#06

 

 同じ瞬間、マーディンの『シデンSC』は二機の敵BSIユニットと、立ち回りを演じていた。右手には超電磁ライフル、左手にはクァンタムブレードで、間合いを詰めて来る親衛隊仕様機の、『トリュウCB』のポジトロンパイクの斬撃をQブレードで打ち払うと、それに続いて後方から攻撃しようとする量産型『トリュウ』へ、ノールックで超電磁ライフルを向けて銃撃を加える。


 驚いて緊急回避する量産型『トリュウ』。だが親衛隊仕様機の方がマーディンに対し、第二の斬撃を袈裟懸けに放って来た。殺気を感じて機体を翻し、敵の陽電子フィールドに包まれたパイクの刃を、マーディンの『シデンSC』は紙一重でやり過ごす。すると通過した親衛隊仕様機の背中ががら空きとなった。即座に超電磁ライフルの銃口を、隙が出来た敵機のバックパックへ向けるマーディン。


 そうはさせじと量産型『トリュウ』が、横合い上段から斬りかかって来る。それをマーディンは左手のQブレードを頭上に掲げて打ち防ぐ。ここでライフルのトリガーを引いて、まず親衛隊仕様機を撃破するのが一連の流れの括り―――ところがマーディンは突然、その銃口を全く別方向へ向けて撃ち放った。その銃弾が向かった先は、今まさにキノッサの『ルーン・ゴート』に回避不能の一撃を放とうと、急接近していく敵の『ゼラ・ランダン』である。牽制の一弾を放ったマーディンは、強い口調で通信機へ呼び掛けた。


「キノッサ!!―――」




「うわぁあああ! もぅダメだぁああああ!!!!」


 ポジトロンランスを左腕一本で構えた『ルーン・ゴート』のコクピットで、顔を引き攣らせたキノッサは叫び声を上げている。機体を必死に操り、どうにか直撃は免れているものの、火力重視型『ゼラ・ランダン:バスター』の高威力ビームは、掠めるだけでも脅威で、人型に変形しているキノッサの機体はあちこちが破損し、ボロボロになって来ていた。

 そしてそんな必死の回避ももうもたないのは必至だ。このまま接近され近距離で撃たれたら、自分の技量では逃げようもない。ポジトロンランスの穂先こそ敵機にロックオンしているが、鑓の間合いに入る前に撃たれるに違いない。


 だが次の瞬間、敵の『ゼラ・ランダン』は不意に機体をスクロールさせ、射撃を中断した。その直後、一発の銃弾が『ゼラ・ランダン』の進路を遮るように飛び去る。マーディンが放った牽制射撃だ。そしてマーディンの声。


「キノッサ!! 戦えーーー!!!!」

 

 マーディンの声に命じられるまま、キノッサは瞼をきつく閉じると無我夢中で、鑓を持つ『ルーン・ゴート』の左腕を突き出させた。


「わぁあああああああ!!!!」


 直後にガガガン!…と機体を激しく揺さぶる衝撃と震動。キノッサは脳味噌が攪拌され、ヘルメットごと頭を持っていかれそうな思いをする。しかしその生存本能は、そのまま意識を失う事を許さなかった。すぐに我に返り、何がどうなったかを確かめようとする。

 まず聴覚は、つい今しがたまであれ程けたたましく鳴り続けていた、ロックオン警報が止んでいる事に気付く。そしてコクピットを包む全周囲モニターのマーカー表示が示すまま、後ろを振り向いた視覚は、ポジトロンランスに機体を貫かれている敵の『ゼラ・ランダン:バスター』が、無重力空間に漂ったのち、爆発を起こす瞬間を捉えた。


 マーディンの牽制射撃に対する回避運動で、キノッサ機に対する射点をずらされた『ゼラ・ランダン』のパイロットは、一旦キノッサ機をやり過ごして反転し、再度距離を詰めて射撃しようと考えたのだ。だがその航過する際に、キノッサの突き出したポジトロンランスの間合いに入ってしまい、機体が串刺しになってしまったのである。キノッサにとっての幸運は半分以上が偶然であるが、相手のパイロットがなまじ熟練者であったため、機動性より火力を重視した機体で、紙一重の機動戦を行おうとした過失。キノッサ自身が恐怖に駆られて、むやみにポジトロンランスを振り回すのではなく、穂先を敵機にロックオンさせ続ける正しい戦術といった、様々な要因が、戦場での生死を分ける好例であった。


「やった…やったッスか………ホントに…」


 肩で息をしながら自分の戦果を確かめたキノッサは、戦場で立ち止まる危険性を思い起こして、すぐに機体を発進させる。そして自分の戦果に手を貸してくれた、マーディンの位置を再び探し始めた。


「マ、マーディン様は?」




 そのマーディンは、キノッサを援護した直後、超電磁ライフルを失っていた。あのとき撃たなかった親衛隊仕様機に、振り向きざまの斬撃を喰らい、防御のために咄嗟に出した超電磁ライフルを破壊されたのだ。

 その後、互いに距離を取って仕切り直した三機は、宇宙空間にいびつな三角形を描く形でにらみ合っている。二対一でマーディンはが不利な状況は変わらない。しかも相手の二機は手練れだった。ただマーディンに焦りはない。


「試してみるか…」


 そう呟くマーディンの言葉と共に、彼の『シデンSC』はQブレードを鞘に収めて、代わりにバックパックのハードポイントに固定していた、大型のポジトロンランスを手にする。下段に構えられたその鑓は柄が伸びて、さらに長さを増した。




▶#07につづく

 

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