#01

 

「突入部隊は全BSIを発艦させ、敵本陣へ! 敵艦隊は私達で引き付けます!」


 ナルガヒルデのさらなる指示で、トンネル陣形の中から飛び出したウォーダ軍の第1、第2、第6艦隊は、即座に全てのBSIユニットと攻撃艇からなる、機動部隊を発艦させた。特に空母打撃群の第6艦隊では、ウォーダ家BSI部隊総監でもある艦隊司令のカーナル・サンザー=フォレスタが、自らの専用BSHO『レイメイFS』で、先陣を切って飛び出している。


「BSIパイロットは総員。今日を命日と心得ろ!!」


 大型十文字ポジトロンランスを手にした、『レイメイFS』を最大加速させながら、サンザーは叩きつけるように言い放った。




 一方で第1艦隊の宇宙空母から発進したBSI部隊でも、指揮官の檄が飛んでいる。指揮を執っているのはカッツ・ゴーンロッグ=シルバータ。ノヴァルナの弟カルツェの謀叛にくみし、最終的にノヴァルナの味方となったものの、カルツェを正しく導けず、みすみす死なせてしまったとがで謹慎を喰らっていたのだが、ウォーダ家の存亡の危機にノヴァルナは、第1艦隊BSI部隊指揮官の役職を与えて、復帰させていたのだ。


「サンザー殿に後れを取るな! 全機、後ろを振り返る事なく進め!! 味方の屍を乗り越えてゆけ!!」


 通信モジュールに叫びながらシルバータは、自分が操縦する親衛隊仕様『シデンSC』の操縦桿を握り締め、胸の内でかつての主君カルツェに語り掛けた。


“カルツェ様。見ていて下さい………”




 突き進むウォーダ軍BSI部隊。その進路を塞ごうと、左右から出現するイマーガラの大艦隊。だがその動きは統制を失いつつあるように見える。総旗艦『ギョウビャク』との通信が途絶し、本陣に異変が起きた事を知り始めたからだ。


 しかもノヴァルナは、『センクウNX』のステルスモードを解除して、『ギョウビャク』に銃撃を浴びせた直後、IFF(敵味方識別装置)に自らの家紋を表示させた。敵味方を問わず、自分が見ている戦術状況ホログラムのイマーガラ家本陣、または本陣と想定している位置に、突如としてウォーダ家嫡流―――この場合ノヴァルナ当人を示す、『流星揚羽蝶』の金紋が出現したのだから、ウォーダの将兵は奮い立ち、イマーガラの将兵は驚愕するのも当然である。


 本来であれば、戦力を削いでおいたウォーダ軍のトンネル陣形に、とどめを刺すため立ち塞がるはずだったイマーガラ艦隊の壁は不完全で、サンザーやシルバータらが率いるBSI部隊に次々と突破されてゆく。

 

 ここでイマーガラ家に弊害を起こしたのは以前、シェイヤ=サヒナンやモルトス=オガヴェイなど、ベテラン武将が酒を酌み交わしながら語り合った、キヨウ上洛に備えるためここ数年で大幅に増強された宇宙艦隊の、実戦での指揮経験の浅い司令官達であった。

 トンネル陣形を組んだウォーダ軍の主隊にとどめを刺す、壁を形成する役目を得ていたのが彼等だったのだが、総旗艦『ギョウビャク』との連絡が不通になり、その位置に突然『流星揚羽蝶』の金紋が出現した事で、思考停止と混乱に陥り、自らの艦隊指揮にまで支障が生じたのである。

 しかも間が悪かったのは、その直後、今度はギィゲルト本人から、本陣に出現したノヴァルナを討ち取れという、第1艦隊への命令を耳にした事だった。ギィゲルトは“第1艦隊へ命じた”のであるが、彼等の中には独断で、ノヴァルナの討伐へ向かうよう命令を下した者が何人かおり、その勝手な艦隊行動が、当初の命令通り壁を形成しようとしていた艦隊の間で、足を引っ張り合う状況を生み出したのだ。


