7話

石戸を閉め長い坂を上がる。


 空気が入れ替わってきたのか、かび臭さが薄らいで来た気もした。


 「よいしょ・・・・っと、ん?」

 麻袋を担ぎ石室のような出口から出るとインプが待っていた。

 蓋を閉めてもこちらをマジマジと見つめている。


 「・・・・持ってくれるのか?」

 「ピギィ!」

 中身の少ない布袋を差し出すと、子猫程の大きさの魔物が喜んで布袋を受け取る。

 しかし体格に袋の大きさが見合わず、思いっきり引きずりながら付いて来る。


 最初の塚を再び掘り起こし、残りの遺骸を納めた。

 日が傾き薄暗くなる中、10程の墓穴を掘り全て遺品を納め埋め戻す。


 日が沈み空に星が瞬き始め、漸く両親の墓の近くに新たな10個の塚が出来上がり家へと戻った。


 今日は何故かインプが傍かたわらから離れない。

 いつもは家畜小屋の家畜と共に寝ているのだが、妙にセルジオの表情を気にしている。


 とはいえ、原型が殆ど残ってない10名分の墓を作ると気が滅入った。


 魔物だが非力な生き物が心配するように付き従う様が、懐っこい子犬のように思えてくる。


 「すまない、今日は疲れた。相手はできそうに無いよ」


 そう言われるとガリガリのインプは家畜小屋に走って行き、干し藁を一抱え持って付いて来る。

 今日は意地でも一緒にいるらしい。


 「好きにすればいい、俺は寝る」


 木箱に藁を敷き布を掛けただけの寝床に倒れ込むと、そのまま意識を手放した。 



 ・・・・


 夢を見た。


 白い靄のような人影が、部屋を這いながら何かを探している。

 そのうち、急に足腰がしっかりし四つんばいになり、膝に手を付きながら立ち上がる。

 まだ、何かを探している。


 インプが白い靄が近寄らないように、俺の前で威嚇している。


 白い靄は、しばらく部屋を調べ探し物がないと分ると、遠くを見るように背伸びをして風に流されるように消えていった。


 闇に閉ざされる。




 再び、闇の中に靄の柱が立ち上る。

 柱の数は10。


 一つの柱が近づいてくる。


 『あ・・とう、やっ・故郷に帰・る。・・がとう、あり・・・』

 声が聞こえた気がした。

 白い靄は、次第に騎士のような形を作る。

 白い鋼の鎧を纏っている。


 深々と頭をたれ佇まいを直すと、騎士の礼を取る。

 後ろの影も今は騎士の姿となっており、礼に倣う。


 かなり長い間礼を取っていたが、風に吹き消されながらテーブルに何かを置いてゆく。


 コトン


 夢枕に何かが置かれる音が聞こえたように思えた。


 ・・・・鳥の囀りが聞こえ、朝日が顔を照らす。

 眩しくて目が覚めると、寝床の下に蹲うずくまるガリガリのインプが子犬のように顔を上げる。


 目を擦り、水甕から水で顔を洗うと裾で拭き背伸びをした。

 セルジオは朝日とともに目が覚める癖が付いていた。


 「・・・・?」


 机の上に見慣れない指輪とネックレスが置いてある。


 「これって、墓穴に埋めたはず・・・・誰かが掘り起こしたのか?!」


 急いで石鋤を握り、畑を下り塚を見に行く。


 「・・・・」


 塚には昨晩変わりは無い。


 「・・・・置いて行ったのか」

 持ってきた指輪とネックレスを眺め、墓に祈りを捧げる。


 付いてきたインプが心配そうに見ている。


 「お前も、寝てるときに守ってくれたみたいだな」

 インプの頭を撫でると、少しうれしそうにする。


 「ニーニャさんに調べてもらって借金の返済に回させてもらおうか・・・・

 それとも埋葬する為の土地を買うか・・・・やっぱり土地かな」


 セルジオは塚を作る場所が手狭になり、もともと所有していた裏山の斜面を買い戻そうと考えていた。


 「家畜小屋でも掃除していくか?」

 「ピギィ」

 話しかけると、とにかく返事するインプの頭を撫でながら来た道を戻るのだった。



 これ迄の記録

 名前セルジオ:年齢18歳:男性

 職業:農民兼墓守

 埋葬者数 13 回収遺体 11

 〇入手アイテム


  墓守の石鋤いしすき

   死者を埋葬するために使用すると魂魄が強くなる。


  夢現ゆめうつつのメダリオン

   ダンジョンの通行書を兼ねている。

   魔法の罠は動かない。

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