第2話:インフォビア
僕はエリンターという職業に就いている。
エリンターは定職というものではない。
情報を集めて、それを欲する企業へ売り込むのが仕事だ。ニュースソースを探しているメディア、新しい技術を探しているメーカー、企業の内部情報を知りたいディーラー、上は国際政治から下は庶民の噂話までを求めている評論家、ネタに困った作家など、いろんな所に需要はある。良く言えば情報屋、悪ければ雑事屋だ(良いと悪いが逆だという人もいる)。
お金も入る時は週に50万、なんてこともあるが、それはまあ滅多にない僥倖のようなもので、普通は月に20万もあれば御の字。どんな職業でも収入が極端なのは、飛び抜けた運と才能を兼ね備えた人間か、そうでなければとてつもなく運のない人間か、そのどちらかで、大半の人間にとって、収入というのは世間一般の範囲内である。それが経済というものだ。
立川の家賃8万のアパート、電気、通信、水道、水素の生活光熱費(中でも水道は高い)、バイクのバッテリー代、医療保健料と労災保健料、年金代用保険に、情報売り込みにかかる諸経費で毎月17万くらいにはなるので、ほとんど贅沢は出来ない。
しかし、あくせく働いても、あまりメリットを感じない性質なので、仕事の依頼などがない時は、自分で決めて休みを取る。
そんな日にするのは、自転車に乗って散策か、多摩川まで足を伸ばしての散歩か、家で映画をダウンロードして見るか、そんなものだ。
2035年5月10日。
平日だが、休みにしたその日、僕は、アパートの駐車場にいた。
我が愛しのEMMB、ホンダのアニバーサリー2030の整備をしていた。
整備と言っても、何せ電脳と電子部品の固まりのような車種だから、水素エンジンバイクのように軍手にレンチで潤滑油まみれになりながらギア調整というわけにはいかない。
メインスタンドを起こしてバイクを浮かす。つぎにタンクボックスをはずし(工具は必要ない)、その下の緩衝殻にはまっている電脳ユニットとタブレット電脳をケーブルでつなぐ。ユニットの中には電脳コアとブラックボックスが入っている。ブラックボックスは運転状況を記録しているもので、事故の時の判定基準になる。この装置をいじったりすると証拠として採用されないので、手は付けない。コアのOSを呼び出す。
タブレットからコアOSの電子音声がでる。
『市来英介様、おはようございます』
そう言ってから、コアはちょっと沈黙した。
『緩衝殻がオープンになっております。外部ケーブル接続を認識しております。メインスタンドが立ち上がっております』
などと事務的な説明をした。音声入力でいちいち説明するのが面倒だったので、ファンクションキーからコマンドラインを呼び出し、「update」と入力した。
『了解しました』
コアOSは、プログラム更新待ちの状態になった。
タブレットにはEMMB愛好者グループのサイトからダウンロードした出力アップ用のコントロールソフトが入っている。販売の時の設定では、後輪の電磁駆動装置は回転を抑えてある。遊びを残してるのだという言い方も出来るが、法律を気にしてのことらしい。これをソフト的にパワーアップさせようと思っているのだ。ハード的にパワーアップするとなると、水素バイクより難しくなってしまう。
OSにソフトをインストールする。コアOSはオートランでそのプログラムを走らせる。
すると画面に電磁駆動装置のパワーコントローラー画面が現れた。
僕はコマンドラインに入力しようとして、今度はキー入力の方が面倒なことに気付き、舌打ちして音声入力に切り替えた。電脳相手におしゃべりする時は、状況に応じてコツがいるからやりにくい。もう少し頭の良いOSにしたいところだが、このバカさ加減にも愛着がある。バカな子ほど可愛いと言うやつか?
「エンジンかけてくれ」
『了解しました』
ビュウウウンという独特の電磁駆動音がした。わずかに車体が震動する。
僕は画面に表示されているパワーコントローラーの詳細設定スライダーをひとつひとつ指で上げ下げしながら、そのつどエンジンを回転させた。スタンドで車体を浮かしているので、グリップを握りながら後輪も回転させる。後輪を挟むように斜めに下がっている駆動部分がびりびりと震動する。
あまり極端に出力を集中させても全体のバランスがおかしくなって運転が難しくなる。バイクは普通立ち上がりがおとなしく、徐々に力がかかる。が、こいつは駆動部分から直にタイヤへ力がかかるため、出力の上げ方を間違えると、コントロール不能になってしまう。
「うーん……」
僕は駐車場の路面に座り込んで首をひねった。どのあたりが一番いいのか、画面の数値を見ても、エンジンを動かしてみても、いまひとつわからない。やはり乗って体感してみないことにはわからないのだ。でもそうすると、いちいち接続をはずし、タンクを戻し、乗り回し、降りてからまたタンクを上げ、装置をつないで、調整をするという繰り返しになる。
「一発で、ベストな状態に持っていく方法はないもんか」
と、めんどくさがりの本領を発揮して考え込んだ。だったら出力アップなどしなければいいのだが、一応はEMMBユーザーの気分を味わいたいのである。
ふと視線を感じて顔を上げると、駐車場の入り口付近に同じ年くらいの男が立っていて、こっちを見ている。手にコンビニの袋を提げていた。
「……?」
僕は少し頭を下げた。誰だろう? 近所の人かな?
その男は慌てて目をそらし、アパートの1階右端の部屋のドアを開けた。
「ん?」
男は部屋に入るとドアをばたんと閉めた。
「同じアパートの住人だったのか。しらんかったな」
まあ、都会のアパートなんてそんなものだ。
情報化、隣に住む人、なにものぞ
そんな昔の川柳があったっけ。
僕はエンジンの回転を変えたりしながら調整を続けた。
昼過ぎになり、先に買っておいたコンビニのおにぎりをバイクにまたがって食べた。
空は快晴だ。日差しが強い上に、気温が高い。今日の最高気温は29度との予報だ。年々気温が高くなってないか? 地球温暖化も、いよいよ肌で実感できるようになってきたか。この分だと人類滅亡まであと少しだろう。
食べ終わると、電脳コアの接続をはずし、タンクを戻してタブレットなどを全部その中にしまい込んだ。バイクにまたがったまま携帯で家のドアに鍵をかけると、メモリーキーをコントロールアームに差し込んでバイクを再起動した。
一度乗り回してみて様子を見て、どこか適当なところで止めて整備しなおそうと思ったのだ。
『市来英介様、調整は終わりましたか? お出かけしますか?』
EMMBコア電脳は、さっきまでインストールとか調整とかしていた記憶と、僕がバイクにまたがっているのを認識して、そんなことを言った。こう言うところは妙に頭が良い。
コンピュータが社会に浸透した現代、シンギュラリティなどという言葉は使い古された感があるが、かつて言われたようなコンピュータと人間との対立は起こっていない。むしろお互い妥協しあっているようなところがある。知性化すれば自然そうなるだろう。
「うん。調整がうまくいっているか確認したくてね」
『インストールしたプログラムは問題なく機能しております。メモリーをスキャンしますか?』
「いや。そういう意味で言ったんじゃないんだ。スキャンはいいよ」
『了解しました』
真の意味で了解しているのか、僕はわからなかった。今度電脳アーキテクチャーに取材してみよう。いろいろ聞きたいことがある。
コントロールアームを降ろして固定し、ギアをリバースに入れ、バックして向きを変えると、いつものごとく駐車場を出た。
住宅街をでて、市街地へと向かう。
エンジンの調子は悪くないが、いまひとつグリップの感覚と加速の仕方が合ってないような気がした。
都道を速度を変えながら確かめ、右折して市の中心部へと向かう。
モノレール橋脚の脇をスピードを上げて進む。高速になると違和感はなくなる。もっとスピードを上げると良くなるのだろうか、確かめてみたいが市街地ではそうもいかない。
