3・神様を作ってみよう

放課後、他の人には見えない女神様から仔猫さんを受け取りお礼を言うと、女神様はにこにこしながら応えてくれました。


「この子猫ちゃんも怪我をして衰弱していたのですけれど、今はもう大丈夫ですから安心してくださいね」


「え、衰弱していたのですか?」


「はい。でも今は元気いっぱいですよ。死んでさえいなければ私のお薬で完全に治せますから」


「ふぁ、何だか凄いですね。さすがは女神様です」


「えへへ」

私が褒めると女神様は照れながら嬉しそうです。

神様なのに何だか可愛らしい。


仔猫さんが元気になって安心しました。

あと気がかりなのは私が飛び出した事で大変なご迷惑をかけてしまったあの乗用車を運転していた女性の方です。私にぶつかった事で車の前の部分がボッコリへこんでしまったらしいし、警察の人に呼ばれたりで色々大変だったでしょうから少しでも何か償いができれば良いのですけど。


「どうなさいました?」

思い悩む私の姿に女神様が声をかけてくださったので、思い切って女神様に相談してみました。すると女神様は


「じゃあ、わたくしがお薬を作ってあの方に飲ませてさしあげましょう」

とおっしゃいました。


「え、あの女の人は何か病気か怪我をしているのですか?」


「いいえ」


「それならどうしてお薬を?」


「わたくしはお薬に関しては万能の神ですよ。あの人にはいつまでも健康なまま若々しく、長寿でいられるお薬を飲ませてさしあげます。それで少しでもあの方への償いになるのならわたくしは喜んでいたします」


「わあ、そんな事もできるのですか。凄いですね!じゃあ、あの人は癌とか脳卒中とかの病気にもならないでとっても長生きできるのですか?お医者様とかに一生かからなくても良いとか?」


「はい、不老不死にもできますけれど。でも、そこまでしてしまうと宇宙が消滅しても死ねないので逆に退屈でしょうから100億年くらいの寿命でどうでしょうか?それまでは眠らなくても食事を摂らなくても死にません。とても健康です。例え体がバラバラに切断されてもすぐに元通りに戻って元気な生活を送れます」


にこにこしながら女神様がそう言うと、私は少し考えてから女神様に提案してみました。


「うーん。100億年はいくらなんでも長すぎかもしれないです。100億年だと地球がこの世から無くなっていますよ。住む場所が無いのに生きているのはあの女の人もつらいかもしれません」


「言われてみればそうかもしれませんね。では地球が太陽に飲み込まれて消滅する50億年後よりは短い40億年後くらいでどうでしょうか?」


「そうですね。そのくらいならまだこの星はあるでしょうから良いと思います」


「そうね」


「はい」


私と女神様はにこにこしながらお互い頷きあいました。



後に常識的な神様を私は作れるようになるのですが、私が未来に作ったその神様がおっしゃるには


「貴女達は物事の判断基準がズレ過ぎです。それでは女性が化け物と変わらないではありませんか。今すぐ普通の人間達よりは少し優位ぐらいに戻してあげた方が良いと思いますよ。それからこれが一番重要な事ですが、その女性の希望を良く聞いて本人が一番望む状態になれるようにしておあげなさい」


というお言葉でした。

女神様も私も「えー?」と不満を漏らすと「早くいきなさい!」と怒られてしまいました。


結局その女性の希望を聞いた結果、普通より少しだけ長い寿命で比較的若々しく健康に生きられるように変える事になりました。私と女神様が普通の人とずれているのを実感させられた瞬間でしたが、それはまだもう少しだけ未来のお話しになります。





私は黒い仔猫さんをお家で飼う事にしました。

この子を初めて見た時は道路で動けないほど弱っていたけれど、今はやんちゃなくらい元気に私の部屋の中で遊び回っています。まだ目が開かない赤ちゃんだったのにこれも女神様のお薬のせいなのでしょうね。


部屋に帰ってお着換えを済ませジュースを飲んで落ち着いた私は、さっそく神様を作ってみたくなりました。最初に作った女神様は私であって私でない者が作ったようなものです。自分で言っていてよく分かりませんが、遠い過去の忘れてしまっていた自分の記憶が甦ってきて私の今の心を眠らせて、その間に神様を作ったような感じなのです。一応、作っている時の記憶はぼんやりと覚えてはいるのですが。


とにかく、あの時の記憶を頼りに神様を作ってみましょう。

たしか神様を想像して、その想像した神様に名前を付けていたはずです。


うーん。

神様。神様。神様・・・


そして、名前を付ける。えーとどんな名前にしたら良いの?