「おい、貴様ら。勝手な事をするな!」


「何言ってる、本陣が攻撃されてるんだぞ!」


「本陣を奇襲して来たのは小部隊だ。第1艦隊に任せておけ!」


「その部隊の中にノヴァルナがいるんだろう。奴を討ち取れば報酬は思いのまま。こんなとこで壁役なんか、やってる時じゃないだろ!!」


「む…う。それもそうか」


 自らの忠誠心なり野心なりに従い勝手に本陣救援に向かう者、あくまでも命令を遵守しようとする者、そして途中から変節する者…それら若手司令官の思惑が入り乱れて、混乱する敵陣の中を次々と突破していく、ウォーダのBSIユニット。


 ただ無論、そんなウォーダ軍の突破を許そうとしない、イマーガラの兵も多い。指揮官のレベルはどうであれ、個々の戦闘は激烈を極める。艦と艦の間隙を埋めるように立ちはだかる、イマーガラ軍の量産型『トリュウ』が超電磁ライフルを連射し、簡易型ASGULの『ゼラ・ランダン』が、攻撃艇形態で突っかかって行く。


「立ち止まるな! 迎撃機の撃破戦果など捨て置け!」


 そう叫ぶのはカーナル・サンザー=フォレスタだ。BSHO『レイメイFS』が右手に握る超電磁ライフルを一連射。前方からビーム砲を討ちながら接近する、二機の『ゼラ・ランダン』をまとめて撃破すると、確認に気を回す事無く、さらにその後方から間合いを詰めて来ていた『トリュウ』を、ポジトロンランスで刺し貫いておいてこれも宇宙に放り出し、本陣目指して先を急ぐ。

 

 しかし激戦と言えばやはり、小惑星デーン・ガーク上の戦いであった。イマーガラ軍の最初の増援はまず、墜落した『ギョウビャク』や周囲の直掩戦艦から発進した、ギィゲルトの親衛隊の残り12機である。

 主君を守るための選りすぐりのパイロットが乗る、親衛隊仕様『トリュウCB』は射撃も格闘も別格で、正確な照準と鋭い切っ先をして、ノヴァルナと六人の『ホロウシュ』に迫って来る。


 だが、この一戦に裂帛の気迫を持って臨んだ、ノヴァルナ達も引けは取らない。特にこの日、この時のため、血の滲むような訓練に励んで来た『ホロウシュ』は、倍する敵の親衛隊機と互角以上に渡り合った。

 飛び回る蜂の群れの如く、連射する超電磁ライフル弾を悉く回避し、間合いを詰めて来る『ホロウシュ』達の『シデンSC』。ライフルを撃つギィゲルト親衛隊が口を揃えて呻くように言う。


「くっ!…当たらないだと!?」


「こ、こいつら!!」


「チィイッ!」


 それは奇しくもノヴァルナと戦った敵が、驚愕の表情と共に口にする言葉と同じであった。まさに今の『ホロウシュ』達の技量は、ノヴァルナの分身と言ってもいいほどまでに高まっている。

 外れ弾がクレーター内側の壁面で、灰白色の砂煙の柱を林立させる。それを背景に回り込んで来たシンハッド=モリンの『シデンSC』が、ポジトロンパイクを真横に一閃した。咄嗟に腰のクァンタムブレードを引き抜いて、打ち防ぐギィゲルト親衛隊の『トリュウCB』。すると次の瞬間、『トリュウCB』パイロットの視界から、モリンの『シデンSC』が一瞬で消える。


「なにっ!? 速…」


 驚きの言葉を言い終わらぬうちに、爆発光に包まれるパイロット。そしてその時にはもう敵機のバックパックを、超電磁ライフルのゼロ距離射撃で撃ち抜いたモリンは、別の『トリュウCB』からの斬撃を躱すため、新たな機動に入っていた。

 さらにもちろん、こういう俊敏な機動戦闘を行っているのは、モリンだけではない。ナガート=ヤーグマーやキスティス=ハーシェル、トーハ=サ・ワッツにジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムも同様に、敵の親衛隊機との戦いを有利に運んでいる。


 ただ、やはり油断はできなかった。ギィゲルトの命令を受けた、イマーガラ第1艦隊の各艦から発進したBSI部隊が、ノヴァルナを討ち取るため続々とデーン・ガークへ飛来し始めている。それらは十数機単位でギィゲルトの『サモンジSV』と、ノヴァルナの『センクウNX』の間に割って入って、主君を守り、ノヴァルナを葬ろうとした。





▶#02につづく

 

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