前方に超高層ビル群が見えてきた。
その手前で国営昭和記念公園の脇を通る道へ入った。
公園の脇にバイクを止め、メインスタンドを起こす。コントロールアームを上げ、タンクを開ける。
やはりもう少し調整し直した方がいいようだ。
タブレット電脳を取りだし、コア電脳と接続する。
ここまで走ってきた感覚を思い出しながら、画面に映る調整スライダーを上下に動かし、数値を入力し、エンジンを回転させたり、後輪を動かしてみる。
大体調整はこんな感じかな、と思い、一息ついて顔を上げると、対照的な風景が目に入った。道路に沿って右側は広大な都市公園。左は超高層ビルが並ぶ市街地。たかだか4車線の道路を挟んで極端に高低差があった。なんとなく、前に映像で見たニューヨーク・マンハッタン島のセントラルパークを思い出した。あそこも公園のすぐ脇に超高層ビルが並んでいた。
もっとも、僕が見た映像は今世紀初頭のもので、ニューヨークは大戦の時、環球同盟軍の爆撃にあったはずだから、今もそこに同じ風景があるのかは知らない。
目の前の超高層ビル群も、ある意味歴史を表しているようなものだ。
たった6年間だけ日本の首都だった時の名残だからだ。
名残と言ってももちろん今だってにぎやかな都市には違いないのだけど、東京都心のビル群に比べるとちょっと古めかしい感じがするのは、立川が首都だった2009年から15年までに突貫で建設されたものが多いからである。
そして僕も、2009年にこの町に引っ越してきた。震災孤児となったからだ。
2009年9月19日の大震災。
震災孤児となった姉と僕が移り住んだのは、崩壊寸前のマンションから姉と僕を助けてくれた、当時隣に住んでいた中学生、高階秀紀が、うちと同様家族を失ったため、親戚のいる立川に移った時に、その親戚が話を聞いて気の毒に思い、近所で経営していた木造アパートの一室に住まわせてくれたのだ。政府からは震災孤児基金のお金が出たので、家賃や生活費はまかなえた。秀紀はしばしばうちに来てくれて、幼い僕の遊び相手になってくれたものだ。ちなみに彼はいま、僕の姉の夫、すなわち義兄である。
僕ら姉弟の住んだ小さなアパートは、今はもうない。それに同じ町とはいえ、いま住んでいるところは全然違うが、あれから26年、僕はこの町の変遷を見てきた。
東京壊滅後、たった6年間だけ首都だった町。それが立川だ。
歴史の時間に習った恭仁京だの紫香楽京だの福原京だのという小規模の都のことを思い出す。立川もまた、歴史の一時期に「都」だったわけである。しかし、東京の再建が進むと首都は東京に戻った。東京都心は、かつての面影などないほど造り変わったのだ。
この中途半端な都市立川と、震災後に山手線沿いに出来た雑居都市群は、僕の好きな町だ。
山のような瓦礫を取り除いて、一から整然たる計画の元に作り上げたピカピカで未来都市的な新東京も悪くはない。だけど、瓦礫の中に震災難民が集まって出来た山手雑居都市と、突然首都の役目を背負わされて無計画に都市を拡張せざるを得なかったあげく、あっけなく首都の座から落ちたこの立川のように、時代に翻弄された無計画都市の方が、何となくしっくり来た。人の手あかの付いた、人間くさい場所という感じがするからだ。
以前、都市アーチストとやらが番組に出て、都市についてえらそうにしゃべっていた。
彼が言うには、日本の都市はこれまで無計画すぎた、ヨーロッパのような綺麗で整然とした都市こそ、歴史ある都市にふさわしい、ということになる。
だけど、その理論は、単に幾何学的な無機質さを綺麗だと言っているのと同じような気がしてならなかった。
ヨーロッパの歴史ある都市の美しさは、計画性かどうかではなく、カラーがでているからだ。都市の歴史や自然、地形などを生かした個性があるからである。それら都市が最初からそういう風に計画されていたわけではないし、古いものを大切にして新しいものを導入しなかったからでもない。日本人には、時々、無節操なほどに外国かぶれする知識層がでる。日本の良さは外国を賛美することではなく、外国の良いところを自分流に改造することなのだが、そういう人がでるのもまた民族性なのかも知れない。
ぼんやりと町の風景を眺めながらそんなことを考えていたら、いつのまにか3時過ぎになっていた。
僕は電脳などをタンクに入れて、バイクにまたがると、アパートに帰った。バイクの調子は、まだどこかしっくり来なかった。結局そのあとも何度か整備を繰り返す羽目になった。
それから数日後。
僕がまた駐車場で地べたに腰を下ろしてEMMBをいじっていると、今度は背後に視線を感じた。
振り向くと、そこに犬を連れて日傘を差した老婦人が立っていた。僕をじーっと見下ろしている。犬はロボットではなく、本物のようで、僕に近づき、ふんふんと鼻をならした。
えーと、誰だろう。
僕は見上げて首を傾げた。どこかで見たことある気がするのだが。
「精がでるわね」
老婦人は僕を見下ろして言った。
「ど、どうも」
僕は頭をぺこっと下げて返事したが、まだこの人が誰か思い出せない。
エリンターなんて仕事をしているから、人の顔を覚えるのは得意な方なのだが、はて、誰だろう。全く見知らぬ人ではなく、確かに前あったことがある人なのだが。
取材で話を聞いたことある人だったっけか?
老婦人はじーっと僕を見下ろしていた。犬はふんふんとうるさい。
僕は立ち上がった。
「あ、あのお……」
あなたどなたでしたっけ、と聞くのは何となくはばかられた。エリンターとしてもみっともない。
「どうやら、私の顔をお忘れのようね」
と威厳に満ちた口調で、老婦人は言った。
「えっ……、いえいえ、その忘れてませんよ」
「では、私が誰か言ってご覧なさい」
「いっ? いや、その……」
しどろもどろになったあげく、
「も、申し訳ないです。誰か思い出せません。その、お会いした気はするんですけど」
「そうそう、無理せず正直になることが大切ですよ」
と丁寧におっしゃった老婦人は、にかっと笑った。急にくだけた口調で、
「ずいぶんとひさしぶりじゃなーい、元気にやってるのー? まだエリンターとか言う仕事してるわけ?」
「あっ、」
僕はその独特のおおげさな口調で思い出した。
「大家さん!」
口うるさくはないが、別の意味ではうるさい大家さんである。
「ああ、店子に顔を忘れられるなんて、なんと悲しいことかしらー」
などとわざとらしく額に手を当てて、よろめいて見せた。ちなみに大家さんはタカラヅカファンである。
忘れるもなにも、滅多に顔を合わせないじゃないか。過去に何回会ったか? 2、3回じゃないか。家賃も管理もみな不動産屋がやるんだから。
いや、それよりも、顔つきがかなり変わってないか? この人のことを忘れるなんて普通じゃないが、なんか顔が違う。こんな威厳のある顔じゃなかったよな。整形でもしたんじゃなかろうな。最近老人の整形って流行ってるもんな。よく見ると、瞳の色が左右で違う。一方は珊瑚礁の海のような綺麗な青で、もう一方は緑と茶のマーブルみたいな瞳だ。ヘテロクロミアのつもりか。これはもうコンタクトじゃなく、眼球取り替えてやがる。
「あらなーに、私の顔になにか付いてますかしら?」
「い、いいえ。それよりなんですか。家賃ならちゃんと払ってますよ」
「やだわー、そんなことでこの私がしゃしゃり出てきますかってえ」
あははは、と軽快な笑い声を発する。そう、このにぎやかさ、これがこの人の特徴だ。整形しても性格は変わらないらしい。
「じゃあ、なんでしょう? いきなり現れてこられるとは」
「あら、いきなりに感じてるのは、あなたの方の事情でしょう」
「ま、まあ、そうですけど」
「そうでしょうそうでしょう。大家が自分のアパートを見に来たらいけないかしら?」
「い、いえ、誠に結構なことでございます」
僕は神妙に応えた。
「ところで、あなた、まだエリンターとか言う仕事しているの?」
と同じことをまた聞いた。
「ええ。やってますけど」
「よかったー」
よかった?
