#05

 

 ノヴァルナが右半身大火傷の重傷だったものの、命には別条なく難を逃れたのには、反重力バイクの転倒時に衝撃を緩和するエネルギーシールドが、星大名家の嫡男が乗用するという事で、より高出力のものになっていた事。そして何より、爆弾を仕込まれたプローブの怪しい動きに気付いた、『ホロウシュ』の咄嗟の行動がものを言ったのだ。


 最初の自爆は反射的にバイクを加速させ、ノヴァルナの前へ出たジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムが身を挺して、背中に大火傷を負いながらノヴァルナを守った。そしてあとのプローブはガラク=モッカとクローズ=マトゥが、銃撃で撃ち落とし、ジュゼ=ナ・カーガは倒れて意識を失ったノヴァルナに覆い被さって、再度の爆発が起きた場合の盾となったのである。


 それで無論、ノヴァルナの宙域巡察は中止となり、即座に惑星ラゴンへ引き返して治療にあたる事となったのだ。


 この件に関しては、ノヴァルナが自分勝手にバイクで飛び出した事に、責任の一端があるのだが、ノアはひどく心配こそすれ、ひと言も怒りはしなかった。それどころがキノッサやネイミアの手も借りず、自分自身で甲斐甲斐しくノヴァルナの世話をしてやっている。

 ただこれが、ノヴァルナにとってはノアに対し、下手に怒られるよりこたえたのであった。それに自分を庇って負傷したフォークゼムにも悪いと思う。さらに長年愛して来た自分のバイクが、破壊されてしまったのもショックである。そういう事もあって、現在のノヴァルナは珍しく、“しょんぼり”していたのだ。


 一方で当然ながら、ウォーダ家じゅうが大騒ぎになった。敵の多いノヴァルナではあるが、自分の領地で暗殺されかけたとなると、ウォーダ家の内部犯行が有力となるからだ。


 まず疑われたのが、やはりノヴァルナの弟のカルツェ・ジュ=ウォーダ。二人のこれまでの関係を知る者ならば、そう考えざるを得ない。ただこれについては、天地神明に誓って関与していないというのが、カルツェの側近クラード=トゥズークの主張であった。


 そして次に疑われたのが、旧イル・ワークラン=ウォーダ系の家臣達である。暗愚であった当主のカダールだったが、中には上手く取り入って甘い汁を吸っていた者もいた。そういった者達は、ノヴァルナによって全て排除されていたため、逆恨みを買っていてもおかしくなはい。


 無論、ウォーダ家の内部犯行に見せ掛けた、イマーガラ家やイースキー家の策略という事も充分考えられ、どれもが決め手に欠けていた。

 

 翌日、早くも回復を果たしたノヴァルナは、執務室に入るとまず、カルツェの側近カッツ・ゴーンロッグ=シルバータ一人を呼びつけた。


 その理由を知るシルバータは、神妙な面持ちで執務室に入って来る。そして事件後初めて顔を合わす主君に、「随分とご回復なられたようで、宜しゅうございました」と、生真面目な口調で告げた。「おう。まあな」と応じるノヴァルナ。


 そのノヴァルナは、幾分サイズが小さくなってはいるが、右頬に白色の組織再生パッドが貼り付けられていた。「それでだ、ゴーンロッグ―――」と言いながら、つい痒みが残る右頬に手を伸ばす夫に、ノアが「掻いちゃ駄目よ」と注意する。ノヴァルナは苛立った表情で、頬に触れないように手前で指をガシガシ掻く仕草をしてから、シルバータに問い質す。


「それでだ。おまえの口から直接聞きたい。今回の件にカルツェは本当に関わっては、ねーんだな?」


「はっ…それはもう、誓って」


 三年前のカルツェの謀叛の際の戦闘で、ノヴァルナの強さとその本質を知ったシルバータは、今ではカルツェの側近であると同時に、ノヴァルナの忠臣となっていた。そしてその役目はカルツェの監視役というより、カルツェに二度と下手な真似をさせないための、お目付け役であったのだ。シルバータは不器用な男である分、謹厳実直で嘘の付けない人間である。したがって、口八丁手八丁のクラード=トゥズークが、同じ言葉を百回繰り返すよりも信用が置ける。


「嘘じゃねーだろな?」


「ございません」


 念を押すノヴァルナに、シルバータは重々しく頷いて答えた。そのまましばらくシルバータを見据えたノヴァルナは、やがて「わかった」と応じ、「下がっていいぞ、ゴーンロッグ。ついでにメシでも喰って帰れ」と続ける。わざわざ惑星ラゴンの裏側になる、スェルモル城から呼びつけるような用件でもなさそうではあるが、ノヴァルナにすればシルバータの顔を直接見る事こそ重要だったのだ。


「それでは…」


 そう言って執務室を退出しようとするシルバータの背中に、ノヴァルナは「ゴーンロッグ」と声を掛けて呼び止める。「はっ…」と言って振り返るシルバータに、ノヴァルナは真剣な眼差しで告げた。


「分かってるな、ゴーンロッグ。もし今度、カルツェが謀叛を企てて、それが表沙汰になれば、星大名家当主として、俺はヤツを許す事はできねぇ。ぜってーに、馬鹿な真似をさせんじゃねーぞ………」





▶#06につづく 

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