#02
ここで鬼神の働きを見せたのが、ラン・マリュウ=フォレスタだった。
メタリックバイオレットの美しい機体が、まるでテレポーテーションでもするような瞬間的な機動を行い、ポジトロンパイクを右へ左へ降り抜く度に、量産型『トリュウ』もASGULの『ベゼローダ』も、機体が引き裂かれてゆく。
そんなランを露払いに、周囲を『ホロウシュ』の『シデンSC』に守られた、ノヴァルナの『センクウNX』は超電磁ライフルを放ちながら、ギィゲルトの『サモンジSV』との距離を、詰めようとしている。
だが『サモンジSV』も『センクウNX』より二回りもの巨体ながら、動きは俊敏であった。遠距離狙撃用の『ディメンション・ストライカー』は、この距離での使用は不向きであるため、武器は通常型の超電磁ライフルに切り替えており、またこれによって五基も内蔵されている、小型対消滅反応炉の出力を機体機動へ回すことが可能となっているからだ。
前方左右に二機ずつの親衛隊仕様『トリュウCB』を置いた、『サモンジSV』が半重力ホバリングで、デーン・ガークのクレーターの底を不規則蛇行し、『超電磁ライフル』を放って来る。それを回避しつつノヴァルナも撃ち返すが、双方ともに決定打はない。しかもノヴァルナはギィゲルトの『サモンジSV』だけでなく、張り付くように護衛している、四機の『トリュウCB』 からの射撃を回避する必要もあった。
“くそっ。時間をかけてる場合じゃ、ねぇってのに!…”
操縦桿を握り、トリガーボタンを押し込みながらも、ノヴァルナは焦燥感を募らせずにはいられない。なにしろ自分達がいるのは、敵の本陣の真ん中なのだ。手間取れば今以上の増援のBSIなどが、続々と殺到して来るに違いない。
ただ焦燥感に駆られているのはギィゲルトも同様だった。
まずノヴァルナのBSHOに対する射撃が当たらない。自らの『サモンジSV』だけでなく、随伴する四機の親衛隊機も同時に射撃しているのだが、これが当たらない。『サモンジSV』は三人乗りで、射手を務めるギィゲルトは、射撃だけに集中すればよいのだから、当たらない事への忌々しさも、ひとしおである。
「おのれ、ちょこまかと!」
そしてもう一つの苛立ちの要因は、自軍の動きであった。もっと一斉に増援が参集して、数でノヴァルナを押し包んでしまえば、仕留めるのも容易いのだが、その増援が思うほど数を揃えられず、ノヴァルナの親衛隊に各個撃破されてしまっているのだ。
その原因は前述した、実戦経験の浅い司令官達の部隊が勝手に殺到し、かえってギィゲルト直卒のイマーガラ第1艦隊の行動の、妨げになっていたためである。
主君ギィゲルトを救援せねばという忠誠心、あるいはノヴァルナを討ち、勲功第一の称号を得たいという野心。その比重は個々人によって違いはあれ、独断で本陣救援へ向かって来た艦隊司令官配下の、BSIなどの機動兵器や小艦艇が一ヵ所に向け殺到した事で、ニアミスによる緊急回避が頻発。操縦性が安定しないまま本陣へ接近しては、『ホロウシュ』達の各個撃破に遭っていた。これが、本来のギィゲルトの増援部隊であった、イマーガラ第1艦隊のBSI部隊の行動を、阻害していたのである。
多数の機動兵器が集まって来ているとは言え、広大な宇宙空間でニアミスの頻発とは、奇妙な話ではあるが、準光速で移動しているBSIユニットの速度は、最高で秒速10万キロ近くも出ている。その上で例えば、僅か衝突十秒前での自動ニアミス回避を、機体に設定していたとしても、100万キロもの相対距離で回避運動に入る事になるのだ。
そうであるから広大な宇宙空間といえど、多数の機体が味方同士で一点に集中するのであれば、部隊間の統合リンクが必要であり、それがなされていないまま無計画に集まろうとすると、機体が自動的に味方同士で距離を取る行動を起こし、こういった事態が発生するのだった。しかもここは小惑星帯のただ中であり、衝突の危険性があるのは味方機ばかりではなく、辺りを浮遊する小惑星をも注意しなければならない。
「むぅ。愚か者どもめ!!」
呼んでもいない部隊の参集による戦場の混乱。自軍の状況を把握したギィゲルトが罵り声を漏らす。
しかもこの直後、カーナル・サンザー=フォレスタ、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータらが率いる、本陣突撃艦隊のBSI部隊が、イマーガラ側の迎撃網を突破して出現した。当然ながらナルマルザ=ササーラが指揮する、残り十四人の『ホロウシュ』も一緒である。
艦砲の援護射撃と、弾種を炸裂弾にした超電磁ライフルの爆発が、デーン・ガークの上空で無数に起こり、イマーガラ軍のBSIユニットやASGUL、攻撃艇を大量に吹き飛ばされる。
まるで巨大な穴を穿つように一連の爆発が発生した個所から、ウォーダ軍の機体が雲霞の如く、続々となだれ込んで来た。
「ノヴァルナ殿下!!」
「ノヴァルナ様!」
「ノヴァルナ様は、いずこにおわす!?」
ササーラ、シルバータ、そしてサンザーの呼びかけに、ノヴァルナはせわしなく操縦桿を操作しながら、いつもの不敵な笑みを浮かべて応じる。
「おう! 来たか!!」
▶#03につづく
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