僕はいやな予感にとらわれた。この人はもしかして、僕に用事があって来たのではないか、と言う気がしたのだ。
「なにがよかったのでしょうか」
「あなたにねえ、調べてもらいたいことがあったのよー」
やっぱり。
「なにを調べればよいのでしょう」
「あらま、ずいぶんと素直じゃないの。なにかあったの?」
「逆らっても無駄だとわかってますから」
「わかってるじゃないのー」
ほほほ、と笑う。
「で、なにを調べれば……」
「それなんだけど」
と急に声を潜めた。
「実はね、私の姪の子供のことなんだけどね」
「姪御さんの? その子供、男ですか、女ですか」
「男の子だけど、なぜよ」
「女の子、苦手なんですよ」
「あら、」
と大家さんは大げさに身を引いてみせ、
「あなた、こっちの人?」
と手を顔の横にもっていく。
「ゲイと言う意味ですか? 違いますよ。ノーマルですけど、小さい子ってどうも苦手で。特に女の子は、どう扱っていいやら」
「それなら心配ご無用だわ。子供って言っても、大学生だから」
「大学生? なんだ、だったら女性の方がよかったな」
「あらあら」
大家さんは、また大げさに笑った。
なるほど、この人の姪御だから、もういい歳だろう。
「で、その姪御さんの子供のなにを調べればいいんです?」
「それがねえ、最近様子が変なのよー」
とあごに手を当てる。
「変とは?」
「それまで、活発な子でねえ、幼い頃からボーイスカウトに入ってがんばったり、ボランティアサークルで活動したり、それにねえ、頭の良い子なのよ。中学・高校と電脳サークルに入って、なんとかコンテストに、」
「なんとか?」
「ほら、毎年やってるじゃない。大企業が協賛になって、そっち方面の才能を競い合う」
「ああ、ニュートロン・コンテストですか」
「それそれ。そのコンテストのサークル部門でいつも上位に入っていたのよ」
「へええ。それはすごい」
これはマジの感想であった。ニュートロン・コンテストは国内最高のプログラムコンテストだ。
「大学だってねえ、東京復興工科大学なのよ」
「すごいですね。あそこは超一流の技術者が講師陣だと聞いてますよ」
「そうなのよお」
と大家さんはうれしそうに手をぱたぱたと動かした。
「そんなすごい方のなにが変なんですか?」
大家さんは顔を曇らせた。
「それがねえ……」
ふう、と息を付く。
「最近、その子が学校に行かなくなったのよ。まだ2年生なんだけど、もう一流企業から内定通知が来ているほどなのよ。なのに、講義にもでなくなって」
「はあ。バイトとかしているんじゃないですか?」
「ううん。全くしていないみたい」
「じゃあ、大学のレベルに物足りなさを感じたとか。そう言う人もいますよ。あるいは別のしたいことが出来たってこともあるでしょう」
「そうかしら……。少なくとも、何かしたいことがあって、と言う感じじゃないのよね」
「大家さん、大家さんはその人の様子をご覧になったんですか?」
「実はそうなのよ。姪から頼まれたの。姪も家を訪ねたりしたんだけど、相手にされなくて」
「はあ。それで、その人はなにもしていないと? つまりそれはニートですか」
若者に多い症候群だ。もちろん、中高年でもよく見られる。些細なことがきっかけでなにもしたくなくなる現象だ。気持ちはわからなくもないが、
「それなら、僕に頼まれてもどうしようもないですよ。ニートは本人次第です。他人が余計なことをしたら悪化するだけです。たとえそれが肉親で、親切心であっても。専門の人に頼んだ方がいいと思います」
「単なるニートなら、私もそうするわ。でも、ちょっと違うのよ」
「違うとは?」
「誰かと一緒に住んでいるのよ」
「は?」
ああ、とすぐに了解した。そういうことか。
「それなら大丈夫ですよ。要するに女が出来たってことでしょう。その相手にのめりこんじゃって世間も大学も見えなくなっているだけでしょう。しばらくしたら、ふられるか、何かで目が覚めますよ」
「違うのよ」
「違う? 女じゃないんですか?」
男と同棲とか?
「女もいるけど、女だけじゃないのよ」
「女だけじゃない? だけじゃないって言うのはどういう……」
「違うのよ。男もいるの」
「さ、3人?」
3人で同棲している? それはまた、なにやら怪しげな雰囲気が。
「どうも、単なる色恋沙汰って言うのとも違うようなのよ。なんていうか……」
「ていうか?」
「変な宗教にでも関わってるんじゃないかって……」
やれやれ、これはまた変な方向に話が行きそうな予感がしてきた。
「だからね、あなたに調べてもらいたいのよ」
「ええーっ? いやですよ、宗教系は」
「そう言わないでさ。ね、ちょっとだけでいいから。あなた調べごとの専門家でしょう」
「いや、まあ、そうですけど」
「もしやっかいなことになりそうだったら、後は警察なりなんなりに頼むからさ」
「最初からそうすればいいじゃないですか」
「まだ宗教と決まったわけじゃないし、なんでもないかも知れないじゃないの」
「それはまあ、そうですけど……。その、いつからの話なんですか?」
1、2週間くらいなら、ちょっと変わった前衛学生劇団とか、哲学研究会とかにはまってしんみりと盛り上がっているだけかも知れない。
「様子が変だと知ったのは3ヶ月くらい前だったかしら」
それは微妙だ。
「おねがい! ね、お家賃今月分まけておくから」
お家賃、と言われて僕は苦笑した。ますます断れない雰囲気になってきた。
「ね? おねがい」
やれやれ。
「お家賃はそのままでいいですから、別途料金をお支払いいただきます」
「あらら、そこらへんはプロねえ」
大家さんは苦笑いを浮かべた。
「依頼を引き受けてくれるのなら、なんでもいいわ。その中からうちのお家賃も出るわけだし」
まけておくって言ったのは誰だ。
「調べるだけですよ。経費はあとで請求します。で、その人はどこに住んでいるんですか?」
「ここよ」
「は?」
「ここよ、ここ。うちのアパートよ」
「ここに住んでるんですか?」
そんな人いたっけか?
「姪っ子から頼まれたんで、うちの部屋を貸したのよ」
「ははあ」
「その1階の端の部屋に住んでるのよ」
そう言って指をさす。
「あ……」
思い出した。
情報化、隣に住む人、なにものぞ、だ。
「彼かあ」
「あら? ご存じなの?」
「いえ、つい先日、見かけたもんだから。アパートの住人だとは知らなかったもので」
確かに、ちょっと人付き合いの悪そうな雰囲気はあった。あれが、大家さんの姪の子か……。いや、その同居人かも知れない。
「そうなのね。ちょうどよかった。じゃあ、お任せしましたわ。なにかわかったら、連絡をお願いね」
結局、こう言うことになるのだ。
引き受けはしたものの、いつもの情報を集めるやり方とは、かなり違っている。僕が普段する仕事は、新聞社や出版社に頼まれた内容を取材に行く「頼まれ仕事」で、取材のためのお膳立ては出来ているのだ。時には自分で集めたネタを売り込むこともある。そういう時の取材は自分でアポイントを取るわけだけど、それでも相手に接触して取材することには変わりない。
だが、今度のは、相手に接触しないで調べるところから始めなければならない。相手がどういう状況なのか把握しないうちは、へたに接触したり、調べていることがばれたら台無しになってしまうからだ。
そこで僕は、まず様子を見ることにした。なにもしないという意味ではなく、文字通り彼らがどういう生活をしているか、外からわかる範囲で見てみるのだ。僕はアパートの2階に住んでいるため、アパート敷地唯一の出入り口である駐車場の入り口を見張ることは窓から可能だ。が、1階端の部屋の玄関を見張るのはちょっと難しい。2階廊下の下にあるからだ。
そこで、家にあった安物のウェブカメラを彼らの部屋のドアの向かい側にある植え込みにカムフラージュして仕込んだ。植え込みの中にケーブルを這わせて、階段の支柱づたいに2階まで引いた。これで自宅の端末にデータを送れば、2ヶ所同時に見張れるし、近所の目も気にしないでいい。本人達もまさか、同じアパートの住人に監視されているとは思っても見ないだろう。だが、電脳知識の豊富な若者のようだから、無線にして盗撮していることに気付かれる恐れは避けた。ウェブカメラは駐車場を監視するため自分の部屋の窓の外にも置いた。僕が出かける時に自動で記録を取るためだ。
こんなことをしていると、いかにも犯罪者を監視している刑事のような気分である。犯罪者とは決まっていないけど。
彼らの動きはほとんどないと言ってよかった。
外に出ようともしない。
最初に監視を始めた日は、一歩も外には出なかった。あとで確認すると、深夜も出た様子はなかった。
翌日も閉じこもったままだ。
食事にでる様子もなければ、買い物に出かける様子もない。
男女3人が、一体、家に閉じこもってなにをしているのやら。
それを考えると、独り身の自分がバカバカしくなってくる。
まあ、外に出なくても、ネットから情報はいくらでも集められる。少なくとも1人は電脳方面に詳しいのだから。
「まさか、2ヶ月も閉じこもってプログラムでも書いているんじゃなかろうな」
それでなにかすばらしいソフトでもできあがって、大もうけでもするんなら、今のうちにコネを作っておきたいところである。
「大家さんも少し騒ぎすぎなんじゃないかなあ」
それでも仕事だから監視を続けた。
その日も動きはなく、彼らは部屋に閉じこもったままだった。
3日目は、取材仕事が入ったので、やむなく家を出た。カメラで映像を集めるだけに留めた。取材仕事は地元の出版社のミニコミ誌のためのもので、夕方には家に帰れたが、さっそく映像を確認してみると、1人が外出していた。大家の姪の子と同居している女性のようだ。なかなかの美人だったので、ちょっと不愉快になった。それに留守の時に限って外出する。留守でなければあとを付けることも可能だったのだが。
こう言うタイミングの悪さを取り上げた法則があったな。なんだっけ。マーフィーの法則とか言った。
失敗する可能性のあるものは、必ず失敗する、だっけか?
