#21

 

 BSIユニットの通常装備では、超電磁ライフルで余程大量の対艦徹甲弾を撃ち込みでもしない限り、重巡航艦以上の大型艦を破壊にまで至らしめるのは難しい。

 だが宇宙魚雷と同じ反陽子弾頭の、対艦誘導弾を装備した場合は、事情はまた異なる。


「大型艦の足を止め、しかるのちに軽巡以下の敵艦を叩く。全機かかれ!」


 対艦部隊の指揮官が命じると、迎撃誘導弾の攻撃から生き残ったBSI部隊は、一斉に敵艦への襲撃行動に移った。ただ今度は、各艦がCIWS(近接迎撃兵器システム)のビーム砲を、激しく撃ち放ち始める。

 自分の身の安全を考えるなら、距離を取って対艦誘導弾を放てばよいのだが、そうすると今度は、誘導弾が迎撃される確率が上がる事になる。

 ビーム兵器と射撃照準センサーの技術の発達以来、昔の水上戦闘のような遠距離からの誘導弾飽和攻撃は、通用しなくなっていた。その結果、有効な攻撃手段は一周回ってさらに大昔の、航空機による高機動の肉迫雷撃や、急降下爆撃といったものへ戻っている。誘導弾の誘導機能は、命中までの僅かな時間の補正作業に使用されるだけだ。


 思い思いの襲撃コースで敵艦に迫ってゆく、ドゥ・ザン軍のパイロット達。ここで一人のASGULパイロットの様子を見た。


 青い曳光粒子を帯びたCIWSの迎撃ビームが幾つも、コクピットの全周囲モニターを猛然と掠め過ぎ去る。ヘルメットの中にロックオン警報が鳴り続け、恐怖と隣り合わせの状況で、回避のため機体を上下左右に揺さぶるパイロット。怯懦に囚われ、一瞬でも操縦に遅れが出れば、それが死神の抱擁を誘う事になる。


 次の瞬間、左隣を飛ぶ僚機のASGULが、ビームを喰らって火球と化した。破片を撒き散らしながら散華する仲間を、感情を押し殺した目で一瞥する。それよりも目指す敵の戦艦は目前だ。大型艦を狙う時の最大の障害は、遠隔可動式のエネルギーシールドパネル、アクティブシールドだが、今は幸いな事に、全てのアクティブシールドが前方を向いている。味方の戦艦群からの主砲射撃が激しく、そちらにアクティブシールドを回すので精一杯だからである。


 やがて射点が近付き、眼前の照準センサーのホログラムスクリーンが、縦にクルリと一回転。裏返って対艦攻撃用画面に切り替わる。オートモードにしているために、火器セレクターも自動的に対艦誘導弾を選択した。射点までは六十秒。発射諸元を再確認。その直後に、機体ギリギリを敵戦艦からのビームが通過し、コクピット全体が青い光に覆われる。


 だがどれほど至近距離をビームが通り過ぎても、気にしている余裕は無い。射点まで三十秒、攻撃艇形態のASGULはNNLのサイバーリンク機能がほとんど使用されないため、視覚と聴覚と反射神経が忙しい。

 照準センサーのホログラム画面全体に、敵戦艦の横腹が映し出された。狙うのは片舷に二基並んだ重力子推進機の間だ。半透明の“〇”と“+”を組み合わせた照準マーカーが赤く点滅、ロックオンを完了する。


 しかし本当に緊迫するのは、ここからの短い時間だ。誘導弾発射の瞬間、僅かな間に行う直線飛行が生死を左右する。敵も一番狙い易い瞬間だからである。恐れていた通り、今度は右斜め前方を進んでいた、何処か別の隊のASGULが、敵弾を受けて爆散した。


 すると次の刹那、自分の機体もガシャン!という衝撃を受ける。敵のビームが機体の下部をえぐったのだ。ヘルメット内に流れる被弾警報音。モニター画面にコクピットブロックの回転機能を喪失し、人型に変形が出来なくなったという、自己診断システムからの報告が表示される。


 その程度なら御の字だと自分に言い聞かせ、素早く軌道を補正して誘導弾を発射した。大気中の戦闘ではないため、機体が軽くなったように感じる事は無いが、軽く下から突き上げられる感触はある。すぐさま機体をひねって新たな回避運動に入ると、照準センサー妨害用の電磁チャフを機体後方から噴出させ、一気に速度を上げる。音も震動も伝わる事の無い宇宙空間の戦闘、ただ射撃センサーのホログラム画面には、“誘導弾命中”という戦果報告の表示が点滅していた………





▶#22につづく

 

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