第19部:血と鋼と
#00
突然の襲撃と、恋人の父親の死で、ノア・ケイティ=サイドゥのアバンチュールは終わりを告げた―――
惑星シルスエルタが第五惑星として公転するサイロベルダ星系を離れていく、サイドゥ家の戦艦と三隻の護衛艦―――
停戦条約とナグヤ=ウォーダ家嫡男、いや、父親の死で事実上新たな当主となった、ノヴァルナ・ダン=ウォーダの命令により、ウォーダ家領内の航行を許されたサイドゥ軍の艦隊。その戦艦の中、賓客用の特別室でソファーに座るノアは、外部のリアルタイム映像を映し出す大きなホログラムスクリーンを横切る、青く巨大なガス惑星を見送ると、胸の高さに組んだ手へ視線を落とす。
その左手の薬指には、別れ際にノヴァルナがくれたエンゲージリングがあった。
しかしそのリングには、プラチナの輝きも無ければ、高価な宝石の透き通った光さえもない。ノヴァルナが惑星シルスエルタの工場でイガスターの傭兵と戦っていた時、上着のポケットに紛れ込んでいた工業製品―――木を削って作ったリング状の部品だ。美しいと言えるのは、木目ぐらいであろうか。
互いの迎えの船が待つ宇宙港でそれぞれの搭乗口に向かう直前、ノヴァルナがポケットに入れたままだった木のリングに気付いて取り出し、自分を呼び止めて、指に嵌めた時の光景が脳裡に蘇る。
「コイツは
偉そうに言い放ったその時のノヴァルナだったが、表情には誠実さが籠っていた。
シルスエルタでの再会で、会う事もままならない今の状況が、具体的に何か打開された訳ではない。それどころかノヴァルナの父、ヒディラスの急死がオ・ワーリ宙域にこれまで以上の混乱をもたらすのは目に見えている。そして二人を襲ったイガスターの傭兵が、誰の手の者だったのかも不明なままだ。
ただそんな中でも…と、ノアは僅かに笑みを浮かべる。
ノヴァルナは変わらず強気で、傍若無人で…そして優しかった。あの1589年のムツルー宙域で、力を合わせて危機を潜り抜け、生還を果たした時のままに。
今は何も進展しなくとも、具体的な策を見つけ出す事が出来なくても、立ち塞がるものがより大きくなっても、ノヴァルナは必ず道を切り拓こうとするに違いない。
「信じてるよ…」
ノアは指に嵌めた木のリングを見詰めて、小さく呟いた………
▶#01につづく
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