8話

 「セルジオおるかぁ?」

 村長が段々畑の畔道を下り、朝から精をだすセルジオの元にやってきた。


 「はい、ここに居ます」

 水甕の水を汲みに行き戻ってくる途中、声をかけられたのだ。


 「おぉ、居ったか」

 一緒に家に戻ると、食料の入った包みを「ほれ」と寄こす村長が口を開く。


 「村の悪たれが先日来たそうだな?

 あやつら何か企んでおる様での、金目の物や大事な物は家の置いておくでない・・・・」

 少し言いよどみ、口を開く。


 「・・・・わしの家に来ても良いが、どうだ?」


 「ありがとうございます。けど、俺の家はここですから・・・・あっ」

 セルジオは指輪と首飾りのことを思い出した。


 「これ、預かってくれますか?」

 「む? 指輪とネックレスか、瀟洒な作りのものだな・・・・遺品か?」


 「はい、夜中に夢を見ました。そしたら・・・・」

 セルジオは指輪とネックレスを手に入れた顛末を話した。


 「死者からのお礼、貢物か・・・・普通なら呪われておるかもしれんの」


 「ニーニャさんが戻ったら見てもらおうと思ってます。

 良いものなら借金の返済に充ててもらえればと・・・・」


 「わかった、借金の件は別として預かっておこう」

 「ありがとうございます」

 村長は手ぬぐいを取り出し、その上に指輪とネックレスを置かせると、触らないように包み込み懐へ収めた。


 「あぁ、一つご相談したいことが・・・・」

 「何じゃ?」

 セルジオは続けて墓の場所の話をした。


 「少し墓を見せてもらってもいいか?」

 「どうぞ」

 村長を案内し両親の墓のある斜面を訪れる。


 「ちゃんと弔ってやれんですまんかったの」

 村長は両親の墓前でしばらく祈りを捧げ、その近くの塚を見る。


 既に両親とあわせて13の塚があり、この後も増えて行くはずだ。


 「・・・・たしか云百万と言って居ったな。この斜面一体全てが墓になる数じゃの」

 もともとセルジオの両親の持ち物の裏山。

 潅木の生えた岩の多い土地で、牧草地ぐらいにしか使えない北側の斜面だ。


 「わかった、今の持ち主にそれとなく話してみよう」

 「助かります」


 「そう言えば今日も潜るのか?」

 「はい、そのつもりです」

 「しばらくお前の家で留守番でもしておくが、気を付けるのじゃぞ?!」


 「はい、痛み入ります」


 そして、セルジオは昨日と同じように、布と麻の袋を提げ今日もダンジョンに潜っていっる。


 これまでに比べ今日は効率が良く、3往復目に入っていた。

 回収できた遺骸は30体程だ。


 熱くないように腰布を巻き、カンテラを腰に提げ両手が使えるようにしてから作業をする。

 麻袋には骨片やまだ形が残っている何かを収め、粉状に崩れた物は布袋に収めていく。


 『麻袋と布袋も使い回しは申し訳ないなぁ・・・・今度、ニーニャさんに相談しよう』

 そんなことを考えながら、粉を箒で掃き集め収めていく。


 粉といえば。

 鉄製品は殆どが赤い粉になっている。

 剣に槍、鎧や盾などの鋼は錆びてボロボロで、床に落ちていた剣の形をしたものを拾おうとしたら芯まで朽ちていて結局、箒で掃き取った。


 それに対して銅はまだ幾分マシで、表面が緑色の緑りょくで覆われているが、芯が残っているものが結構有る。

 それでも大抵の物はボロボロで、触るとぱらぱらと崩れ落ちてしまう。

 都の考古学を生業とする学者などが聞いたら卒倒しかねないが、そんなことは知らないセルジオは只管ひたすら遺骸の回収を行ってゆく。


 セルジオが少し嬉しくなる物がちらほらと混じる。

 金や宝石類だ。

 長い年月に耐え切れず遺骸すら骨片となり鉄は朽ちても、当時の原型を留める物があると一緒に墓に収めてやれると、うれしくなるのだ。


 結局今日も日が落ちるまで、遺品や遺骨を回収し墓穴を堀り、埋葬する。


 疲れて泥のように眠ると、いつもの様に兵士の幽霊が現れてテーブルにお礼を置いていく。


 そんな日が数日続いたある日、変わった幽霊が現れた。


 ・・・・


 夢をみた。


 多くの兵士の幽霊が、いつものように風に消えた後一人の年老いた男性の声が聞こえた。

 声とともに床を這う靄が見え、膝に手を突き立ち上がりこちらを向く。



 『墓を掘る者に感謝する』


 『我が名はマーリン。破滅が噴出さぬようダンジョンを閉じた者』


 『い・や・・ダン・・・が、・・・・浄化が必要、争いではなく、弔いが必要』


 『兵士達が喜び泣きながら・・・帰ってゆく、良きかな』


 『私の残され・・・そなたに譲る。受け・・・欲しい。』


 『身に着けて・・・かならず助けとなろ・、・・・・・とう』



 机の上に軽い音がした気がした。


 朝目が覚めると、机の上に見慣れた金の腕輪があった。


 「これって、ニーニャさんに預けた腕輪じゃ・・・」

 腕輪は随分貴重で高価なものらしく、詳しく調べるからと半ば強引に都に持って行ってしまったものだ。


 何故ここに預けた物がと、セルジオは訝いぶかしく思う。

 だがここの所、幽霊が枕元に出る度に埋めたものがテーブルに有るのだから、随分感覚が麻痺しており、ニーニャの所にある物を幽霊が持ってくる事があってもおかしくないと思ってしまう。

 そんな事、あったら変である・・・・十分怪異な事だ。


 朝から2往復ダンジョンに潜り塚を作り終わった頃、ジードの声が聞こえてきた。


 「おぉい! セルジオ!!」

 ジードの呼び声が畑に響く。

 「塚に居る!!」


 「ニーニャさん来てるぞぉ!!」

 仰ぎ見る畑の先からジードの姿が見えた。

 「わかった!!直ぐ行く」


 いつもの様に石鋤を担ぎ家へと向かう。

 「袋、頼まないと行けないけど、お金足りるかな・・・・」


 不安な気持ちを見透かした様にひょっこり現れ、側に付き従うインプを抱えワシワシ撫でながら畑を上ると、見慣れない馬車が止まっていた。


・・・・・・・・


 これ迄の記録


 ダンジョン探査 5日目

 潜入階層不明


 名前セルジオ:年齢18歳:男性

 職業:ほとんど墓守兼農夫

 埋葬者数 133 回収遺体 131

 〇入手アイテム


 墓守の石鋤いしすき

  死者を埋葬するために使用すると魂魄が強くなる。


 夢現ゆめうつつのメダリオン

  ダンジョンの通行書を兼ねている。

  魔法の罠は動かない。


 未鑑定アイテム

  死者の指輪    7個

  死者のネックレス 3個

  死者の腕輪    1個

  死者のイヤリング 2個


  死者の硬貨 金貨 5枚

  死者の硬貨 銀貨 3枚

  死者の硬貨 銅貨 6枚

  死者の宝石    3個

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