3話

 昨晩、両親の塚の横に小さな塚が増えた。

 遺品を埋葬したのだ。


 「勝手にとってごめんなさい。近いうちに体と合わせて埋葬するから許してください。」

 両親と遺品の塚に野花捧げ、セルジオは祈りと謝罪を今日も捧げる。


 墓、家畜小屋と畑を見回り、家で一息つくと表に人の気配がする。


 「あのぉ! おられますか!?」

 朝早く、戸口で女性の声がする。


 「はい」

 隙間から外の見える扉を開け出迎える。


 「品物を届けに来ました」

 「あっ、ありがとう。代金は・・・・・これ」

 銀貨5枚を渡し、品物を受け取る。


 「使い方わかりますよね?」

 少し首を傾げニーニャが問う。


 「壊すと嫌なので、よかったら教えてくれますか?」

 「では、ここを開けて、そう、そこ・・・ここに油を、これくらい。

 この線以上いれると危ないから。

 で、ここを開けて火を・・・・燃えさしあります?」


 「無いです」

 「・・・・そうですか」

 彼女はポーチから、金属と砥石の工具を取り出しバリリリと火花を散らし火を付ける。


 「それ、便利ですね」

 「でしょ?、都の工房で作られる技ものよ」

 「どれくらいするのですか?」


 「銀貨10枚・・・・買われます?」

 「お金ないです」

 うつむき加減で返事をする青年に、少し考えてニーニャはそれを手渡す。


 「先行投資、次も何か見つけたら必ず持ってきてくれる?」

 「・・・・はい」

 「私はニーニャ、あなたはセルシオさんでよかったっけ?」

 「セルジオです」

 「あ、ごめんなさいセルジオさん、よかったら見つけた場所を見せてもらえる?」


 「はい」


 裏の畑、坂を下りニーニャと二人で大石の蓋の前に佇む。

 「ここです」

 「昔の人のお墓かしら・・・・中は?」

 「・・・・真っ暗で、まだあるとは思いますが、でも死んだ人の物だから」

 盗掘?に抵抗があるのかセルジオが言い淀む。


 ニーニャは逡巡するセルジオの顔を見ながら、言葉を選び話しかける。

 「そうね、ダンジョン産の何かで構わないわ。

 物珍しいもの、壊れた石像とか、壊れた昔の武器とかでもいいし。

 私一週間は村に居るつもりだから、何か見つけて、持ち帰れたら、よろしくね?」


 やっぱり商売の匂いがすると目の輝きが訴えている。


 「それに、困ったら言ってね、絶対よ!」

 彼女は小走りで、坂を上り手を振りながら去って行った。


 『騒がしい人だ』などと思いながら、彼女の背中を見送る。

 その日は畑を耕し、買った種を撒き、水を撒くと日が暮れた。


 ・・・・


  「おい!セルジオでてこい!」

 「ヒヒヒ、出て来ねーとボロ家打ち壊すぞ!オラァ!」


 チンピラように声を荒げる、セルジオと同じくらいの青年が二人、玄関先で肩をいからせている。


 「裏の畑に居る!」

 セルジオの張り上げる声が裏の畑から聞こえてくる。


 来訪者は畑の畝など関係なしに踏み荒し、ズカズカとセルジオに近づいた。


 「おぅ、呼びつけやがってお前何様ァ?!」

 「・・・・呼びつけたもなにも勝手に来たのはそっちだろ?」


 「ハ! 口答えしやがんの」

 襟首を掴もうとしても無い、肩口も服がボロ過ぎて握れば破けてしまいそうだ。


 セルジオより少し背が低い口調の荒い青年が、肩に手を掛け今にも殴り掛かろうとする振りをする。


 「まぁよせ、ザザ」

 「チッ、殴ったりしませんよ、仲はいいんすから、なぁ?!セルジオ、そうだろ? なぁ!」

 とにかく絡んでウザい青年をスルーし、ザザを止めたヤツに目を向ける。


 「それよりセルジオ。おまえ小銭、稼いだらしいな、もっと有んだろ?

 いま俺達お金に困っててな、貸してくれないか?」

 「そうそう、困ってんだ、なぁセルジオ」


 ザザは唾を吐きながら、セルジオに睨み付けた。


 「金?ないよ、種買ったらなくなった」


 「なぁセルジオ、お前の両親が病気の時、わざわざ薬を探して売ってやっただろう?」

 「おかげで全部うっぱらったよ」


 「そういうなって、お前は恩を忘れない奴だと知ってるさ、困ったときはお互い様だろ?」

 肩に腕を回し、馴れ馴れしく話しかける青年。


 「おぃ! お前たち、なにやってる!!」

 苛立ちの感情かこもる叫び声が近付いてくる。


 「ッチ、面倒なのが来た。セルジオまた来るからな」

 ジードが急いで駆け寄って来る。


 ザザが舐めるようにジードを見ながらすれ違う。

 険悪な雰囲気が立ち込める。

 「ケェ、チキン野郎」 小声で挑発してくる。


 ジードは無視してセルジオの元まで駆け寄り声を掛けた。


 「大丈夫か?」

 「あぁ、なんともないよ」


 セルジオには失う物がないと思っている。

 いやカンテラ壊されると嫌だな位にしか思っていない。

 借金で家畜や作物もいずれは売ることに成るだろう・・・・そう考えている。


 「あいつらまだお前に集たかるつもりか、畜生!」

 ジードは強く拳を握り締めとても悔しそうに、沸々と怒る。

 そのやり場無い気持ちを足元の土塊を蹴飛ばし紛らす。


 ジードが怒ってくれて嬉しい。

 「ありがとう、俺の為に怒ってくれて」


 「あ、いや・・・・ハ、ハハハ」

 少し照れる幼馴染に少しホッコリする。


 「あ、忘れる前に伝えとくぞ、村長が昼に顔を出すらしい、だから家に居ろよ」

 ジードは持ってきた包みを押し付けながらセルジオに伝え、用事があるからとまた駆け戻っていった。


 包みには固焼きのパンとチーズだった。


 ありがたかった。

 セルジオはジードのいつもの同じ気遣いが、なぜか嬉しく少し涙ぐんだ。

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