神様に付ける名前に悩んでいると目の前にジュースの入っているコップがあるのを見つける。

よし。じゃあ、神様の名前はコップで!




駄目でした。

神様出てきません。

うーん。何が悪かったのでしょうか?

もしかしてコップではありがたみが薄い名前だとか?


もう一度、神様を想像しながら今度はありがたそうな名前を付けます。

大安吉日!


駄目でした。




じゃあ、鶴は千年。亀は万年!


これも駄目ですか。



それなら、本当にある神様の名前で七福神!龍馬精神!天照大神!

オーディン!アッラー!ゼウス!アリアンロッド!釈迦!クトゥルフ!アーメンオーメンシオラーメン!・・・・




駄目です。

色々試しているのに神様が出てきてくれません。

神様が出てきてくれないのは名前が原因じゃないのでしょうか?


名前が原因じゃないとしたら想像の仕方が駄目なのかな?

そういえば女神様は手から小瓶のお薬を出していましたよね。

ただ漠然と神様を思うのではなくて具体的にどういう感じなのかをはっきりと

想像しないと駄目なのかもしれないですね。


それならまず姿は可愛い熊さん。

そして、手からは蜂蜜の入った壺をいくらでも出せます。

そして名前はプーさん。


空間がぽわんと揺れるような感じがしたと思ったら出てきました。

熊さんです。熊のプーさんです!

わーい!成功しました。嬉しいです!


「初めまして、プーさん。私は江梨花えりかといいます」

プーさんにご挨拶したけれど、プーさんはぴくりとも動きません。

どうしたのでしょうか?

まるで大きなぬいぐるみです。


「プーさん」

ちょんと触ったら、ばたーんと倒れてしまいました。


「きゃー!プーさん、ごめんなさい!」

私は慌ててプーさんに謝りながら抱き起します。重かったです。


その後、プーさんには色々話しかけたり触ってみたりしたのですが無反応です。

プーさんは生きていません。神様に生きているという表現が正しいのかは分かりませんが、とにかく反応しないのです。これではただのぬいぐるみと同じです。



江梨花えりか、何を一人で話しているの?それとも誰かお友達?」

お母さんが私の部屋のドアの向こうから声をかけてきました。

神様を作る事に夢中になってちょっと騒ぎ過ぎちゃいましたね。


「誰もいないです。私だけだよ」


「じゃあ、どうしておしゃべりしていたの?仔猫とお話でもしていたの」

そう言いながらお母さんが私の部屋のドアを開けて中に入ろうとして固まりました。

「何、その大きなぬいぐるみは?」

お母さんがプーさんを指さして私に質問します。


「え、お母さん。プーさんが見えるの?」


「そのぬいぐるみ、プーさんっていうの?」

2メートル以上の大きな姿のプーさんを見上げながらお母さんが私にたずねてきました。


「うん。ぬいぐるみじゃないけれど名前はプーさんです」


「いつの間にこんな大きな物を部屋の中に入れたの?お母さん、ぜんぜん気がつかなかったわ」


「あ、はい。頑張ったよ」

返答に困って私はごまかしました。


「もう、この子ったらしょうがないわね。仔猫はちゃんと話してくれたのに。こういう大きな物を家の中に運ぶ時には一言おっしゃい。お母さん、手伝ってあげるから」


「はい」


「あと、夕ご飯ができたからそろそろ一階に下りていらっしゃい」


「はーい。ありがとう、お母さん」


お母さんが階段を下りていくのを確認した後、私は考えます。

どうしてプーさんは見えたのでしょうか?

女神様は誰にも見えないのに。


考え事をしていると足元を何かが触れる感触に気がつきました。下を見ると黒い仔猫さんが私の足に自分の頭をすりすりしています。


可愛いー!


たまらなくキュートなそのちっちゃな生き物を私はそっと抱き上げて頭をなでなでしました。

すると仔猫さんはゴロゴロ喉を鳴らして気持ちよさそう。


あー。癒されます。


うーん。プーさんは話せなくてもせめてこの子みたいに可愛く甘えてきてくれたら可愛いのに。そう思ってしまった私が悪かったのですが、まさか本当にそれがプーさんを動かす鍵になるとは想像もできませんでした。

2メートル以上もある巨大なプーさんが仔猫さんのようにごろんと寝転がります。その瞬間、部屋の中が地震の時のように揺れました。


「え、プーさん?」

驚いた私に向かって、巨大な熊のプーさんが目を細めると甘えた声で鳴きました。



「にゃーん」



「熊なのに猫?熊猫パンダさんですか?!」

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