第2話 メイロボ、起動す!
「……にしても、でかいなぁ」
「だねぇ~……」
改めてこうやって眺めながら、ついついそんな言葉が出てしまう。
隣に立つ妹・
「これ、どうやって開けるのかな??」
「あー……」
彩からそう言われ、改めて確かめて見ると。見事なほど、開け方がまるで分からない。
四面とも、完全に密封されていて。あるのは、正面のタッチパネル画面とカードスロットらしきもの。
あと気になるのは、タッチパネル画面近くにある、どこかで見たような金ぴかな《フェアリーマーク・ロゴ》のステッカー……。
コレって、どこかでみたような……あ!
これと全く同じロゴ・マークを、先ほどの運送会社の人たちも付けていたのを、鮮明に思い出し、今さらながら納得。
そう言えば、伯父さんが勤めている会社って、『ライラノ社』だっけ?
きっと《ライラノ・フェアリーズ運輸》は、その関連企業なのだろう。
「そう言えば母さん、事前に『暗証番号』と『セキュリティーカード』が届いてなかったかぁ?」
父さんが今頃になって、ふと思い出したらしく、母さんの方を向いてそんなことを聞いておる。
何とも呑気なものだ。
「ああ、アレね? え~っとアレは確か、この中へ……ああ、あったわー!」
「それにしても、セキュリティー・カードか。案外、本格的なんだなぁー」
「うん、凄いねぇ~」」
流石に《企業秘密・国家機密》というだけのことはあるな。
うんうん。
そう納得したあと、よくよく見ると。ステンレス製の箱には、小さなカメラアイまで付いていて、こちらの様子を追尾するようにクリクリと動いておる。
どうやらこちらのことを、つぶさに観察している様子だが……。
正直いって、薄気味悪い。
中身だけ取り出したら、この移動用カートは、庭先にでも放り出しておくのが吉だろう。
多分、錆びちゃって壊れるだろうけどな……。
「ン? なによ、コレ?? 変なのが箱の横から出てる」
「……紐、みたいだな?」
余りにも、不自然過ぎる……。
「どうしよう……コレ、引っ張ってみたくなってきた」
「彩、辞めとけ。爆発するかもしれないぞ? なにせ、あの伯父さんが作ったモノだ」
「え? あはは。まさかぁー♪」
妹の彩は可愛いらしく苦笑い、再びその紐を見つめ「ンー……」と悩み顔。
どうやら、どうしても引っ張ってみたいらしい。
普段から、チャレンジ精神豊富な妹らしい試みではあるが。父さんが、間もなくセキュリティー解除して開けてくれるのだから、何もそんな危険な冒険をわざわざする必要はないだろう。
「ていっ!」
「──へ??」
うわ、やってくれた!と思い驚く間もなく。これから開けようと勇み足に近づく父さんの目の前で、それはびっくりするほど簡単に《パカン☆》と開いた。
家族一同、その様子を呆れた表情で見つめる……。
何はともあれ、箱の中で静かに佇む美少女A.I.ロボットに目を奪われ。あの彩さえも、ついつい惹かれたのか、「はぁ~っ……思ってたよりも、リアルで綺麗なものだね?」とメイロボが寝かされている箱の中へ、不用意にも顔をそっと近づける。
――と、その時だ?!
箱のカメラアイが赤く点灯し、警告音が鳴る。それを見て、オレは咄嗟に嫌な予感を感じ、妹の彩の肩を掴んで、後ろへと引き下がらせた!
と、ほぼ同時に。それまで、まるで起動音さえしていなかった箱の中の美少女ロボットが、唐突に赤い瞳をカッと開き。彩を庇ったこのオレの首を、両手で掴み締め上げてくる!?