女性は30分足らずで帰ってきて、手ぶらだったから、買い物とかではないだろう。もしネットで食料や生活用品を買うのではないなら、外出して買うはずだ。だが、どういう用事かはわからなかった。彼女は出る時も帰ってきた時もあたりを気にし、そそくさという感じで歩き、ドアを素早く開け閉めする。警戒している雰囲気だ。
また外出するかも、そう期待して翌日も監視していると、1人出てきた。駐車場でバイクの整備をしている時に見ていたあの青年だ。おそらく大家の姪の子だろう。
僕は急いで部屋を出た。あとを付けるためだ。
1階に下りると、青年は駐車場から外へ出たところだった。辺りをせわしなく見回し、落ち着かない様子で、どうも挙動不審だ。
彼は交差点そばのコンビニまで行くと、おずおずという感じで中に入る。僕は交差点の角に立っている蓄光器にもたれかかって様子を見た。
青年はほんの数分でコンビニを出る。手には買い物袋を提げていた。僕は携帯でネットを見ているようなフリをしながら動画を撮る。青年はそのままアパートへと戻っていく。
あとを付けながら、玄関を入るところまで見張った。ドアを開ける時、他の同居人が顔を見せるかと思ったが、それはなかった。
それから2日、全く出てくる様子もない。
僕はだんだん不審な気持ちになってきた。彼らはなにをしているのか。大家の姪の子以外の2人は何者なのか。
盗聴もすることにした。今度は部屋の壁に直接盗聴器を取り付ける。
盗聴は機械技術的にはさほど難しくはない。僕程度の知識でも自作できる。部品は電脳街に行けばいくらでも売っていた。実際に盗聴器を設置する、という意味での行動技術は必要だけど、同じアパートだから大したことはなかった。
ただし、と僕は警戒した。カメラの時と同様、相手は電脳知識が豊富なのだから、盗聴されていることに気付かれないよう、有線にした。その設置が少しやっかいだった。
丸1日音を収録することにして、それを録音しながら同時に聞いてみる。
聞きながらつくづく思った。
探偵なんかやるもんじゃないな。こんな風に音を聞き続けることの、いかに苦痛であるか。この先、どこでどんな音声が入っているかもわからないのだ。だからいつまで聴き続けばいいのかもわからない。
情報化社会の申し子である僕らは、満ちあふれた情報に慣れているかのようだが、実はできあがった情報を、それも取捨選択したあとで、手に入れるだけで、何でもかんでも情報を欲しがっているわけじゃない。だからこそ、その情報を集めるエリンターがいて、それを取捨選択する編集者がいるわけだ。しかもそのエリンターである僕ですら、意味があるかないかすらわからないような情報は探さない。社会の中に散らばる意味を持った情報だけを探して集めるのである。
今やっている盗聴は、その意味のある状態ではなく、あるかないかすらわからないのだ。そんな音声情報に耳を傾け、意味のある情報が入っているかどうかを待つのは、ほんとに苦痛でしかなかった。
これで変なあえぎ声など聞こえてきた日には、さてどうしてくれようか。
そんなことを思いつつも、僕はずーっと聞いていた。目は窓の外と、カメラの映像を映した端末の画面に向けてままだ。
時々、足音や、なにかを置く音、トイレの水を流す音などが聞こえる。
しかし、たとえば何かのお経を唱えるとか、そういった宗教的な音声は入ってこなかった。静かなものである。
「どうやら、怪しげなカルト教団とかではなさそうだな。これは報告しておこうか。大家さんも少しは安心するだろう」
独り言を言っているのに気付いて顔をしかめる。まったく、ろくでもない。
でも、大家への報告は大事だ。それで僕の仕事ぶりに対する印象はよくなり、あとあと経費を請求する時にやりやすくなるのである。
僕は夜まで聞き耳を立て続けた。
話し声もひどく簡素なものだけだった。「食べるか?」「いらない」「それ取ってくれる?」「はい」といった簡単な単語だけの会話。
なにか変だと思うようになったのは、音声の中に、いかにも生活感のようなものが感じられなかったからである。
食事もしている、トイレにも行っている、生きているという意味での生活情報は、音声の中に含まれている。しかし、普通、2人以上の人間が同じ所にいる時は、もっといろんな音が聞こえてくるはずである。特に会話は盛んだ。こまめに動き回る音だってするはずである。
だが、それらの音はほとんどなく、会話もひどく簡素だ。単語の意味だけが通用する会話で、人間の感情が飛び交うような会話ではなかった。
これじゃ、まだしもあえぎ声が聞こえてきた方が、聞く方も安心するというものだ。それほどに無意味な音声しか入っていなかった。
カルト宗教ではないことはわかったが、別の意味で、この3人のことが薄気味悪く感じられてきた。
彼らはなにをしているんだ?
一体、何者なんだ?
単にニートが3人集まって部屋に閉じこもっているだけなのか?
