10・神様を作るには愛が必要です

あらゆる物事を見られる。

隠されたものであろうと。

過ぎ去ってしまった過去の出来事であろうとも。

何でも全てを見通せるそんな能力を持つ神様をイメージします。


目はパッチリ大きくて瞳は空色で透き通るように美しい。

お顔は芹歌せりかさん似でちょっと気が強そうだけれど可愛らしい女神様。


神様のお名前は情報を司るので情報じょうほう様・・・・・


江梨花えりか


神様のお名前を考え出したところで薬師やくし様の私を呼ぶ声が聞こえました。今、神様を作るために集中しているところなのにどうされたのでしょうか?


「何でしょう、薬師やくし様?」


江梨花えりかのネーミングセンスが最悪だと言われました」


「え、誰に言われたのですか?」


「プーさんです」


「ふぇ?プーさんの心って、黒い仔猫さんの性格ですよね。どうして私のネーミングセンスなんて分かるのですか?」


「わたくしのお薬で少しだけ賢くしてありますから」


「え―、プーさんはあれでも神様ですよ。神様にそんな事をしちゃったのですか?」


「だってあの子。とってもやんちゃでちょっとわたくしが気を抜くとすぐにわたくしの腕の中から逃げ出して、人目も気にしないで遊びだしたり、江梨花えりかが授業を受けている時でもおかまいなしに江梨花に跳び付こうとするから」


「あー、言われてみればそうですね。仔猫さんは気まぐれで甘えん坊でやんちゃですものね」


「そうです。それでしかたなく、少しだけ賢くなるお薬をプーさんに飲ませました」


「それで少しだけ賢くなったプーさんが、私の名付け方がお気に召さないと言われているのですか。プーさん、具体的には私の名付け方のどの辺が駄目でしょうか?」


私が声をかけると頭上からプーさんの声が聞こえてきました。


「にゃにゃーん」



「え?」


ただの鳴き声です。これで私にお返事してくれたのでしょうか?



「どの辺とかではなく、ネーミングセンスそのものが壊滅的だそうです」


薬師やくし様がプーさんの通訳?をしてくださいました。

本当に通訳してくださったのですよね?

プーさんをダシにして薬師様が自分の思っている事を言っているわけではありませんよね?私のネーミングセンスのどこがそんなにいけないとおっしゃるのですか?ちょっとショックです。


「わたくしを疑うのはおよしなさい。わたくしは江梨花の名付け方が悪いとは思いませんよ。とてもわかりやすい良い名付け方だと思います」



薬師様の言葉を聞いて思い出しました。

そういえば薬師様は私の心をコピーしているので感性が私とまったく同じなのでした。薬師様が私のネーミングセンスに文句があるはずはないのです。


だとするとプーさんが言っているのは本当のようですね。

プーさんにネーミングセンスが壊滅的と言われて私はショックです


「プーさん、それならどのようなお名前が良いと思いますか?」


私が尋ねると、プーさんの鳴き声にしか聞こえない答えが返ってきました。


「にゃにゃーん」


さっきと鳴き方が同じにしか聞こえません。薬師様、通訳プリーズ。



「私もネーミングセンスに自信はありませんが、あえて江梨花が聞くのなら(情報)では野暮ったいので例えばラテン語のインフォルマーティオから取って(フォルマ)なんてどうでしょうか?だそうです」


えーと。

「にゃにゃーん」しか聞こえなかったのに、あの短い鳴き声の中にそんなに多くの言葉があったのですか?薬師様を疑う気持ちはなくなりましたが、あんな短い鳴き声でそこまで語れるとは猫語恐るべしです。


というか、どうして薬師様は猫語が分かるのでしょうか?

