起こす面倒が重なり。
急速に関心が薄れていく。
しかもちょうど良い腰掛の様な岩に見えなくも無い。
セルジオは一仕事終え、フゥ、と溜息を付き、狭いながらも楽しい?我が家へ帰って行った。
星空の下、静かな畑の中、石棺を思わせる大石
古代語で『真理』と書かれてたゴーレムの頭が静かに月光を浴びていた。
・・・・
最近、セルジオの家なのに、同居人がまるで家主の様に振舞っている気がする。
いや、気のせいと言う事にして欲しい。
特に自分の寝床がいつの間にか台所の土間の隅。
彼が望んでベットを譲ったこともあるが、自分の扱いが番犬位の位置に成っていると感じる。
寝返りがうてない位の狭さで、朝には体中が痛い。
レェブラーシカが訪れた日、「わたしは殿方と一緒の部屋なんてイヤです!」と言い、ニーニャの「セルジオの部屋で寝たほうがいい」と言う提案をかたくなに拒絶し一人店の寝室で寝ていた。
しかし、ニーニャが経験したような事が起きる・・・・
と言う経緯で、今日は夕方からセルジオ宅にレェブラーシカも上がり込んでいた。
セルジオが家の戸の前に立つと、中から楽し気な話し声が聞こえる。
ニーニャとレェブラーシカが楽しそうにお菓子を食べながらセルジオを迎えた。
家主なのに、彼の分のお菓子は用意されていない。
お菓子は都から、ちんまい子がニーニャの為にと持ってきた物で、そもそも彼が居るとは爪の先ほども思い至らなかったからだ。
しょうがないのだが、少し寂しさを感じ、疲れた彼はそのまま藁に倒れ込み寝てしまう。
セルジオはたいして気にしない為忘れている、夢の中の暇乞い。
云前年ダンジョン内に縛られた魂の拝礼が、彼がダンジョンに潜る度、明方に静かに行われる。
はずだったのだが・・・・
未だ日の昇らない明け方、レェブラーシカの悲鳴で目が覚めた。
閉まったままの扉が時折何かガぶつかる様な音を立てる。
しかし、その戸を事もなげに通り抜け、50体?もの幽霊が元は狭い納屋の家に上がり込む。
幽霊の満員電車を想像して欲しい。
普通なら押し合い圧へし合い、圧迫感を感じるだろうが、相手は幽霊。
重なりダブって分けの解らない状態になっている。
いつもなら夢の中で、何の問題もなく去って行くのだが・・・・
そう、礼を言い消えて行くのだけの無害な幽霊なのだが。
始めてそれを見た彼女の精神が音を立て削られていく。
レェブラーシカのパニック振りはすさまじく、どこにも逃げられない室内を必死で這いまわる。
そして、何故だか知らないが、セルジオに縋すがりりつき、掴み上り、肩車状態でガタガタ震える。
やわらかい白い内腿が、セルジオの頬を両側からきつく締めあげる。
「うぅ!なんのご褒美?・・・・いや、うっ鼻血が出そう・・・・」
幽霊にまったく動じないセルジオの挙動まで変になる。
「な、な、なんなんですかぁ?!これはぁ!!!!ぎゃぁぁぁああぁぁあ!!来ないで!!!!」
「お、お、落ち着いて、レェブラーシカさん!? 僕もいろいろピンチになるから・・・・」
思いっきり男の子の気持ちを態度で示す。・・・・セルジオは内股で腰が引けている。
あたまの中に響く『ありがとう』という声に「お構いなく」と相槌をうつ彼の対応など見もせず、ひたすら締め上げる彼女の腿がチョーク状態になる。
「お、お、落ちる。 た、たすけて・・・・ニーニャさん!!?」
「ムニャムニャ お菓子もっと!」 慣れるとは恐ろしいものだ。
ジャララ
遺品の一部を机の上に落としていく。
「ひぃ!」 その音でちんまい子がビクリと反応する。
反応だけだなら良いのだが、首筋が急にホカホカとした何かによって濡れて行く。
「ああぁぁぁぁ、いやぁ!!!!ごめんなさい、あぁあぁぁ止まらないれす・・・いやぁぁぁ」
頭を力いっぱい締め上げながら、プルプル震えるちんまい子。
生暖かい感触がセルジオの首筋から背中を伝い、パンツにまで伝わる・・・・不幸だ。
幽霊は礼の姿勢をとり、煙の様に消えて行く。
放心状態のレェブラーシカ。
チアノーゼで顔が紫色のセルジオから、ずるずると滑り落ち、ぺたりと床に座り込んだ。
「はぁはぁ、もう少しで彼等の仲間入りするとこでしたよ」
セルジオが喘ぎ頭を振る。
ガバ!
寝ぼけ眼で寝台から跳ね起きたニーニャ。
その視界に、ボロボロになったレェブラーシカの姿が留まる。
「な、なにしたの、きゃ?!レラ、大丈夫? セルジオに何されたの?」
ようやく目が醒めたニーニャが大声を上げた。
『されたのは、こっちなんですが・・・・』
と言いたいのを堪えていると、家から叩き出された。
「・・・・俺の家なんだけど、まぁいいか」
頭をボリボリ搔きながら、背伸びをする。
おもらしした彼女も見られたくないだろうなぁ、と考えるセルジオ。
すっかり目が醒めてしまい、臭いに溜息をつきながらトボトボ真っ暗な川に水浴びにいった。
初めての幽霊、彼女を責めない彼だが、やるせない気持ちにで水浴びをする。
山の清流の水は冷たく、身が締まる。
ついでにと、体と服を手でゴシゴシ洗い、まっぱで服を絞る。
「あ!・・・・」
一帳羅のパンツが絞った拍子に少し破ける。
お尻が薄くなり破け、すかして見る。
下のほうまで微妙に見えそうな感じにまた溜息をつく。
しかし、それしかないので再び身に付け家にもどった。
彼女等は店の方に戻っており、もう誰も居ない。
ぽつんと独りセルジオが残されていた。
テーブルに何かメモが残されている。
「・・・・俺、字が読めないんだけどなぁ」
なんとなく再々落ち込むセルジオだった。
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