14・急転
それは一瞬でした。
まばたきする時間さえ無く、転移前にいた私のお家の庭から突然景色が変わりました。今私がいるのは、どこかの路地裏のようです。
狭い建物の間の路地裏を抜けると、そこには見覚えのある景色が広がります。レンガ造りの住宅が建ち並ぶ街並みに行き交う人々や馬車の風景。なつかしいふるさと。ここは私の住んでいた町です。
「帰ってきました」
行き交う人達のお顔に見覚えのある人は1人もいませんが、それでもここは私の住んでいた町で間違いありません。なつかしさに胸が躍るのを抑えながら歩いていると、見慣れない馬車が私の目の前を通り過ぎました。
馬車は何の変哲もない普通の馬車です。馬車を引くお馬さんも普通の体のお馬さんです。でも、
「ユニコーン?」
どうしてユニコーンがいるのですか?私の住んでいた世界にユニコーンなどというファンタジックな生き物はいませんでしたよ。
空想上の生き物を目の当たりにして、思わず足元がふらついた私の視界にさらに信じられない人が映りました。
耳の長い銀髪の女性です。今度はエルフさんですか?
私は額を押さえながら上級神のランクの神様のお名前を呼びます。
「桃ちゃん」
「何でしょうか。
「ここは私の住んでいた世界ではありません。街の景色は同じですが、どうやら違う世界に来てしまったようです」
「いいえ。ここは間違いなく貴女が転生する前にいた世界です」
「そんなはずはありません。私のいた世界は魔法こそありましたが、ユニコーンやエルフなどというファンタジックな生き物は存在していませんでした」
「それでもここは貴女の住んでいた世界なのです。どうやら貴女が異世界転生した後、この世界は物理法則を根本から書き換えられてしまったようですね。それも世界を一度終わらせるという形ではなく、人々に違和感を持たせず自然に書き換えるという神技を使って」
「いったい、どなたが何の目的でこのような事をされたのでしょうか?」
「それは世界を変えた本人に聞くのが一番でしょうけれど。何となく予想はできますね」
「予想ですか。桃ちゃんはどのような予想をされたのですか?」
「論より証拠です。御覧なさい」
桃ちゃんはそう言うと、私にこの世界の情報を見せてくださいました。
私の脳裏に世界の様子が一瞬で浮かび上がります。
ドラゴンがいます。
キメラがいます。
数え切れないほど多種多様なモンスターがうじゃうじゃいます。
オークやゴブリンや竜人などの亜人類に魔族までいます。
そして、この世界には
しかもゲームでよくあるレベルという概念にこの世界は支配されています。
私は震える唇で呟きました。
「ステータスオープン」
私の視界にゲーム画面のようなものが現れて私の情報が映っています。
種族・人族。
レベル・1。
魔力・0。
体力・15。
速さ・11。
力・9。
特記事項・解析不能なシステム外の未知の能力を所持。
「ゲームですか。この世界をゲームにしてしまったのですか。私の故郷をオモチャにして遊んでいるのですか」
「特記事項の欄の未知の能力っていうのは
ベステト様が呆れたように私のステータス画面を見ています。
「どなたかは存じませんが、なんて事をするのですか。現実の世界を。皆が必死に一生懸命生きている世界をオモチャにして遊ぶなんて」
声が震えます。
私は心の中で煮えたぎる熱いものを初めて自覚しました。
「江梨花が珍しく怒っていますね。わたくしも良い気持ちはしません。現実に生きている者達を遊び道具にするなんて」
「この世界をオモチャにした人は今、どちらにいらっしゃるのですか?」
私が尋ねるとベステト様がお答えくださいました。
「この惑星を照らす太陽の中に居るね。そこに惑星よりも大きな範囲結界を作って、のんびりと惑星の様子を眺めているよ。どうやらこいつ。配下に神や天使達を作って、そいつらに自分の事を創造神様と呼ばせて悦に入っているみたいだね」
ベステト様の答えを聞いて私は決めました。
「では今から、その創造神様の所にいきましょう。そして、この世界をオモチャにして遊ぶのはやめてくださいとお願いしてみます」
「分かった。それじゃ、江梨花のお望み通り、自称・創造神の所に行きますか」
ベステト様が私の周囲に透明な球体結界を張り巡らせます。
その中には薬師様、
「光よりも早いからすぐに着くよ」
ベステト様がそうおっしゃると、私達を包む透明な球体は瞬時にこの星を離れ、あっという間に太陽の中に突入しました。1500万度を超える太陽の中心部まで来ると、創造神様という方の警戒システムに触れたらしく九つの首を持つ巨大な龍神様が現れて行く手を阻みました。
「ここから先は我が偉大なる創造神様の聖域なるぞ。貴様らは何者か?何用あってここに来た?」
ひとつ、ひとつの首が星をも飲み込むほどに巨大な龍神様の質問にベステト様がお答えします。
「あたしら?江梨花と愉快な仲間達。用は自称・創造神に話があるって江梨花が言うから連れてきた」
