#02
だが会議を早々に切り上げてもノヴァルナは、シルバータに告げたヌードン屋に行きはしなかった。そのまま執務室へ入って椅子にドカリと座り、少し間を置いてやって来た叔父のヴァルツを迎える。
亡き父ヒディラスの弟であり、どこかに似た面影を残すヴァルツは、ノックと共に執務室へ入ると、ノヴァルナの向かい側に座った。ニヤリと笑みを浮かべて開口一番、甥っ子に皮肉めいた言葉を投げかける。
「いやはや、わざわざ自分から喧嘩を吹っ掛けんでも、よかろうものを…」
ヴァルツも先程の会議に出席しており、ノヴァルナの我儘放題の一部始終を見ていた。それに対し、ノヴァルナはいつもの不敵な笑みを返す。
「まぁ、俺の流儀ですからね」
「しかし、敵を作ってばかりでもな…」
「緊張感…ってヤツです。まだヤツらは完全に、俺を認めたわけじゃないんで」
「ふむ…」
分からんでもない…といった表情で、ヴァルツは小さく頷いた。ヒディラスの後を継いだノヴァルナは、その言葉通り、キオ・スー=ウォーダ家まで支配するようになったとは言え、重臣達の支持を完全に得たわけではなかった。筆頭家老のシウテをはじめとして、いまだに弟のカルツェを当主の座に据える事を目論んでいる者が多い。迂闊に自分から気を許してなれ合っても、いつ寝首を掻かれる結果を招くかもしれないのである。
そしてヴァルツが一人で執務室を訪ねて来たのも、同様の理由だった。父のヒディラスに加え、最大の支持者だった次席家老のセルシュまで失った事で、ノヴァルナには腹蔵なく戦略を相談出来る、年長の人間がいない状況だったのだ。
「ところで
本題を切り出すノヴァルナ。今しがたの会議でシルバータが口にした話だ。
「ドゥ・ザン殿から、何も言って来ぬ事か?」
ヴァルツが尋ね返すとノヴァルナはコクリと頷く。
「ええ。ギルターツ達やイル・ワークランの連中が、宙域間の超空間通信サーバーに、妨害を掛けているのもあるでしょうが、連絡を取ろうと思えば不可能ではないはず」
「まずお主は、どう思っているのだ?」とヴァルツ。
さっきの会議では、同盟関係にあるドゥ・ザンに対しての方策を尋ねたシルバータに、ノヴァルナは「ほうっておく」と、捉えようによっては冷淡過ぎるような答えを返した。ヴァルツの問いはその言葉の、本当の意味を知ろうとするものである。
ヴァルツに問い返され、ノヴァルナは思案顔になって応じた。
「…そうですね。“こちらの事は構わず、今は自分の事をせよ”という、ドゥ・ザン殿の無言のメッセージではないかと」
それを聞いてヴァルツはニヤリと頬の筋肉を緩める。
「なんだ。分かっておるではないか」
「叔父上もそのようにお考えですか?」
「おそらくはな…ひねくれ者のドゥ・ザン殿ならば、そのようなところだろう」
自分と叔父の考えが一致した事に、ノヴァルナは安堵したようだった。優れた戦略眼を持ち、洞察力にも長けたノヴァルナだったが、こういった事に関してはまだ若く、経験則が足りない。果たして自分の考え方が正しいのか、確かめる相手がまだ必要な年齢なのである。些細な事ならば自分一人で判断もするが、キオ・スー=ウォーダ家とサイドゥ家の命運に関わる事案となると、慎重にならざるを得ない。
嫡男ギルターツの謀叛で首都惑星バサラナルムを
それをノヴァルナは、救援に来ずとも良い…というドゥ・ザンの意思表示と受け取ったのである。
そもそもドゥ・ザンとノヴァルナの同盟関係は、サイドゥ家が戦力的に不安があるナグヤ=ウォーダ家の後ろ盾となるものであった。そしてノヴァルナがキオ・スー家を手中に収めた今、ドゥ・ザンは、もはや自分は力になれないため、ノヴァルナには自分を救援しようとせず、キオ・スー=ウォーダ家の支配を確立させ、独り立ちできるだけの国力と政治体制を整える事を、望んだのだろう。
ノヴァルナがその事をヴァルツに告げると、ヴァルツは途中で二つ、三つと頷いて話を聞き終えてから、その先の甥の考えを問い質した。
「…で? それに対し、お主はどうする?」
叔父の問いにノヴァルナの答えは淀みない。
「無論。救援に駆け付けます」
「ほほう」
ドゥ・ザンの思惑を知りながらも、それと相反する行動を取ろうとするノヴァルナの返答に、ヴァルツは興味深げな表情で僅かに目を見開いた。さらにノヴァルナは冗談めかして続ける。
「なんせ俺は、傍若無人の大うつけですから」
▶#03につづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます