#09

 

 船室の向かい合わせのソファーにノヴァルナとノア、キノッサとネイミア。まずノヴァルナが口を開き、皇都惑星キヨウでトゥ・シェイ=マーディンと、カーズマルス=タ・キーガーから入手した情報を開示した。


 ノヴァルナとノアが飛ばされた皇国暦1589年の世界。それを引き起こしたと考えられる、トランスリープを発生させた『超空間ネゲントロピーコイル』は、ルキナ=エンダーとノアの考察から、このシグシーマ銀河系の中心に対し直角となる正六角形を描く、六つの恒星系の中の一つの惑星に直径三十キロにも及ぶ、パーツコイルが建設されていると推測されていた。そしてそのパーツコイルの一つが、ノヴァルナとノアが不時着した、未開惑星パグナック・ムシュに存在していたのである。


 ただパグナック・ムシュには、ムツルー宙域でダンティス家と覇権を争う星大名アッシナ家に手を貸し、自らの領地獲得を狙う恒星間マフィアのボス、ピーグル星人のオーク=オーガーが営む、麻薬草ボヌリスマオウの大規模農園もあった。

 するとノヴァルナはオーガーの機動城『センティピダス』内に潜入した際、帳簿データに侵入し、このボヌリスマオウ農園を造園したのが、『ラグネリス・ニューワールド社』という植民惑星開拓企業である事を知る。


 この『ラグネリス・ニューワールド社』はマーディンの話によれば、植民惑星開拓業界では五・六番手を争う比較的新興の企業で、本社をセッツー宙域のオ・ザーカ星系第四惑星ガルシナに置いていた。


 問題の第一はこの惑星ガルシナである。惑星ガルシナは近年、勢力を急速に拡大しつつある新興宗教、イーゴン教の総本山の『イシャー・ホーガン』があり、両者の関係性に疑わしいものを感じさせる。


 問題の第二は、この『ラグネリス・ニューワールド社』がムツルー宙域の恒星間運輸会社、『グラン・ザレス宙運』の隠れ蓑なのではないかという疑い。オーガーの一味が、ボヌリスマオウの輸送に使用していた中古貨物船の舷側に、古びれて消えかけた『グラン・ザレス宙運』の文字があったのは、偶然とは思えない。


 問題の第三は、ビーダ達がメイアに打った麻薬が、皇国暦1589年のムツルー宙域で売買されていた、ボヌリスマオウから抽出される麻薬“ボヌーク”の開発段階のものであり、しかもそれを開発しているのが『アクレイド傭兵団』だったという事だ。


 これらの情報を並べてみると、確定的な証拠はないものの、全てが繋がっているように思えて来る。そしてその中心にあるのが、イーゴン教団と『アクレイド傭兵団』だった。二つともその実態が正確には把握されていないという、共通した胡散臭さを有している。

 

 ノヴァルナが列挙した事項を聞き、ノアが自分の思うところを口にする。


「確定的な事とは言えないけど、やっぱり…『アクレイド傭兵団』が“ボヌーク”を開発したのなら、『ラグネリス・ニューワールド社』や『グラン・ザレス宙運』は、『アクレイド傭兵団』と繋がっていると考えるのが、妥当だと思うわ」


「だよな」と頷くノヴァルナ。


「カールセンさんの話だと、“ボヌーク”はピーグル星人が、銀河皇国に持ち込んだ事になってるけど、もしかしたら『アクレイド傭兵団』が開発した“ボヌーク”とボヌリスマオウを、『グラン・ザレス宙運』がムツルー宙域まで運んでピーグル星人達に渡し、その栽培農園を、『ラグネリス・ニューワールド社』が造園したんじゃないかしら?…これなら、筋も通ると思うんだけど」


「しかしなぁ、なんでそんなまわりくどい事をする必要が、アクレイドの連中にあるんだ? ピーグル星人どもなんて間に挟まず、直接“ボヌーク”の販路を作りゃいいんじゃね?」


「そうかもしれないけど、ムツルー宙域はここから五万光年以上あるのよ。向こうで使えそうな勢力と手を組んで、任せておいた方が効率はいいでしょ?」


 ノアの回答に「なるほどな」と、ノヴァルナも納得顔になる。やはりノアがいると話が早く進む。


「その『アクレイド傭兵団』の本隊は、『イーゴン教』の総本山があるオ・ザーカ星系から、自治星系のザーカ・イー周辺にいるって話だからな。そうなると、ザーカ・イーの商工業組合もグルだと、考えるべきか…だとすると資金力も頷けるってもんだ。連中の本隊は、自前の艦で編制した大艦隊らしいし」


 自治星系ザーカ・イーは圧倒的な経済力を誇り、一つの星系しか有していないものの、運営予算は一つの宙域国並みであった。それだけの経済力を持った彼等が、『アクレイド傭兵団』を支援していても不思議ではない。事実、ザーカ・イーは自分達の利益のためミョルジ家によるキヨウ侵攻を支援し、『アクレイド傭兵団』の皇都惑星に対する略奪行為をそそのかしたという情報。そしてこれらの仲介を行ったのが、『イーゴン教団』の宗大師ケーニルス=イーゴンだという情報を、カーズマルスから得ている。


「うーん。ミョルジ家に『アクレイド傭兵団』に、『ラグネリス・ニューワールド社』と『グラン・ザレス宙運』…それに『イーゴン教団』にザーカ・イー自治星系かぁ。関係性は想像以上に複雑そうね…」


 情報を得れば得るほど複雑化して来る状況に、ノアも困惑気味だった。そしてさらに例の、『超空間ネゲントロピーコイル』の問題が加わるのだ。


 するとそれまで黙って話を聞いていたキノッサが、不意に口を開いた。


「それってホントは、もっと絞り込めるんじゃないッスか?」





▶#10につづく

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る