「ベステト様。そのように相手の方を小馬鹿にするような言葉使いは失礼です。ごめんなさい、龍神様」
私は慌てて謝りました。
それにしてもこの世界に神様はいらっしゃらないと教えてくださった声だけの人のお話と、今では状況がまるで違います。この世界は神様だらけです。
「ふん。人間と下級神の集まりか。下級神とはいえ、なにゆえ神ともあろう者が人間ごときと一緒におるのだ?下等生物と一緒におるなど我には耐えられぬ屈辱よ」
「あ?おまえ、今なんつった?あたしを馬鹿にするのはいい。だけど江梨花を馬鹿にする奴は許さない。おまえ、口の利きかたに気をつけないと殺すよ?」
駄目です。ベステト様が喧嘩腰になっています。薬師様、桃ちゃん。ベステト様をとめてください。
私が他の神様達の方を振り返ると球体結界内にいつの間に用意されたのかテーブルと椅子があって、そこに気神様と桃ちゃんと薬師様が座り、紅茶を飲みながらくつろいでいらっしゃいました。
プーさんが執事服に身を包み、ほかほかのホットケーキを出して、そこに蜂蜜をたっぷりとかけています。美味しそうです。
「下級神ごときが我に無礼な物言いをするなど身の程知らずにもほどがある。その罪、万死に値すると知れ」
龍神様がベステト様の発言に怒っておいでです。
皆さん。ティータイムのところ申し訳ありませんが、ベステト様をとめてください。
「おまえさあ。さっきからあたしらの事を下級神って呼んでるけど、それ間違ってるから。おまえのご主人様が作ったステータス分析ツールでも見ているんだろうけど、そんなお粗末なシステムじゃあたしらの本当の力は計れないよ」
「ほう。ならば試してみようか」
「いつでも来なよ」
龍神様とベステト様が神力をかけて戦いを始めてしまいました。
皆さん、呑気にお茶を飲んでいる場合ではありません。
と思っていたら、あっさりベステト様が勝っちゃいました。
龍神様がベステト様に倒されて消滅すると、さらに恐ろしい姿をした神様達が現れて私達の前に立ちはだかります。
立ちはだかるたくさんの神様達の中から一柱の神様が前に出て来られて、こちらにお声をかけてきました。とても大きな巨体に数えられないほど多くの赤い目を持つ三つ首の大鬼神様です。
「龍神を倒した程度でいい気になるなよ。あやつは我ら聖域守護神の中でも最弱。我ら真の守護神達と、出来損ないの龍神とでは天と地ほどに実力に差があるの・・・・・」
「うざい」
ベステト様が大鬼神様のお言葉も終わらない内に神力を発動して、大鬼神様もろとも他の守護神様達まで倒してしまいました。
えーと。私は話し合いに来ただけなのですけれど。
私達は聖域と呼ばれる結界内に入りました。
そこは美しいお花が咲き乱れ美しい大自然に覆われた天国のような所でした。
結界内の中心部には壮大な輝くクリスタル都市があり、そこに創造神様がいらっしゃいました。
「ごめんなさい。調子に乗っていました!」
創造神様はお美しい少年のお姿で私達に土下座をしてきました。
「そこまでしなくても」
私は驚き慌てて、創造神様に立っていただきました。
そして世界を元に戻してもらえるようにお願いしました。
創造神様は私のお願に頷いてくださいました。
「僕は元々、異世界転生者なんだよ。誰かは分からない声だけの人に、転生するにあたって何か特典をプレゼントするって言われて。それで僕は世界を思い通りに創れる創造神になりたいって頼んだんだ。そしたら今の能力を手に入れて。有頂天になってしまって。ごめんなさい」
「いえ。元通りに直していただけるならもう宜しいのです」
私が創造神様に微笑んで答えた次の瞬間、急に結界が消滅して聖域は1500万度の超焦熱地獄に焼かれて消え去りました。
私はベステト様の結界に守られて大丈夫だったのですが、創造神様はご無事でしょうか?
「江梨花!」
桃ちゃんが私を守る為に何か力を使っています。ベステト様の結界だけでは足りないというの?上級神ランクの桃ちゃんの結界なんて想像できないけれど、とんでもない力だと思うのですが。
それを使うほどの非常事態なのですか?
創造神様も消えてしまって。
ベステト様や薬師様。プーさんや気神様まで桃ちゃんに守ってもらわないといけないほど危険な何かに襲われているらしいのですが、それが何なのか私には分かりません。
「
こんな非常事態の中で、私はツンデレのお友達を急に思い出しました。
人前では恥ずかしくて素直になれない女の子。
あの子の恥ずかしそうな笑顔を思い出して、つい口もとがほころんでしまいます。
「嫌だ!江梨花が消滅しちゃうよ!」
ベステト様の悲鳴が聞こえてきます。
視界全体がまばゆい光で包まれました。
眩しすぎて何も見えません。
体が霧のように消えていきます。
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