ニートって、そういう風に集まって暮らすものだろうか。
翌日の朝、僕は3人のうちで、まだ顔を見てなかった男の動画を撮ることに成功した。その男がコンビニに出かけたのだ。だがすぐに帰ってきて、閉じこもってしまう。3人は交替で買い出ししているように思えた。
僕は、3人目の動画を手に入れたことで、1つの考えがうかんだ。
カメラと盗聴器によるデータ集めはそのままにして、アパートを出る。EMMBにまたがり、駐車場を出た。
僕が向かったのは、ある人物の所だった。
秋葉原は電脳街である。
その歴史はかなり古く、太平洋戦争のあと、駅前に出来た闇市がきっかけだったとも言う。付近に電気関係の専門学校があり、そのため電気部品屋さんが集まったという話を聞いたことがある。一時期は、世界で唯一、電気関係の製品や部品だけを扱う電気街だった。食べ物屋すらなかったと言うからすごい。
前世紀末から、今世紀初頭にかけ、電脳社会が拡大すると、秋葉原以外にも電気街が生まれ(というよりも、電脳製品が普通に売られるようになったわけだが)、秋葉原の地位は低下した。
巻き返しを図って、秋葉原には産学共同の研究拠点が作られたり、新たな電脳カフェが生まれたりもしたが、かつての絶対的な地位の復活とまでは行かなかった。
それが一変したのは、09震災である。
巨大な地震により、都心は壊滅し、首都が一時期立川市へ移るほど、東京はすべての機能を失った。秋葉原も灰燼に帰し、せっかく整備が進められてきた設備もなにもかも破壊された。
おりしも、後に09革命、と呼ばれることとなった社会構造大改革がはじまったところである。
革命を推進したのは、震災後の総選挙で大勝した企画党を推進した「企画会議」と呼ばれるグループで、その中心は産業界の新進気鋭のメンバーだった。彼らは国の発展は技術と産業にあると見て、改革目標の中心にそれを据えた。
彼らは、大震災で東京が壊滅したことを逆に利用して、都市計画を練り直し、新たな東京の建設に当たった。総額500兆円におよぶ都市計画である。
その中に組み込まれたのが、今世紀初頭に行われた秋葉原再開発計画をはるかに上回る秋葉原電脳都市建設計画であった。それは、単に電脳店舗街だけではなく、発電所、光ネットワークなどのインフラ、企業の研究開発センター、東京電脳大学や東京復興工科大学などの新しい教育機関といったところまでを、基盤から建設するというものだった。
ところがその頃、秋葉原が最初に電気街へと発展した時の経過に似た現象が起こっていた。
震災の避難民が秋葉原付近に集まり、そこに街を作っていたのである。元々電脳街だったこともあって、またも電気関係の仕事に就いていた人がそこに店舗を開いた。瓦礫の中から集めた部品や電脳機器を売り出したのだ。リサイクルシステムが普及していたこと、震災直後で生産体制が低下していたこと、電脳社会が到来していたことなどもあって、この商売は当たり、東京の山手線沿いに誕生した雑居都市群の中でも、秋葉原の復興はひときわ早かった。
一方、「企画会議」と企画党政権による大改革も進み、駅ビルの大改装とその周辺の高層都市化、そしてその周囲に拡がる雑居都市群を取り込むように、巨大な支柱が組まれ、フロアが整えられ、高層電脳都市が組み上がっていった。雑居都市群の住民を追い出さないことで企画会議の都市建設部門との間で合意が成された結果であった。
神田川沿いや浅草橋まで含めた東西1km、南北1.2kmほどのまるで一つの超巨大なビルディングのような立体的な都市が完成したが、そこは最新鋭の研究所や大学のあるフロアもあれば、昔ながらの雰囲気を持つごちゃごちゃしたミニ店舗が並ぶ商店街や、町工場も入っている雑居フロア、さらにバーチャル系風俗店が並ぶ風俗フロアもあるなど、まさに、なんでもありの電脳都市となった。秋葉原の名は復活を果たし、一種の名所として国の内外からも大勢の人が訪れるようになった。
僕が訪ねようとしている人物は、秋葉原の中に棲息する人間だった。
秋葉原へ向かうため、杉並区で首都高吉祥寺線へ上がる。そのまま北新宿で都心環状線に入り、すぐに都心中央横断線へ出た。いずれも復興の時に造られた路線で、それまでの路線の多くは震災で破壊されたため、解体されている。中央横断線はビル群の中に入った。新宿から四谷までの新宿街道沿いと四谷から秋葉原までのJR中央総武線沿いに並ぶ3~400m級の超高層ビル群を貫いているのだ。
これらのビルは、外堀や神田川の上にまたぐようには作られなかった。日本橋川などの上も同様である。高層化し立体化していく東京だが、昔ながらの風景を残している部分も多い。国会議事堂や国立競技場と共に国宝に指定された日本橋は、皮肉にも震災で首都高が使えなくなったために、日の目を見た。オリンピックに合わせて突貫で作られた旧首都高は、用地問題をクリアするために既存の道路や川の上に作られたため、せっかくの景観も台無しになってしまったが、今はそういう急な問題はないから、首都復興計画では、川の上の首都高は再建されず、位置をずらすか、地下に潜った。
中央区の東側、隅田川までの一帯と、江東区には、昔ながらの運河もかなり復元された。景観と観光のためだけでなく、浸水・液状化対策のための排水調節機能と、水利運送としての運河が見直されたからである。公園が整備され、緑地帯が増えた。住環境も、都市景観もずっと良くなった。これはこれで良かったに違いない。都心50万人の犠牲者の上に再建するのだ。それくらいは必要だろう。
ビル群の中を通りながら、横断線は秋葉原電脳都市へ至る。
離れて眺めると、1つの巨大な建物にも見えるこの都市は、鉄道も道路も呑み込んでいる。横断線の秋葉原ランプは、本線から分かれるとビルのフロアに吸い込まれる。その先に中度区画駐車場と「垂直シャトル」と呼ばれている大型エレベーターの駅がある。一番高いところでは145階(666m)、低いところでは地下15階まであるこの都市は、利便性を図るため、鉄道の駅、駐車場などを結んで大小のエレベーターが走っている。その最大のものが車両をそのまま載せることの出来る垂直シャトルで、高度駐車場、中度駐車場、地上駐車場、地下駐車場の4ヶ所にシャトル駅がある。人間の乗るエレベーターも、高速タイプのものはまるで縦に動く列車のように乗り場が縦に並んでいる。このエレベーターの駅は、フロアが開放されていて上下の階へエスカレーターで繋がっているから、こういう立体的でごちゃごちゃした都市には便利だ。
僕はバイクを駐車場に止め、高速エレベーターに乗った。
5階まで降りた。中高層階とは違う雰囲気が拡がっている。雑然とした小店舗が広い通路の両側に並んでいて、さらに通路の左右には小通路がいくつも入り込んでいて、その両側にも2、3坪程度の店舗が並んでいた。迷路のような所だ。大勢の人が行き来していて大変な混雑ぶりである。この人達はみな、こんな部品ばかりの所に、本当に買いに来た連中なのだろうか。そうだとすると、この国の人間は工作好きな連中が揃いも揃っていると言うことになる。実際、電脳を買ってきても、そのままでは使わず、必ず部品を増やして独自のアレンジを施す。日本人にとって、製品とは完成品ではなく、途中の状態にあるのだろう。
人々の間を抜けながら、小さな路地の1つに入る。
奥の方にある小さな店舗を覗き込んだ。看板には『熊田電機』といっぱしの名前が付いているが、ここはチップ屋と呼ばれる種類の店で、電脳のCPUコアやチップセット基盤ばかりを売っている。それもかなり古いシリコン基板から、最新の光学ボードや量子チップに至るまで多種多様だ。狭い店にびっしりとそんな部品が透明の箱に入れられて置いてある。その奥の壁で中年の男が背を向けて立っていた。
カウンター越しに声をかける。
「熊田さん、お久しぶり」
男は振り向いた。
「おや、誰かと思えば、エリンターの英介君か」
「商売はどうですか?」
「んー、ボチボチだな。来るのはマニアックな奴らばかりだから、高いもんでも売れはするが、そんな客自体、そう多くはないしね」
「そういうもんでしょう。熊田さんだってマニアじゃないですか」
「ま、そうだけどな」
「グロスターいます?」
熊田店主は顔を動かして奥を示し、さらに顔を近づけてきて、小声で言った。
「面会の予約してきたか?」
僕は首を振った。
「予約すればグロスターと面会できる人っているんですか?」
「はは、違いない」
熊田は笑って、
「ま、お前さんだからいいけどね」
と裏に入れてくれた。
狭い店の奥の壁、こぼれ落ちそうなくらいに積み上げられているチップセットの箱の間に隙間のような、人がやっと通れるかという狭い通路がある。表向きは2坪3坪の店でも、奥の方には倉庫があるのだ。搬入通路という表からは見えない通路もある。復興計画でこの立体都市を建設した時、そういった細々としたところまで設計したのである。