またお薬の力でしょうね。本当に薬師様のお薬は何でもありですね。


ところで私の考えた情報というお名前よりは、フォルマの方がほんのちょっぴり、わずかに、少しだけ、良いような気がしますのでプーさん案を使わせていただきます。


さあ。

全ての情報を司るフォルマ様。出てきてください。








失敗です。

また、神様が作れませんでした。

プーさんや気神きしん様は作れているのだから私のやり方がまるで駄目という事はないはずです。


私が悩んでいると薬師様が声をかけてきました。


「江梨花。辺りはもう真っ暗です。女の子がこんな暗い道の真ん中でずっといるのは良くありません。家に帰る間にわたくしが教えてあげますから歩きなさい」


「あ、はい。確かにそうですね」


私は薬師様の言われる通りに歩き出します。

数歩足を動かしたところで、私はある事に気がついて立ち止まりました。


「え、薬師様。私がどうして神様作りに失敗してしまうのか、理由を知っておられるのですか?」


「はい」


「どうして今まで教えてくださらなかったのですか?」


「江梨花に教えてと言われなかったから」


「それだけではありませんよね?」


「そこは江梨花の気持ちと一緒です。何でも簡単に上手く事を運びすぎると面白くないという貴女の性格は、私の心にそのまま反映されていますので」


「私のそんな面倒な性格まで似なくても良かったのに」


「それなら今後は自分の心をベースにする時でもそうした性格の一つ一つを設定して神の心を作れば、より扱いやすい性格の神になりますよ」


「なるほど」




私はお家に帰る道すがら、薬師様に神様の作り方について教えていただきました。



まず、私が作る神様にはランクがあるそうです。

この私が今いる世界。神様ではあるけれども、この宇宙の物理法則の支配からは逃れられないレベルの能力しか持たない神様。これが下級神というランクになります。

私が作り出したプーさんや気神きしん様がこの下級神のランクだそうです。


その上のランクが中級神。これは宇宙の物理法則を超えた能力を持つハイレベルな神様だそうです。私が乗用車に轢かれた時に作った薬師様がこのレベルになります。


さらにその上のランクが上級神。

実は世界(宇宙)は無数に存在していて、その無数に存在する宇宙は一つの次元層の中にあるのだそうです。

私のいる宇宙も含めて他の無数の宇宙は皆、10次元+1次元ある次元層の中のどこかに存在しています。


この次元層もまた物理法則を超えた根源法則があって、中級神では根源法則の支配までは逃れられないけれども上級神はその根源法則にも縛られない超ハイレベルな神様なのだそうです。


それでも中級神のランクの神様だと、この根源法則内であれば物理法則も自由自在に操れるので自分のお好みの世界(宇宙)を作り出す事が可能だそうです。


ふぁ。それってもう、創造神様です。

物理法則を自由自在に設定して世界(宇宙)を作れるならば魔法のある世界だろうと、錬金術のある世界だろうと作れます。ドラゴンに魔物に魔王に勇者。果ては天使に悪魔だって存在する世界が作れますよ。完全にファンタジー世界ではありませんか。


もう、中級神のランクだけでお腹いっぱいなのですけれど、とにかく上級神というランクがあるそうです。さらにその上のランクもあるそうですが、もう頭がついていけないので説明は遠慮しました。



ランクが上の神様を作り出すにはマナというものが大量に必要なのだそうです。神様を作るために必要となるマナの総量は簡単な計算式で表せます。


まず私の神様を作り出す時の願いの大きさ。

次に人々のその神様への信仰心の総量。

最後にその神様をどれだけ多くの人達が認知しているかその総数。

これら3つを掛け算した数がマナの総量になるのだそうです。


式にすると

私の願いの大きさ×信仰心の総量×認知度=作れる神様のランク

となります。




なるほど。

いくら私が強くお願いして神様を作ろうとしても、私1人が考えた神様では信仰心の総量は1人分。認知度も1人分しかありません。

これでは下級神のランクしか作り出せませんね。


私が今まで失敗した神様は全部、私1人の信仰心と認知度でありながら下級神のランク以上を私が望んだから失敗したのですね。



中級神を作り出すには宇宙の物理法則の支配を突き破れるだけのマナの出力が必要だそうで、その出力を出す為に必要なマナの総量は1400兆分にものぼるのだそうです。


例に出しますと

私の願望を普通の1とすると、信仰心の数が2000万。認知している数が7000万はいないと物理法則を突破できないという事ですね。


たいした信仰心もない信者だと最低でも2000万人。その神様を知っているという人が最低でも7000万人は必要になります。


ちなみに私の願望の強さは、自分の欲望には執着心が薄いらしく自分の事だと1以下だったそうです。他人の為だと俄然やる気が出てしまい10以上。大勢の人達の事を思って薬師様を作った時は100を超えていたそうです。


参考までに10次元層+1次元のこの次元層の根源法則を突き破る為に必要なマナの出力は3000穣。

中級神を作り出す為に必要な総量の2京倍以上のマナがないと上級神は作れないそうです。


それってもう、チートな事をやらないと地球だけで普通に信者や認知度を上げただけでは永遠に追いつきません。



なんにしても、これで思い描くだけの能力を持つ神様を作れそうです。

皆さんが知っている神様。有名なら有名な神様ほどマナが多く集まるわけですから。


でも、薬師様って薬師如来様の信仰心と認知度を利用して作った女神様でしたよね。女神様でもないし、ましてや神様でもありません。仏様です。意外とその辺りはアバウトなのですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る