第3話 その名は、ステファ!

  ◇ ◇ ◇


『なるほど……そう出たか。検証通り、専守防衛にのみ、これは『有効』であると判定する。

兄妹愛は、をも超えた……か。それにしても、君の勇敢なる行動は、賞賛に値するものがあった。検証協力に感謝をする!』


 その後、カメラアイは赤色から青色へと変化し。光信号で、メイドロボットへ次の指示を送っているようだった。

 どうやら、これまで一連のことは全て、仕組まれていたことだったらしい……やれやれ、伯父さんも人が悪い。



 メイドロボットは彩の首を閉めていたその両手をゆるりと離し、その場で静かに瞳を閉じ、カクンと力なくその場で膝を崩す。それを彩は、抱え懸命に支えようとするが、予想以上にロボットが重かったらしく。一緒に床へ倒れ込み、苦笑いをこちらへ向けている。


 少し冷やっとしたが、どうやら大事なく、怪我もなさそうだ。


『……一つ、君たちに大事なことを告げておこう』

 美麗な声優ばりの音声が聞こえてくる。例のステンレス製の箱だ。


『そのメイロボは、、20億円もする』

「――20億?!」


 それには家族一同、唖然とした。親父なんか口から泡を吹き、その場で卒倒している。


『契約上、余程悪質な過失が無い限り、君たちにその賠償責任はないが……国民の税金が、それには使われている。

精々、大事にしてやることだな』

「あ、ああ……」


『最後に……君たちを驚かせ事に対し、深くお詫びをする。あと、この箱である〝わたし〟はステンレス製で密封性も十分であるから、構わず、庭先にでも放り出しておくがよい。

この狭い居間の中に置いていては、邪魔だろうからな……。わたしとしては少々、寂しくもあるが……』


 意外にその言葉からしおらしさが感じられたが、やはりオレは許すことが出来ず。冷たく言い放った。


「……ああ、悪いが。そうさせてもらう事にするよ」

『……』


 なぜか不思議な間があった。が、


『……なんだ…なんだよ、わたしのがこんなだからかぁ? ただの《箱》だからかぁ?? 箱といっても、フェアリータイプと同じCPUコア数64基を搭載したスーパーマルチAIなのだぞ! 

外見の違いだけで! 差別じゃないか、こんなの!』

「は?」


していたのに、ひどい……意外と冷たい奴だな、お前……ひどいやつだ! だって、そうでしょ? 言って置くけど、このわたしだって、国民の貴重なで……っ!』


 ぜ、前言撤回だー!

 オレはそれも耳にし、ついと不愉快気な表情をしてみせ言う。


「そこの箱、何か言いましたかぁ? というか、言おうとしちゃってますか? その前に、君、このオレにさっき何をさせようとしたのか、覚えていますか?」

『――!? す、すまぬ。……な、なんでも……ない、です。……は、はぃ……すみません』


 余り誠意は感じられなかったが……凄い動揺は垣間見えた。それも予想以上に。

 こう見えて、このAIは、プライドが高そうだからな。今回は、このくらいで許してやることにするか。


 それ以来、その箱は大人しくなり沈黙した。いや……もう鬱陶しいくらいに後ろで泣きじゃくり続けている。


 やれやれ……。



 その後、親父やお袋に彩から心配気に見つめられる中、20億円もするメイドロボットは再びゆるりと目を開き。間もなくどこか恥ずかしげながら優しげな微笑みを浮かべ、

「はじめまして。これからどうぞ、よろしくお願いします」と挨拶をしてくれた――。



  ◇ ◇ ◇


 それから数日後のこと。

 彼女の名前は、メイドロボットということで『メイ』に決まった。


 メイは働きモノで、お袋の仕事がなくなるほど、よく働いてくれる。

 お袋は、かなり満足そうだ。

 そして親父も、お袋とはまた別の意味で、満足そうである。



 因みに、あの箱はその後どうなったかと言えば……居間の片隅に立てかけ置いている。庭先へ放り出してやろうと一度はそう決めていたのだが、やはり可愛そうに思え、そうすることに決めたのだ。


 たまに相変わらずの横柄な口調で話しかけてくることがあり、鬱陶しく感じることもしばしばであるが。持ち前の声優バリの美声が、そうした感情を中和してくれる……が、しかし、それが余計にたち悪いとも言える。



基哉もとや、暇だ。この私と、お話をしよう~♪』

「……暇なら、テレビでも付けてやろうか? 


 ステンレス製の箱なので、ステハが訛り、いつの間にか《ステファ》という名前が定着していたのだ。


『基哉、このわたしを舐めるな。今の時間帯は、お笑いもバラエティーもない。私はそれ以外、見ない主義なのだ。それを知っての狼藉か?』

「なら、面倒だから。主電源切るっていうのは、どうだ? それですべて解決するだろ?」


『うあ! ……す、すまぬ……』


 実はあれから、ステファの中を調べている内に、《ライラノ社製》型式FMR01-A01・A02型(試作)使用手順書と書かれたマニュアル書が見つかり。そこには、A02型であるらしいステファの使い方までご丁寧に書かれてあったので、ある程度なら、このオレでも扱える様になっていた。


 今もそのマニュアルを片手にステファを横目に見て、脅した訳だ。

 可愛そうではあるが、この手のひと言が、コイツには一番利く。


 因みに、A01型であるらしいメイは、開発コードネーム《フェアリーメイド試作01号機》とされている。


 が、A02型であるステファは、《ステンレス・ケース》とだけ書かれてあった……。どうやらライラノ社内でもステファの扱いは、彼女の姉であるA01型の『』で悲惨なものであったらしく。その環境が今のステファのひねくれた性格を成形したと推測できてしまう……。


 オレはそのことを思い、深いため息をつく。



「ステファ……」

『な、なんだよ。基哉もとやっ?! も、もう多くは望まぬから、許しておくれ! 頼むから、電源だけは――!』


「違うよ……ちょっとだけなら、話し相手になってやってもいいぞ?」

『……』


 感情というものはない筈だが、不思議なもので……ステファの笑顔がその時、気のせいか、オレには見えた気がした――。


 が、間もなくオレは後悔することになる……。



『それでね、それでっ! その者がまた酷いやつでさぁー「うるせー! 少しは黙ってろ、箱!」「欠陥AI!」とか言うんだよ! 

コレって、ひどいと思わない? 差別だよね?? だよねっ?』

「はは……それは確かにひどいなー……」


 ステファは一度話し始めたら、とにかく止まらなかった。あれから既に1時間は経っている。


 ちなみに……オレも今、その同じ台詞を吐きたい気分だよ、はは……。



 オレは困り顔でそう思い、そこでまた深いため息をつく。が、何故かそんなステファに対し、いつの間にか愛着が次第に沸き始めている自分を感じ、自然と笑みが溢れてしまうのだから、不思議なものだ。


 とても気が利いて、見た目にも美麗なメイ。そして、困った所の多いステファ。この新たな?と過ごすことになる我が家の日常がどうなるのか、オレには未だ検討もつかないが。少なくとも、今は、充実感の様なモノを確かに感じている――。





      《メイロボっ》

[作品第1~3話総文字数、約9000文字]


     まだ、続きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る