#20

 

 ドーツェン=タルコスの第10艦隊が、BSI部隊を発進させながら前進を始めたのは、当然ドゥ・ザンの方でも気が付いた。


「ドーツェンか。おぬしも苦労するのう…」


 戦術状況ホログラムを眺めながらドゥ・ザンは独り言ちる。ギルターツが謀叛を起こし、首都惑星バサラナルムを占領した時、タルコスの艦隊は旗艦をはじめ、主力艦がオーバーホール中であったため、コーティ=フーマのように逃走する事も出来ず、ギルターツへ忠誠を誓うしか道はなかったらしい。

 そうであるならば、なぜこの局面でタルコスの艦隊が前進を始めたのか、その理由も見抜く事が出来るドゥ・ザンだった。


“死してギルターツへの忠義を示す事が、銃後の妻や子…そして配下の兵達の身の安全を得る条件、というわけか”


 ならば存分に、相手をしてやろうぞ…と、ドゥ・ザンは視線を猛禽類のそれと同様に鋭くする。ここで妙に情けを掛けては、タルコスに掛けられた寝返りの疑惑を晴らしてやる事は、出来ないだろう。


「敵、第10艦隊に砲火を集中。こちらもBSI部隊を出せ。半数に対艦オプションを持たせてな」


 ドゥ・ザンの軍が、『ナグァルラワン暗黒星団域』を背後に半球陣を組んでいるのは、その中心に空母を集めて防護していたからだ。その空母群から一斉にBSI部隊が出撃を開始する。


「発艦はじめ!」


「発艦! 発艦! 発艦!」


 各空母から続々発進するBSIユニット『ライカ』。それに次いで簡易型BSIであるASGULの『フェンバット』。さらに攻撃艇の『ロブ・ラド』が、発進口から漆黒の宇宙空間へ飛び出していく。


 よくBSI部隊と聞くと、量産型BSIユニットばかりの編成をイメージさせるが、実際はBSIユニットに乗れるのは武家階級の『ム・シャー』であり、その数は母艦の数からすればそう多くない。あとは民間人から士官学校を経た者がASGUL。民間徴用兵や志願兵が攻撃艇に搭乗しており、それらを総称してBSI部隊と呼ぶのである。その比率は量産型BSIが1.5、ASGULが3.5、そして攻撃艇が5というのが一般的だった。


「コマンドコントロール。こちらブリザード・リーダー。全機発進完了した。誘導を願う」


 母艦を発進したBSI部隊の中隊長機が、指揮統制艦に誘導指示を求める。中隊以上の指揮官には、親衛隊仕様機の『ライカSC』が搭乗機として与えられている。これもどこの星大名にも共通した事だった。そしてこれが艦隊司令クラス、つまり武将クラス以上となると、NNLによるサイバーリンクの適正レベルを満たせば、特別専用機のBSHOが与えられるのである。


「ブリザード・リーダー、こちらバンブーコマンド。これよりブリザード中隊の管制支援を行う」


「了解、バンブーコマンド。宜しく頼む」


 ドゥ・ザン軍、ブリザード中隊の隊長機に乗る若い指揮官は、自分の親衛隊仕様『ライカSC』の四肢重力子バランスを、自分の好みに微調整しながら、母艦からの誘導指示を伝える女性オペレーターの声に応じる。


「こちらこそブリザード・リーダー。ブリザード中隊の目標は0―1―5。敵第10艦隊のBSI二個中隊」


 それを聞いたブリザード中隊長は、顔をしかめて再確認した。コクピットを覆う全周囲モニターが、通り過ぎる味方の重巡航艦群の艦腹を、上下左右に映し出す。


「バンブーコマンド、本気か? 俺の一個中隊で敵の二個中隊を、相手にしろと言うのか?」


「こちらバンブーコマンド。ごめんなさい、だけど相対的な戦力差を考えれば、どこの中隊も、そうしてもらう必要があるの」


 コマンドコントロールからの言葉にしては些か情緒的な物言いに、ブリザード・リーダーも納得せざるを得ない。敵の総数はこちらの倍以上であり、目の前に接近する第10艦隊を退けただけでは、到底済まない話だ。


「了解、バンブーコマンド。祈っててくれ…」


 センサーホログラムに映る、敵のBSI二個中隊を見詰めて、ブリザード・リーダーは操縦桿を握り締めた………


 ブリザード・リーダーと部下達のその後の消息は、今は語る時ではない。それは彼等と同様、激しい戦いが戦場の至る所で繰り広げられていたからだ。攻撃艇同士が、ASGUL同士が、そしてBSIユニット同士が、さらにBSIユニットとASGUL、ASGULと攻撃艇が、己の技量の限りを尽くして激突した。


 超電磁ライフルが唸り、重力子誘導で亜光速にまで加速された銃弾を撃ち出す。振り抜いた腕に握るポジトロンパイクの陽電子を帯びた刃が、相手の機体の分子結合を崩壊させて切り裂く。突き出したクァンタムブレードが、量子位相変異機能によって装甲板と内部機構をプラズマ化し、大ダメージを与える。


 BSI部隊同士の戦闘による爆発の閃光が、幾つも輝く中を掻い潜り、ドゥ・ザン軍の対艦装備を有したBSI部隊は、攻撃目標であるドーツェン=タルコスの、第10艦隊へ肉迫していった。


「敵BSI部隊接近。探知方位021マイナス18。接触まで約2分」


「対BSI迎撃戦闘!」


「迎撃誘導弾、撃ち方はじめ!」


 タルコス艦隊から矢継ぎ早に、無数の誘導弾が放たれてドゥ・ザン軍のBSI部隊に向かう。対するドゥ・ザン軍BSI部隊も反応は早く、即座に小隊ごとにブレイクして回避・迎撃行動に入った。





▶#21につづく

 

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