僕はその隙間をすり抜けてから振り返った。
「熊田さん、これ、」
とチップセットの箱の山を指さし、
「地震が来たら一発ですよ。埋もれちゃいますって」
「それで死ねたら本望ってもんさ」
と熊田は言い返した。
「夜もチップを抱いて寝てるんでしょう」
「電脳フェチはそれがノーマルってもんよ」
「せいぜい励んでください」
熊田は笑った。
倉庫を抜けると、搬入通路が横切っている。ターレーロボットが荷物を満載してうろうろしていた。表も裏もにぎやかなことだ。ここで不況は想像できない。
通路の向かい側に、その部屋はあった。
ドアを開け、ホタルライトの灯る短い廊下を抜けると、電脳に囲まれたやや広い部屋に出た。元は倉庫だという。
電脳の中に男が腰掛けている。
彼は振り向きもしないで、
「なにしに来たんだ、英介」
「どのカメラで見てるんだ?」
僕は辺りを見回してから、男に近づいた。
「仕事の依頼に来たんだ、グロスター」
男は振り向いた。ボサボサ頭に顎だけ無精ヒゲ、サングラスの男は、口の片方だけで笑い、
「久しぶりだな。元気してたか」
僕はうなずき、
「あんたも元気そうで何よりだ。こんな電磁波監獄のような所にいて」
ハハハッと笑って、彼は立ち上がり、拳で僕の腹を殴る真似をした。
「相変わらず口の悪いやつだ。それでよくエリンターなんてやってられるぜ」
僕も笑った。
グロスターと名乗っているこの男は、小学校高学年から知っている僕の古なじみだ。同じ震災孤児上がりで、元はエリンターをしていたところも同じ。と言うより、僕をエリンターの道に引きずり込んだのはこの男である。そして自分はさっさとエリンター業界から抜け出し、今はもっとアンダーなネットダイバーをしている。
ネットダイバーとは、簡単に言えば、電脳グローバルネット、通称エクサネットの中を泳ぎ回って、合法非合法のワザを駆使して情報をかき集め、それをいろんな所に売りつける仕事だ。エリンターと違うのは、その手法と活動範囲がネットワールド限定だと言うことだろう。それと、ややダーティな業界である。
グロスターは、その世界じゃ有名人だが、それはその仕事の完璧さと秘密性による。つまり、「どこの誰かは知らない」ことが有名なのだ。彼に仕事を依頼する時は、いろんなツテやコネを駆使してアポイントを求め、アポが取れても、本人が気に入らなければ仕事は断る。だから、腹を立てたり、脅したりする人もいるそうだが、金に見合った情報をくれることでも知られているので、知る人の間では決して損はしないという評判だ。
グロスターの住んでいるところ(すなわちココ)を知っている人はいくらかいるが、グロスターが何者で、どういう生まれ育ちで、本名はなにかを知っている人は、それこそ片手で数えるほどしかいない。
僕はその1人なので、光栄と言えば光栄。ガキの時から知っているのだから当たり前と言えば当たり前。誰にも言わないけれど。
彼もふだんは、結構外を出歩いているらしいのだが、顔を知らないのだからグロスターだとは誰もわからない。少しうらやましい境遇だ。
僕らは、同じ震災孤児上がりで、性格はかなり違うが、似たなにかを持っているところがウマが合った。緊張感なく悪口を言い合える数少ない友人同士である。グロスターという有名な謎のネットダイバーと知り合いであること以上に、そういう友人関係は貴重ではなかろうか。
グロスターはダイブ用のサングラスを外した。
「まあ、座れよ。なんか飲むか?」
「電脳の冷却溶液なんか出すなよ」
「残念。あとはソフトドリンクくらいしかないな」
そういって、傍らの冷温庫を開けた。500mlのバイオボトルに入った烏龍茶を取り出す。僕は傍らの椅子に腰掛け、それを受け取りながら、
「その冷温庫、電脳の冷却にも使ってるだろう」
とからかうと、
「藤野電工のペルチェユニットだからな、強力なのさ」
「隣の電気屋からかっぱらってきたんじゃなかろうな」
「なぜ知ってる?」
本気かウソかわからぬことを言って笑い、
「で、仕事ってなんだ?」
「調べて欲しいことがあってさ」
「へえ。この俺様に直接頼みにきたのか。敷居は高いぜ」
「これなんだけど」
と僕は相手にせず携帯を取りだした。画面に3人の画像を次々と映し出す。
「この3人のことを調べて欲しいんだ」
と携帯を渡す。画面をまじまじと見たグロスターは、にやっと笑った。
「こいつらなにしでかしたんだ? ネットバンクの預金データでも書き換えたか?」
「あるいはそうかもしれん」
「ほほう。お前さんもとうとう落ちぶれたか。エリンターがバウンティ・ハンターをやるようになったら、あとはアンダーワールド一直線だな。地獄の門はいつでも開いているぜ」
「冗談言うなよ。俺はそこまでせっぱ詰まってねえって」
僕はあごを上げた。
「じゃあ、こいつらは何者なんだ」
「この中の1人が、アパートの大家の姪の子なんだそうだ。で、大家に頼まれたんだよ。断れなくてさ」
「アハハハ、お前、そういうのをせっぱ詰まったって言うんだよ」
グロスターはいかにも可笑しげだ。
「調べてくれるのか? くれないのか?」
「まてまて、そうとんがるな。他ならぬお前だからな、調べてやろう。まけとくよ」
「金回り良さそうだね」
「まあな」
「頼むよ。言うまでもないけど、情報は内密にしてくれ」
「おいおい、誰に向かって言うか。心配すんなって」
仕事の話はここで終わり、あとはお互いの近況の話になった。進む道は違えど、同じ情報を扱う仕事をしている。情報化社会の先端を行くものとしての共感があった。電脳に囲まれて烏龍茶片手に話す時、グロスターは至極普通の人間だった。アンダーネットワールドの伝説的人物の顔はそこにはなかった。
6時間後には、はやくも情報が送られてきた。
グロスターはきちんと仕事をする男である。それだけに料金は高い。まけてくれるとは言ったが、相応に請求してくるだろう。それはもちろん大家さんにそのまま請求するが、そのためにはきちんとした情報でなければならない。きちんとした情報を送ってもらうためには、それなりの金がかかる、と言うわけで、グロスターに仕事を頼むと、需給のバランスというのが実感できる。うさんくさい商売のように見えて、実は堅実な仕事なのである。それは言うまでもなく信用という意味に直結していた。ビジネスは信用で成り立っている。
量子暗号化されたデータを解凍すると、3人のデータが現れた。ずいぶんと詳細な情報だ。一体、顔の写真だけでどうやってここまで調べたのか。
その中の主なデータを抽出してみる。直接関係のなさそうな細かい情報は省く。
1 草間総太 21歳
滋賀県大津市出身。京都電子工業高校卒。
一橋大学情報工学研究科学士過程3年。
※今年3月から丁朱清教授の講座に出入りしている。
2031年度エキシマコンテスト世界大会第3位。
2034年度国際SIGコンテスト世界大会準優勝
(大学チーム「翔鷹」メインアナライザー)。
犯罪歴無し。
現在犯罪組織に関わっている情報無し。
親族に犯罪組織関係者無し。
親族に公安関係者無し。
実家の宗教は禅宗系。本人は宗教活動無し。
宗教団体登録もなし。
2 若村ユキナ 26歳
埼玉県さいたま市出身。テクノバンクさいたま高校卒。
慶応大学電脳学部情報工学科卒。
東和情報銀行情報処理課勤務。
2034年からアーキテクチャー主任。
犯罪歴無し。
現在犯罪組織に関わっている情報無し。
親族に犯罪組織関係者無し。
親族に公安関係者無し。
実家、本人とも宗教活動無し。宗教団体登録もなし。
3 敷田景一郎 20歳
東京都八王子市出身。市立八王子高校電子科卒。
東京復興工科大学学士過程2年。
2029年度ニュートロン・コンテスト3位。
2031年度ニュートロン・コンテスト4位。
2032年度ニュートロン・コンテスト優勝。
2034年度ニュートロン・コンテスト2位。
犯罪歴無し。
現在犯罪組織に関わっている情報無し。
親族に犯罪組織関係者無し。
親族に公安関係者無し。
実家、本人とも宗教活動無し。宗教団体登録もなし。
僕は驚いた。
3人ともみな電脳関係者だったのである。それも優秀な。
敷田景一郎というのが大家の姪の子だ。
経歴から見ると、この3人、全く無関係の間柄ではないだろう。ただし社会人は若村ユキナという女性だけである。他の2人は異なる大学の学生だから、おそらく何かのイベントで知り合ったのではないか。
これはいよいよ閉じこもってプログラムでも書き、新しいソフト会社でも興す気でいるのか、と思いたいところだが、どうもそんな感じではなかった。
若村ユキナは、この歳で情報銀行のアーキテクチャー主任である。抜擢と言うべきだろう。しかも就任して2年と言うところだ。まだ自分の会社を興す気にはならないはずだ。
それともネットゲームにはまりこんで抜け出せなくなった、いわゆるネット依存症にでもなったか?
