第6話 恋するステファ

基哉もとや、暇だ。お話をしよう~♪』

「悪いがステファ。これからオレは学校へと行かねばならん。お前なんぞの相手をしている暇はない。

という訳で、またな」


『ほぉ~っ、学校とな? ならばその学校とやらへ、このわたしも着いてゆくから。そこで相手しておくれ♪』

・だ。しないし、無視する。他人の振りをするし、目も合わせてやんない。

着いて来ても、放置プレー確定だかんなっ!

絶対に着いて来んなよっ。いいな?」

 

 オレは迷惑顔でそう言い捨てて、玄関へと向かい家を出た…………が?

 何故かそこに、フェアリーマークが実に愛くるしいステッカーとバカみたいに超デカい白銀色のステンレス製ケースが立ち塞がっておった。

 ステファの野郎だ。

 最近になって自走を覚え、たまにこういう行動に出て来るようになり、オレはかなり迷惑だ。

 この前など、近くの公園で子供たちとワイワイ仲良く戯れておったり。近所の奥さま方と世間話に花を咲かせておった。

 今のところ、このステンレス製ケースの中にオレが入って、ふなっしー芸をやっているということで誤魔化してはおるが、そろそろ限界だ。そもそも、ステファの隣にオレが並んで立っていては、ネタバレも良いとこだろう。


「だから、ホイホイと何処にでも着いて来ようとするんじゃないっっ!! 

お前はそんなんでも、一応は、企業秘密のなんだろっ!?」


『ぬっ! バカ者っ!! でも、でもないわっ! 

舐めるなよっ、基哉もとやッ。こう見えてもわたしは、《企業秘密》であり。同時に、なのだからなあっ!!』

「だったら、自ら進んで無駄に目立つようなことすんなよっ。このバカA.I.っ!!」


『だあっ!? 誰が、バカA.I.だっ!!? 

そもそも目立つようなことをした覚えなど、一切ないぞぉ──っ!!』

「……いや、待て。十分に、目立っとるだろ……お前」


 実際、既にご近所の小・中・高学生・主婦などが集まり初めてやがる。目立つこと、この上ない。

 こうしたオレとステファとのやり取りも、今では朝の日課だ。

 やれやれ……。


 そのうち、どこかの物好きなテレビ局が取材にやって来るんじゃないのかぁ~っ?


  ◇ ◇ ◇


『何故だ。なぜなのだ……』

「はぃ?」

 ステファのそんな独り言に、たまたま洗濯物を胸元に抱え前を通っていたメイがそう反応したのだ。

 それに気づいてか気付かずにか、ステファは気にする様子も無く、ブツブツと独り言を続けている。


『今のわたしの声は、基哉アイツが一番好む声優の《川原もえ》なのだぞ。それなのにどうして、こうも避けられなければならんのだぁ?? 

ちゃんとアイツのスマホやらタブレットPCにまで入り込み、して調べ上げ、スパコンで解析させた間違いのない情報である筈なのに……これは、絶対におかしい…』

「……とりあえず、ステファさん。ハッキングは犯罪だと、ライラノ社のデータリンクにも正式に載っている禁止事項ですから。そういうのは、お辞めになられた方が……」


『そんなことは、どぉーでも良いぃ──っ!』

「ええぇっ!!?」


『そんなことよりも、ここで重要なのは、わたしがこうまでしてやっているというのに、基哉は何故、このわたしに興味を全く向けてくれないのか?の方なんだっ!

さては、かぁ~っ? このわたしの見た目が、だからなのかぁ~っっ???

A.I.ひとを見た目で判断するなど、滑稽極まりない。意外にも最低なヤツだ!』

「ハハ、あはは……。そういう問題ではないような気がしますが…」


 メイは困り顔にそう言ったあと、少しだけ考えた素振りを見せ、こう繋げた。

「でも、ステファさんは基哉さんのことが本当に好きなんですね♪」

『──えっ!!? なっ、なんで??』


「そんなの、見ていたら何となく分かりますよ♪」

『バっ、バカ。ち、ち、違うからなっ!!

大体、A.Iであるこのわたしが基哉なんぞを好きになるなど、あろう筈もないっ!!』

「……まあ、そうなのかも知れませんね?

でも、わたくしには、それはとても素敵なことだと思えますよ♪

自分以外の誰かを好きになれるなんて、それだけで奇跡なのだとライラノ社のデータリンクにも有りますし。今のわたくしには、到底、思いも寄らないことですから」


『……そう、なのか?』

「はい♪」


『……でもさ』

「はい?」


『基哉はわたしではなく、メイのことを相当気に入ってると思うぞ? 何となく、なんだけど……』

「え?? そんなことは無いと思いますが……?」


 そんな自覚のないメイの返答を聞いて、ステファの心を何かがチクリと刺した。

 そもそも美麗なフェアリーメイドタイプのメイと、ただのステンレス製ケースでしかない自分とでは、見た目が絶望的に違うのだ。


『……まあ、いいよ。それよりもそろそろ、ライラノ社とのデータバックアップ開始の時間だ』

 そういうとステファのステンレス製ケースの正面が開き、メイはその中へと慣れた様子で入る。それから電子音と機械的な音が小さく交錯する静かな安らぎの時を過ごし、その日の記憶をステファと共有し、暫しの間、複雑な想いの中で刻み合った。


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