2-1、街道商人
都市デクレスと都市リイドを結ぶ森の街道を、一台の幌付き荷馬車がリイド方向へ進んでいた。
御者台に深緑色のコートを着た
男の、横に広がった特徴的な形の鼻の頭にポツリと冷たい物が
天を見上げると、霧の中から小さな白い粒が男の顔にいくつも落ちてきた。
「どうりで寒いと思ったら……」
初雪だ。
特殊な屈折率を持つその水晶体は、曇り空の下でも濃い霧の中でも、雨が降ろうが雪が降ろうが、日中であれば内部に影を作って時間を教えてくれる。
日暮れまであと二時間。
それまでには目的の町に到着するだろう。
……人の居ない、廃墟の町に……
都市デクレスと都市リイドのあいだには、新旧二つの
当然、新街道のほうが道幅が広く、よく整備されていた。
ならば旅人は皆、新街道を利用すれば良いようなものだが、
新街道には、安全な宿場町が無い……それが理由だ。
古い街道には、古い宿場町がポツリポツリと点在し、どの町も
対し、新道には、妖魔から人々を守ってくれる町が一つも無かった。
かつては一つだけ旅人を
となれば、都市デクレスと都市リイドを行き来する者は、遠回りでも安全な旧道を通るしかない。
新道を通るのは、情報収集を
……では、今、荷馬車を操るこの
* * *
やがて、
都市デクレスと都市リイドを結ぶ新街道唯一の宿場町トゥク……いや、正確には「かつてトゥクと呼ばれた町の廃墟」だ。
操る者の居なくなった跳ね橋を渡り、開けっ放しの城門を抜けて、
誰も居ない町に、
大通りを通って町の中心部にある広場まで来ると、男は馬の鼻先を北に向けて、大通りよりはやや細い道を、奥へ奥へと進んだ。
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