それもちょっと変な気がした。
ネット依存症は良くある話だが、大抵は1人ではまりこむ。同棲してまではまりこむものだろうか。
いや、3人がネットゲーム上のチームを組んで、常時対戦中にあるのかも知れない。そう考えれば交替で買い物に出るのも説明が付く。
そこまで考えたものの、僕はその考えも自分で否定した。
チームを組んで、というのはあり得ない話ではないが、これもやはり若村ユキナという女性の現在の地位から考えると微妙だ。3人とも学生なら、さもあるだろうが。
データの最後にグロスターの連絡先が書いてある。これはこの仕事に関する連絡先である。彼はいつも仕事の度に連絡先を変える。リバースディテクションを警戒しているのだ。僕は彼がどこに住んでいるか知っているが、そこの電脳アドレスも、携帯アドレスも知らない。昔は知っていたが、彼がいまの仕事になった時、住んでいる場所だけ教えられた。もともと彼は不意に電話が入るのを嫌がるし、自分の居場所を知られないようにしているから、知ってたところで僕も連絡は取らない。先日のように訪ねることがたまにあるが、あれだけ情報世界にいる人間に対し、不思議なアポイントの取り方ではあろう。他の人の場合、彼にアポを取るのはもっと大変だ。いろんなコネを使わなければならない。
友人としてなれなれしくしないのが、友情が続く条件でもある。
だからここは素直に、データの中にある連絡先に連絡を入れた。
『早速来たな』
いきなりグロスターは言った。
『動的情報が聞きたいんだろう。若村ユキナって言う女の』
「よくわかったな」
『お前に送ったのは静的情報だ。名前さえわかれば、あとは自治体や大学、企業のデータバンクから引き出せばわかる情報だからな。公安や宗教団体の情報も、そのデータバンクに忍び込めれば、あとは単純な検索でいい。だが、関係者の証言と言った情報は含まれてない』
「そうなんだ。しかし、若村ユキナのことだとわかったのは?」
『ちょっと考えればわかる。この女だけ社会との接触が異なっている。大学生が引きこもるのは良くある話だが、社会人でそれなりのポストにある人間がそれだと問題になるからな。しかも、この女はまだ若い』
「そこそこ。そこが気になったんだよ」
『東和情報銀行情報処理課の関係者の証言データもある。ただし割り増しだぞ』
「いいよ。請求書を送ってもらえれば」
『データを送る。情報処理課の証言だがな、簡単に言えば、今年の2月から、つまり3ヶ月ちょっと前から出社しなくなっているらしい。社内でも心配して連絡を取ったそうだが、初めのうちは調子が悪いとかなんとか言う理由だったのが、その後連絡が取れなくなったので、社の方では彼女の状況を待つまでもなく主任を交代させている。彼女の状況については実家の方に連絡を取ったようだな。実家の方から捜索願が出てるぞ』
「警察に? それはいつ?」
『4月16日にさいたま市浦和警察署だ。公安ネット網にデータが登録されている。所轄の電脳同士が情報を交換処理しているから、各署の刑事課や生活安全課の端末でも新着リストに出てたはずだ。今はもう後ろの方になってるだろうが』
「東和情報銀行の方は、主任解任だけか?」
『彼女は有能なんで、クビにはしていないようだな。しかし、かなり評判は悪くなっている。噂話の的だ』
「そこまで調べたわけ? 取材したとか?」
『俺がか? ここで調べたんだよ』
「東和に電話でもかけたのか?」
『電話はかけたが、かけたのは俺じゃなく、うちの電脳くんさ。音声データをサンプリングしていろんな人の声でね。質問内容には気を遣ったが』
「噂話もそうやって聞いたのか?」
『東和の社内ネットにアクセスしてカメラの映像やマイクの音声を拾って積層解析したんだ』
「社内カメラねえ」
『情報を扱う企業では普通のことだ。社員に内緒で動画撮影しているし、盗聴器だってある。端末の操作記録だって取ってる。どのキーを触ったか、どのデバイスを使ったか、ネットの何を見ていたか、ファイルの動きも全部わかる。その中から問題になりそうな動きを電脳が確認すると、経営側に通報する仕組みだ。要するに社員を信じてないのさ。情報漏洩はシステムの不備ではなく人間から漏れるもんだからな』
「まるで独裁国家だね」
『情報化社会が民主主義だと思っている奴らは、評論家と万年野党の政治家くらいのもんだ。連中は情報の海に漂うゴミみたいなもんだからな。海の広さはわかるが、深さも複雑さもわかってない』
グロスターの悪口に僕は苦笑した。まあ、間違いではない。
『独裁国家と違うのは、情報を見ることの出来る奴らが支配層で、出来ない奴らが被支配層だってことだ。全体主義なんだよ、この社会は。大衆はそれを知らないだけだ。まあ、世の中には知らない方がいいって事もある。支配されていること、管理されていることを知らなければ、幸せに生きていける。ある日突然、自分の存在が消されたり、自分が別のものとして扱われる時が来ない限りはな』
グロスターの送ってきた情報は、彼が話したことをより詳細にしたものだ。動画データも音声データもある。
これを見ると、ますますわけがわからなくなる。
若村ユキナは、アーキテクチャー主任の時、きちんと評価されており、期待もされていた。会社に不満を持つような要素は見られない。会社の上司や同僚が彼女が来なくなったことをいろいろ言っているのを見ると、会社が関係して何かが起こったわけではないのが明らかだ。つまり上司や同僚は彼女の欠勤の理由がわからないのである。
大学生の2人の動的データも送られてきていた。学内の監視カメラや、周辺のファーストフードの店内カメラ、街頭防犯カメラの映像、高度なセキュリティがかけられているはずの研究室のウェブカメラらしき映像もある。グロスターも徹底したものだ。あの部屋に籠もって世界のいろんな所をのぞき見できるのだから、恐ろしい話である。彼の腕は超一流だから、工科大学のセキュリティシステムも効かない。いつの間にか、彼の都合の良いようにプログラムを書き換えられているのだろう。
それらの映像を見ると、2人とも、周囲との人間関係は良く、人気もあった。彼らが学校に来なくなり、連絡にもでなくなったことに、友人らはかなり心配しているようだった。あまり人付き合いの良くない僕から見ると、うらやましいと言うより腹立たしい。何をやっても良く見られるやつは、クラスに必ず1人はいたが、そういうタイプらしい。
ただ、中にはこのアパートまで様子を見に来たものでもいるのか、「変な女に引っかかったらしいぞ」などと言っている同窓生もいる。
「春休み中にナンパでもしたんじゃねえか」
「あいつにそんな甲斐性ないだろ。ネットで知り合ったんだろうさ」
そんな会話だった。
人気あるとは言っても、様子が変になった同窓生のことは、所詮他人事。噂話に花を咲かせるのだろう。そしてだんだんイメージは悪くなっていく。
また、学生のことだから、会社員の若村ユキナほどには深刻に受け止められてない。教授も苦虫をかみつぶしたような顔でぶつぶつ言っているのがそばの端末にあるカメラから捉えられていた。
2人の学生も、特に重大な問題があったような様子はない。
一体、この3人は、何が理由で1つの部屋に同居し、外にも出ないで部屋の中でじっとしているのか。
共通点はたった1つ。
3人とも電脳に詳しいと言うことだ。
しかしどうもプログラミングや、ネットゲームや、電脳に関係しそうなことはやってないらしい。
グロスターと連絡を取った翌日、僕はトウキョウ・サイバー・ポスト社の島田弥生から呼び出しを受けたので出かけた。このまえ取材した高齢者収容施設「桃源塔」のことで、彼女が話を聞きたいというのだ。情報は大体提供したはずだが、新たなコラム執筆に悩んでいる様子だった。美人に頼まれたら断るわけにもいかない。とはいえ、コラムが書けるかどうかは彼女次第なんだけど。
