#10

 

「絞り込める…どういう事だ?」


 キノッサの言葉に反応するノヴァルナの眼に、興味の光が浮かぶ。


「いえね。ザーカ・イー以外は全部が同じ、一つのものだと考えた方が、分かり易いと思うんスよ」


「同じ一つのもの?」とノヴァルナ。


「はい。ある時は『アクレイド傭兵団』、ある時は『ラグネリス・ニューワールド社』、そしてまたある時は『グラン・ザレス宙運』てな感じで、目的によって分かれてるだけで、根っこの部分は一つか二つなんじゃないかって」


「どうしてそう思うの?」


 キノッサの隣に座るネイミアが尋ねる。


「その方が自然だからッス。一つの大きな組織のだと考えれば、傭兵業は『アクレイド傭兵団』。植民惑星開拓業は『ラグネリス・ニューワールド社』。恒星間運輸業は『グラン・ザレス宙運』て感じッスかね」


「…そんでもって、宗教部門は『イーゴン教団』ってワケか」


 キノッサの意見に自分の思い付きを足し、ノヴァルナは思考を巡らせた。確かにキノッサの言う通りに、『ラグネリス・ニューワールド社』と『グラン・ザレス宙運』だけでなく、『アクレイド傭兵団』と『イーゴン教団』も含めて、一つの巨大組織だと考えた方が納得がいく。

 さらにノヴァルナは惑星ガヌーバで出逢った、『アクレイド傭兵団』最高評議会議員のバルハート=ハノーヴァを名乗る、白髪で初老の男が言っていた言葉を思い出した。それは『アクレイド傭兵団』が、上層部と下層部で組織的に全くの別物だというものである。


 そこにノアが、自分の気になる点を口にした。


「ザーカ・イーは違うの?…今の話には含まれてなかったけど」


 ノアの質問にキノッサは「そうッスね」と応じて続ける。


「あそこは、ちょっと特殊でしてね。儲け第一主義でやってますから、アクレイドの奴等とは、少し違うように思うんス」


「でもノヴァルナの話だと、ザーカ・イーにある恒星間企業の経営者や重役には、イーゴン教の信者が多いって事でしょ?…だったら、一番関係が深いんじゃ…」


「そこなんスけど、ザーカ・イーの企業主連中に信者が多いのは、その方が『イーゴン教団』相手に、商売がし易いからってだけだと思うんスよ」


「そうなの?」


 ノアが問い直すと、キノッサの返答にノヴァルナも同意する。


「そうだな。ザーカ・イーは儲けるためなら、主義主張や信仰心てもんに、こだわりはないからな。ほら、実際俺達が1589年のムツルー宙域で見た、『グラン・ザレス宙運』の貨物船だって、ザーカ・イーの『イーマイア造船』の船だったろ」


 そう聞くとノアも納得せざるを得ない。イーゴン教の信徒は時には先鋭化し、星大名相手に叛旗を翻して戦うような人々だが、全員がそのように熱狂的な信徒ではないのも事実だからだ。


「しかし、その一つにひっくるめた奴等が、あの『超空間ネゲントロピーコイル』を建造してるってんなら、その目的はなんなのかってのが分からねぇな。ノアはその辺はどうなんだ?」


 ノヴァルナの質問に、キヨウ皇国大学でこの『超空間ネゲントロピーコイル』の検証を行っていたノアは、僅かに首を傾げて応じた。


「私が検証したのは現在の科学と建設の技術で、あれが建造可能かどうかのシミュレーションがメインだったんだけど…そうね、目的は分からなくても、あれを建造するには国家予算並みの費用が掛かるのは確かよ。決して酔狂なんかで作れるような代物じゃないわ」


「だろうな…」


 とノヴァルナ。するとキノッサがそれについて所見を述べる。


「その超空間ナントカについてなんすけど…イーゴン教の教義と、なにか関係があるんじゃないスかね?」


「教義だと?」


「はいッス。イーゴン教は、かつてのキヨウでも存在した、偶像崇拝の古代宗教とは違い、“イーゴンの理”とかいう、宇宙の真理の探求が教義らしいんス。そっちから考えると、超空間ナントカに金を注ぎ込む意味も、あるんじゃないッスか?」


「意味って?」とネイミア。


「そこまでは分かんないッスよ。でも連中の信じてる宇宙真理的には、何かの意味があるのかも知んないッス」


「宇宙真理的…つまりは宗教的意味合いって事か?」


 半ば呟くように言うノヴァルナは考える眼をした。確かに宗教的に意味があるのであれば、莫大な技術と資本を注ぎ込むのが、宗教集団というものなのだろう。そして『イーゴン教団』が宇宙真理の探求という、科学技術を信奉しているのなら、『超空間ネゲントロピーコイル』の建造にも、宇宙真理の探求とかいうものに寄与する、何らかの要因があるに違いない。



“だったら奴等はあれで、何を目指しているのか?………”



 まだ何か裏があるような気はするが、これ以上の事を探るのは、今は難しい気がした。それに自分にはキオ・スー=ウォーダ家当主として、ラゴンに帰ってからやらなければならない事も山積している。


 ただその一方で、ノヴァルナは今しがたキノッサが見せた一連の見識に、ある種の驚きを覚えていた。今まで『アクレイド傭兵団』や『超空間ネゲントロピーコイル』などの事については、ほとんど意見を交わした事はなかったからだ。今回ノアとの話し合いに参加させたのも、その場での思い付きだったのである。





▶#11につづく

 

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