14話

 村長の爆弾発言から数日過ぎたある日、彼の家に来訪者が訪れた。


 「あのお!ニーニャさんのお店はこちらですかぁ!」

 ちんまい女の子が玄関口で大声を出している。


 墓所にも聞こえるのでかなりの肺活量だが、遠めに見ても10歳程の女の子に見える。


 「ニーニャさんのお店と聞いて来たのですがぁ!ニーニャさんは居られますか!!」

 ちんまい子が大声を張るので、墓穴を埋める手を止めて、家に向かう。


 「えっと、どちら様ですか?」

 「ん? ニーニャさんの下男さんですか?」


 「下男じゃないと思いますが、ニーニャさんのお店は裏です。

 ちなみに彼女は今日、都から来る人を出迎えるって出てますよ?」


 「ええぇ!入れ違いですか?!」

 やたらと声が大きいちんまい子、背中にボリューム調整のつまみがあるなら最弱に絞りたいところだ。

 よく見ると、自身と同じ位のトランクと紹介状らしき手紙を握り締めている。


 クリクリした目が印象的で、ソバカスのある顔にウェーブの掛かった髪が似合っている。

 耳が少し尖がっており人族ではないようだ。


 セルジオは店の外で待たせるのも悪いので、彼の家に案内する。



 少し警戒するようにセルジオの後に続く彼女が、部屋に入り目を見開く。


 「!?・・・・ニーニャさんの持ち物ですよね?」

 目敏くファンシーな縫ぐるみを見つけて固まるちんまい子。

 周りをに回すと、ニーニャの物と思われる日用雑貨がいたる所に置いてある。


 「ど、ど、同棲中の方ですか?!」

 なわなわと震えながら、青年に問いかける。


 「ぬぉ?!、俺の寝床はあそこ」

 台所の土間の隅を指差すと、そこにはただ藁が積まれシーツが掛けてあるとても質素なものだ。


 「げ、げ、下男げなんさんと同棲中?!」

 まぁ、下男、そう思われてもしょうがない格差があるのだが、ここはセルジオの家である。


 ちんまい子が恨めしそうにセルジオを睨み付けている。

 「ニ、ニーニャさんが俺の家に押しかけて来たから、寝床を貸してあげてるだけだよ」

 セルジオの言葉を聞いて、ちんまい子の顔からみるみる血の気が引いていく。

 「おおおお、お! 押しかけ女房?!」

 もうなわなわを通り越し、ガクガクブルブル状態のちんまい子。


 「ニーニャさんが、そんな、はしたない事を・・・するわけありません!

 あなた、どんな手を使って誑たぶらかしたのですか?!」

 ちんまい子が突然、鼻息荒くプンプン、スンスンといった感じに怒り出した。


 彼女は持ってきた自分と変わらない大きさのトランクを、プルプル震える手で頭上に持ち上げ、セルジオに振り下ろそうとまさに振りかぶった。


 その刹那、玄関の戸が勢いよく開きニーニャが飛び込んでくる。


 「レェブラーシカ!こっちに来てたのね? 探したんだから!!」

 まだ、プンプン起こってるちんまい子をひょいと抱えベットに座り膝に抱える。

 一頻り抱きしめると、ちんまい子が苦しそうにジタバタ暴れ、はなしなさい!と叫ぶのだが、ニーニャは抱きしめたまま口を開いた。


 「セルジオさん紹介します、私の乳母のレェブラーシカです。

 人手が足りないので、来てもらいました。

 ホビットって言う種族で私より随分お姐さんです」


 「えぇ?」


 ちんまい子は10歳程度にしか見えない。

 しかし、確かにハキハキした物言いと態度が年相応には見えない。


 「こちらがセルジオさんです。いま商人の中で一番熱い話題の人です」


 「・・・・レェブラーシカです」

 刺すような視線で警戒心MAXの態度を示すちんまい子が、おずおずと左手を差し出す。

 キスをしろ言う動作なのだが、セルジオは分からず右手を引っ込め左手で握手をする。


 「フフフ、こんな人ですよ、レラ」

 上機嫌のニーニャと反対に、怒りの収まらないレェブラーシカ。

 「ニーニャさん! 私がきたからには、ちゃんとしてくださいね!」


 耳が痛い程の声量で激を飛ばすちんまい子が、膝の上でまたプンプン怒っているのが可愛かった。


・・・・


 「まだ、耳鳴りがする」

 セルジオは、レェブラーシカの大声に頭を振りながら中断した埋葬途中の塚に向かおうとしていた。

 そんな所、ジードが食料を提げて顔を出してくれた。


 「おう! セルジオ聞いたぞ、何でも家を新築するんだってな?」


 「新築? 改築するんだが・・・・聞き間違いじゃないか?」


 「あれ? 村長は新築っていってたし、さっきニーニャさんも建替えって言ってたぞ?」


 「あ、何だかそんな事を言ってた気もする。

 ジードは、やっぱり新築の方が儲かるよな?」


 「あぁ、家の親父も久々のまとまった実入りに成りそうだって、張り切ってたぞ!」


 「そっか、じゃそのまま進めても文句はないよ。

 正直、建物のことも費用のこともよく分からんから、村長に聞いて貰えると助かる。

 じゃ、任せたよ」

 「おう、任された!」


 と、立ち去ろうとするセルジオを引き止める。

 「で、さっきの女性の声は客か?」


 「え? あ、あぁ・・・・」

 「美人か?」

 「ま、まぁまぁ美人? っていうより可愛い? 幼い? けど年上?」

 「む、胸は大きかったか?」


 「そこまで気が回らなかったなぁ、有ったような無かったような・・・・」

 「ど、どんな人だ?」

 やたらと食いついてくるジード。


 「あぁ、ニーニャさんの乳母をしてたって人だよ。 すごく若く見えるから、見たら驚くぞ?

 こっちに来てニーニャの面倒を見るらしいから、村には、しばらく居るんじゃないか?」


 「若く見える、お姉さまかぁ。 うんうん、良いよそれ!

 で、まだ部屋にいるんだろ?

 ちょっとご尊顔そんがんを拝見してくるわ!」


 「じゃ、俺はまだ続きがあるから それじゃまた」

 スキップしながらセルジオの家に向かうジードの背に声を掛け

 再び塚へと戻っていった。


 ・・・・


 ダンジョンの中、カンテラの火が揺れる。


 手前の散乱していた遺体も大分片付き、次第に奥に向かって回収を進めて行くことになる。

 足元を確保する為、壁沿いに回収して居たが、遺体の絨毯の中、先に大きな岩が見え始めた。


 興味本位で調べてみると、どうもゴーレムの残骸らしく、腕や足、頭などがなんとなく人型を模している。


 胴体らしき部位は腕が回らないほどの大きさで、手で押したくらいではビクともしない。


 「これ、退どけられるのかなぁ?」

 たぶん下敷きに成っている遺体もあるだろうが、農耕馬ほど有る岩を動かせるとは思えない。


 試しに、石の鋤に引っ掛ける。


 ゴロゴロ・・・・面白いほど簡単に動く。


 回収作業の邪魔にならない隅に動かし、その他も部位も避けてゆく。


 「胴体は無理だけど、頭ぐらいは持って帰れそうだな」


 遺品以外のお土産なら、ニーニャさんが喜びそうだと考え、今日の埋葬が終えた後に試しに持って帰ろうと考えるセルジオだった。 

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