4話

 残りの種を撒く為、昼まで畑を耕し家畜小屋の掃除をしていると、村長がが訪れた。


 「探したぞ、セルジオ元気にしてるか?」

 「はい、ぼつぼつ」


 「回りくどいのは好かん、残りの金はわしが預かろう」


 「はい」セルジオはあまり考えもぜずに返事をする。


 家に戻り、部屋の隅に隠してあった銀貨4枚を渡す。

 「これは返済に回すがよいか?」

 「はい」


 「・・・・素直で実直な青年が苦しむのは好かんが、しかし・・・・いや、すまん」

 村長は何か言おうとして言葉を飲み込む。


 「いいえ、俺は助かってます。ありがとうございます」

 「礼を言われることなど、儂はしとらん。 なるべく目は掛ける、励めよ」


 「はい」


 村長はそう言うと去って行く。

 彼の後姿が少し悲し気に見えた。


 「そういえば、ちゃんと遺体を埋葬してあげてなかったなぁ」

 地下の空洞から持ち帰った遺品の持ち主を思い出し、種を買えたお礼にちゃんと埋葬しようと大石へ向かった。



 石鋤で蓋をずらす。


 「!!!!」


 ずらした大石のすぐ下に、赤ちゃん程の小さな生き物がしゃがみ込んで居た。


 「な、なんだ?」


 ガリガリに痩せ目が落ち窪んだ赤ちゃん程の大きさの生き物が、大石のすぐ下に居た。

 日の光に驚き飛び起きたその生き物の、蝋封を施された巻物とメダリオンをもった手足は異様細く、病人のような浅い息をしている。


 「わぁ!」

 セルジオと魔物双方が驚くが、その生き物は『ピギィ』と軽く鳴き、持っている物をおずおずと掲げ、その場に傅かしずく。


 「・・・・俺に?」

 頷くインプ。


 セルジオは余りにも小さい魔物に害意があるように思えず、掲げられた物を屈んで受け取った。


 インプはようやく仕事が終わったとばかりに、踵を返し戻ろうとするが、3歩も戻らないうちに倒れ込み、ガタガタを震えだした。


 「・・・・大丈夫か?」 セルジオがインプに問いかけるが返事はない。


 セルジオはその小さな生き物に触れるかどうか戸惑うが、眺めているうちにケガをした子猫を見ているような気分になり、魔物を摘まみ上げ、大石を閉じ家畜小屋へと連れ戻った。



 魔物の震えは収まったが随分弱っている風だった。


 ジードから渡された、パンとチーズを半分に分け傍らに置き、巻物を見る。


 革用紙に精巧な紋章の蝋封がなされた巻物。

 蝋封に触れると、パラパラ封印が崩れ落ち革用紙が勢いよく広がる。


 「・・・・」

 見た事もない文字、その前にセルジオは文字が読めなかった。


 巻物を、家の葛籠に収め、石鋤に触れる。


 グワァン!


 脈動するような衝撃と共に視界がゆがむ。

 セルジオは、まともに立って居れない眩暈に襲われ、その場に倒れそのまま意識を失った。


 ・・・・・・・・


  青年は夢をみた。


 地が揺れるほどの行軍の足音。

 旗を掲げた多くの兵士と、骨の兵士の大群が戦っている。


 大きな城の城壁に、何万もの骨の兵士が蟻の様に群り、城のあちこちで火の手が上がっている。


 城壁上の兵士も善戦しているが、骨の兵士が無尽蔵に取りつき城壁を覆うように上っていく。

 数に呑まれ殺された兵士はいつしか骨の兵士と並び敵の戦列に加わり数を増していく。


 次第に押され始める城の兵士。


 曇っていた空から太い稲妻が落ちる。

 稲妻は次第に多くなり、いくつもの光の柱が城の尖塔を打ち砕いていく。


 「あっ」


 セルジオは思わず声を上げる。

 城と、その周辺の地面が無数に裂け、地の底に落ち、消えていく。

 それと共に、城に残る塔は次々に崩れ、城壁を巻き込みながら轟音と土煙の中に沈んでいく。


 ドドドドドドドドドドド・・・・


 激しい地響きのあと、土煙がもうもう立ちこめ城影は見えなくなり、遂には擂鉢状になった地面に、近くの川から大量の水が流れ込んだ。


 城の在った場所は渦巻く濁流に呑まれ、巨大な濁った湖が出来上がっていく。


 『知ってる、嘆きの湖だ』

 周囲の山の形、湖岸の形状、セルジオの知る村の近くにある湖の姿だった。


 気が付けば、人も骨も全てが飲み込まれただ静かな湖がそこにあった。



 声が聞こえる。


 「我は夢現ゆめうつつのダンジョンの管理者である。

 当代墓守に告ぐ。

 かつて虐げし墓守にまずは謝罪を。

 血脈が残りし事に感謝を。

 そして、助力を切に願う。


 死が限りなく濃くなり、我が居を埋め尽くした。

 器の在る魂はすべからく絶えようとしている。

 故に墓守が墓を作り、縺れた魂の糸を解きほぐす事を願う。


 メダリオンは許されし者の証

 埋葬されし者の持ち物は墓守に与える。

 弔うべき魂は四百万超、切に請う。


 この約定、努々忘るる事無かれ」


 王冠を頭に掲げる骸骨の王が膝を付き、深々と頭を下げる姿が見えた。


 『最初から弔うつもりだけど、すごい数・・・・』

 変な夢を見たと、まどろみの中で思うセルジオだった。

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