#05
「マーディン様!」
前『ホロウシュ』筆頭トゥ・シェイ=マーディンの声を聞き、キノッサは即座に機種を翻した。親衛隊仕様『トリュウCB』と量産型『トリュウ』が、ライフルを撃ちながら二手に分かれて急発進する。
「見えないッス。じ、状況は!?…」
『ルーン・ゴート』のコクピット内で、キノッサは激しく
キノッサは『ルーン・ゴート』を人型に変形させて、連装ブラストキャノンを装備した右腕を中空へ向けて振り回した。キノッサとしては自分を救援してくれた上に、一対二の不利な状況で戦っているマーディンを、援護したいのである。しかしその動きは、キノッサの反射神経では速すぎて追えない。
そのマーディンは『シデンSC』を二度、三度と激しく急旋回させて、二機の敵からの射撃を回避した。敵の一機は自分と同じ親衛隊仕様機。そしてもう一機は量産型だが、親衛隊仕様機と行動を共にしているだけあって、操縦技術は高い。一機の射撃を躱したところへ、もう一機が正確に銃弾を放って来る。
“こいつは三対一のままだったら、死んでるな”
機体をさらに急激に機動させ、マーディンは胸の内で呟いた。キノッサの『ルーン・ゴート』を狙って隙を見せていた一機を先に仕留めていなければ、到底躱しきれなかった…と思う。
とそこへ、ようやく敵の位置を把握する事ができ始めたキノッサの、『ルーン・ゴート』が援護射撃を開始した。ただその照準はかなり甘い。
「あいつ。逃げろと言ったのに!」
端正な顔をしかめるマーディン。キノッサの技量では、人型で宇宙空間に停止して射撃を行うのは危険だ。混戦の中ではどこから、別の敵が現れるか分からないからである。
しかしキノッサの無謀とも思える行動が功を奏した。キノッサ機からの射撃を受けた量産型『トリュウ』が回避運動をとった事で、親衛隊仕様機との連携が中断したのだ。それは僅かなタイムラグだったが、マーディンに精密射撃の時間を与えるには充分だった。カウンターのように放ったマーディンの超電磁ライフルが、敵親衛隊仕様機の超電磁ライフルに命中して銃身をへし折る。
銃身を破壊された超電磁ライフルを宇宙空間に投げ出して、『トリュウCB』は急加速を掛ける。その直後に爆発を起こす親衛隊仕様機の超電磁ライフル。加速した『トリュウCB』は、ポジトロンパイクを手にしてマーディンへ向かって来た。それにやや遅れ、量産型『トリュウ』もマーディンとの距離を詰め始める。しかもそのやり口は巧妙で、小刻みな回避運動を加えながら、機体をキノッサとマーディンとの直線コース上へ入れたのである。これではキノッサの甘い照準技能が、マーディンにまで危害を及ぼしかねず、援護射撃は出来ない。
「どっ!…どうすれば、いいんスか!?」
援護射撃をするにも、自分の能力を超える精密射撃が必要な状況に、キノッサは臍を嚙む思いだった。頭の中がもどかしさでザワザワする。自分の無能さに胃の辺りが痛くなる。
人型に変形した状態の『ルーン・ゴート』は、マーディン機へ向かっていく量産型『トリュウ』の背中に、連装ブラストキャノンを装備した右腕を向けるが、大きく震えて狙いが定まらない。まるで初めて誰かを銃で撃とうとしている人間のように、そして操縦者であるキノッサの葛藤を示しているかのように…
だがキノッサも自分の思いに囚われている場合ではなかった―――
「撃つ。撃つッスよぉ!」
気持ちを強く持ち直して左手で右腕を支え、量産型『トリュウ』を照準しようとするキノッサ。ところがそんな行為は、無重力状態の中では何の意味もない。そして次の瞬間、ロックオン警報が鳴ったかと思えば、思わぬ方角から飛んで来たビームが、キノッサの機体の右腕を吹き飛ばした。
「うぇえっ!!!!」
ブラストキャノンごと爆発する機体の右腕に、キノッサは叫び声を上げる。狙ったのは、キノッサが取り逃がしたあのASGULの『ゼラ・ランダン』だった。駆逐艦との同士討ちを避けて離脱した後も、襲撃の機会を窺っていたのだ。
「しまったッス!」
確かに不覚であった。だが同時に幸運でもあった。敵のASGULはキノッサのいるコクピットを狙ったのだが、キノッサが機体を安定させていなかったため、射線上に先に右腕が入ったのである。命拾いしたキノッサは、残った左腕でポジトロンランスを掴み、機体を何度も翻した。
火力重視型の赤タイプ『ゼラ・ランダン』は、ブラストキャノンを撃ちながら、キノッサの『ルーン・ゴート』に接近して来る。ここで背中を見せて逃げようとするのは、キノッサにとって自殺行為に等しい。
“どうするッスか! どうすりゃいいッスか!!!!”
▶#06につづく
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