妹の彩は、それを見て途端に悲鳴を上げていた。
親父もお袋も、同じようにただただ慌てふためいている。
それにしても、コレは冗談抜きで『暴走』なのか?! まさか本当に、リアル・エ○ァン○リオンを体験させられるとは思ってもみなかったが……。
そう思うオレの手元近くへ、ステンレス製の箱の中から、『カシャリ☆』と激しい音を立て、最新鋭っぽい武器がスライドし飛び出してくる。
それがどういう意図なのかは、オレには分からないが。これほど都合のいいことはない。
それを素早く手に取り、『暴走中』と思われるロボットに対し、撃つ構えを素早く見せた!
が、メイドロボットはそれを見てもまったく動揺することなく。そんなオレに対し、やはり美麗で優しげな笑顔をただただ向けてくる……。
ダメだ、こんな可愛い子。オレには、とても撃てない……。
オレはその銃口を、ゆるりと口惜しくも下げてしまう。
その間もなく、箱の方から、またあの声優さんの美声でアナウンスが鳴り響いてきた。
『《テスト1、合格》だ。このまま、《テスト2》へ移行する』
「は?」
そんなアナウンスのあと、オレの首を、にこやかに絞めていた美少女ロボットは手指を途端に緩め。オレは、それでようやく解放された。
が、予想もしないことに、次にメイドロボットが行動し向かったのは、妹の彩の方だった!?
やはり、同じく両手で、彩のその首を素早く締め上げている。
その動きが、余りにも素早すぎて、流石の彩も抵抗する間もなかったようだ。
「――た、助け……!」
「ひ、彩!!」
オレは空かさず、『暴走』し続けているメイドロボットに対し撃つ構えを見せた!
が、やはり直ぐには撃てず。悩みが生じてしまう……。
『どうした? 直ぐに撃たなければ、君の妹は救われないぞ! まさか、諦める気か? 見殺しにするつもりかぁ? 思っていたよりも、君は、冷たいやつなのだな』
「……」
ステンレス製の箱から、そんな美麗な声優ばりの音声が聞こえてくる。そのカメラアイは、相変わらず赤い。
……まさかとは思うが、『暴走』しているのは、あのロボットの方ではなく。この、ステンレス製の箱の方ではないのか?!
この箱を制御しているシステムA.I.にウィルスが入り込み、こんな馬鹿な命令を、あの美麗ロボットに出している可能性だって考えられる。
オレは刹那的にそう考え、箱の方へ銃口を向け直した!
確証を得る為にだ。
すると、
『……ほぅ。実に、冷静な判断だ。
が、もはや無駄なことだ。既に、指示は出してある。あのA.I.ロボットを撃たない限り、君の大事な妹の命は、助からない。
さあ、君はここでどう判断する?
言っておくが、その銃には、弾が一発しか入っていない。
つまり、チャンスは一度だけだ』
「……クッ!!」
『何を迷う必要がある? よくよく考えても見ろ。
君の妹を苦しめているのは、ただのロボットだ。鉄くずだ。血も通わぬ機械なのだぞ! それを撃ち抜き、壊すだけで、君の妹は助かる。実に、簡単な理屈じゃないか。その事を理解した上で、よくよく判断するがよい』
「……」
『暴走』しているのが、あの美少女ロボットなら、まだ迷いは生まれなかったと思う。
が、どうやら暴走しているのは、あのロボットの方ではなく。この冷酷な箱の、A.I.だ!
つまり、あの美少女ロボットに、非は無い。
しかし……だからといって、彩を見殺しには出来ない! 計画し、指示命令を出しているのは、きっとこの箱に違いないが。それを受け、実行しているのは、あの美少女ロボット自身なのだ。
オレは、苦悩しつつ歯軋りをしながら、美麗な笑顔を見せ続けているメイドロボットの片腕に照準を合わせ、「南無さん!」とばかりに銃のトリガーを引いた!
が、
『ポン♪』
「へ?」
その銃口からは……呆れたことに、一輪の花が飛び出しただけだった。
◇ ◇ ◇
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