調査の方は、具体的な推測について、まだ大家には話をしていない。どうとも説明できないので、正直困っている。何らかの結論なりなんなりが出ないと、こっちとしても経費を請求しにくいのである。探偵社の人は、こう言う時どうしているのだろう。結論が出ていなくても請求するのだろうか。エリンターの場合は、何かしらのきちんとした情報がない限り、お金には換えられない。情報の質がそのままお金に換算される商売だからだ。情報本位性である。
東中野のサイバーポスト社から戻ってきたのは夜で、食料がなくなっていることに気付き、仕方なく近所のコンビニへ出かけた。
お総菜を選んでいると、あの3人の1人、草間総太が入って来た。買い出しらしい。
さりげなく様子を窺うことにした。
草間は何かに怯えるようにきょろきょろとしながら、手早く食材をかごに入れていった。
おや、と僕は思った。
ふつうコンビニやスーパーで買い物をする時は、買いたいものを選んで携帯をかざし、データを登録しておいて、出口にある読み取り機の横を通過する時に自動的に決済する。
携帯がない場合でも、レジの端末で商品をサーチし、口座番号と指のデータを入力すれば、それでOKだ。
ところが草間は、レジまで持っていくと、お金を支払った。
もちろん、紙幣やコインがないわけではないし、コンビニで現金払いも出来る。
経済の裏付けとしての通貨は今でも意味を持っているし、現金で取引する例だって少なくない。なにもかもネットでデータだけを動かしているわけじゃなく、むしろネット化が進んだからこそ、現金の魅力も強まるからである。
さらに大災害の時には、ネットワークのダウンは当然あり得るので、現金は必要になる。災害大国であり、09震災で心底痛めつけられた経験の残る今、現金は簡単には廃止できなかった。
ただ、電脳化とネットワーク化が進んでいるため、普通、コンビニで現金払いをする人はほとんどいない。コンビニも現金を置いて犯罪に狙われるのは避けたい事情もある。
もし、草間でなければ、あるいは彼であっても、何者か知らなければ、現金で支払っているのを見たところで、「へえ、珍しい」と言うくらいの感想しかなかっただろう。
だが、草間は電脳世界の人間である。それが現金払いなどと、ちょっと想像が付かなかった。携帯を忘れたとしても、自分の口座くらい持っているはずだから、決済は出来る。
僕は、その光景に言いようのない違和感を感じた。
アパートの部屋に戻り、冷温庫で買ってきたお総菜を暖めながら、映像と音声をチェックしていると、突然電話が鳴った。正確にはネコドロイドのタマが音楽を奏で始めたのだ。
「英介様、お電話です」
「はいはい」
猫のくせに人語をしゃべるなよ、とか毒づきながら、この機能を削除するつもりはない。
「誰から?」
「大家さんからです」
僕は顔をしかめた。
「モードはそのままでいいよ」
電話に出る。
『英介くーん? 大家ですけどー』
「はいはいどうも」
『その後、調査はどうなってるかしら』
「だいぶわかってきましたよ」
そう言うしかない。
僕は、同居しているのが誰か、どういう立場の人かを説明した。といって、あまり余計なことを言って、大家さんが独自の行動を取られると困るから、その点は釘を刺しておく。
「あと、宗教ではないです。ご心配はいりません。閉じこもっている理由ですが、正直言って、まだわかりません。でも、あくまで個人的問題のような感じですね。少なくとも、組織的な何かじゃないですから、その点は大丈夫ですよ」
『そお?』
とあまり納得している感じではない。
「もう少し待ってもらえますか? やはりきちっとした結論を出したいですし、そうすればお知らせしますから」
僕はさっさと打ち切りたかった。あのやかましい調子が出てくる前に。
『お願いしますね。でも、出来るだけ早くに結論をくださいよ』
「もちろんです。それが僕の仕事ですから」
と口だけはうまいことを言って電話を切った。
大きなため息が出る。
さっぱりわからないのに、一体どうすればいいんだ?
普通、情報が集まってきたら、大体の見当は付くのだが、今回はさっぱりわからない。それは、集まってくる情報が、全部外側からのもので、今の彼らの内面に関わる直接的情報がほとんどないからであった。
極端なことを言えば、彼らが誰であろうと、今の彼らの気持ちを聞ければそれでいいのである。
「こりゃあ、直接ぶつかってみるかなあ」
ベッドに寝転がってつぶやいた。本人達に話を聞くのである。でも、これは1つ間違うと、状況を悪化させることにもなりかねない。そもそも、彼らがなんで閉じこもっているかの理由がわからないのだから。
なんだか、疲れてきた。いつもの情報収集仕事とはえらい違いである。
ベッドの上で天井を眺めていると、
また音楽が鳴った。
「今度は誰からだ」
僕はタマに言われるまえに聞いた。
「柿田弘幸様からです」
「え? 柿田さん?」
僕は起きあがって、電話に出た。モニターをONにする。
「どうも、市来です」
「市来君、久しぶりだね」
かけてきたのは、自然保護官の柿田教授だった。
彼は環境省の自然再生プロジェクトに従って活動している国家公務員であり、学者でもあった。
彼となぜ知り合いかというと、2年前、僕は群馬県での再生プロジェクトを取材したことがあったからだ。
その取材内容は、記事として使えるかどうかはもちろんのこと、データとしても業界で大評判となり、僕にエリンターとしてやっていけるだけの仕事が来るようになったきっかけであった。
「ご無沙汰しています。どうしたんですか、突然」
「いやなに、久しぶりに声でも聞きたくなってね。実は、今度徳島県に異動することになったんだ」
「徳島ですか。それも自然再生事業ですか?」
「そうよ。吉野川流域でね。山が荒れてな、洪水も年々ひどくなってる。2、3年様子を見ながらやらんといかんようだから、しばらく東京に行くことはないだろう」
「そうですか。それは大変ですねえ」
「なあに。好きなことをやってるんだから、なんともない。幸いにして、俺には家族もおらんから、気楽だしなあ。いや、自然はいいぞお。君なんか、そっちのごちゃごちゃした人だらけの世界で大変だろうが、やはり人は自然に帰らねばならんのだよ」
「いやほんと、おっしゃるとおりです。今は環境の再生の時ですしね。でも、人は都会に集めなければ自然破壊は止まらないでしょう」
「まあな。ま、いずれ、都会も緑で覆ってみせるさ」
09震災後の構造改革でも、自然保護・再生区を創設して、そこの住民はどんどん都市部へ移住させている。残る人間は、環境保護の活動に関わる人間のみである。自然水利農法の専門家や、山林管理員、環境工学の学者や鳥獣保護官などである。移住先の生活環境が悪いと問題になるので、都市再開発事業も進めなければならない。東京の復興と共に、今、日本は全土で大改革の真っ最中なのだ。地域の人口の変遷は、この20年間でめまぐるしく変わり、自治体の再編も一気に進んでいる。
「東京もずいぶん緑地帯を増やしたが、まだまだだな。俺に計画させりゃ、もっといい街にしてみせるんだがね。省の官僚や御用学者どもは、机上で物事を決める。現場に出らんといかん。君だってエリンターをやってるんだから、良くわかるだろう。編集部の無知な連中の書く記事に腹が立つこともあるんじゃないか?」
柿田は豪快に笑った。こういう人物なのだ、彼は。取材した日々を思い出す。
「柿田さんは変わりませんねえ」
「そりゃあきみ、俺は自然の中で暮らしている。余計な人間関係にも煩わされず、日々の出来事にも惑わされずにいるからな。気が楽ってなものさ。好きなことを仕事にしていたら、ストレスなんぞ溜まらんよ。うちにも都会から来てのびのびやっておる若いのが何人もいるが、みなイキイキしておるぞ」
「それはうらやましい」
「君もいずれ、俺の所へ来い。面倒見てやろう」
「その時はお願いします」
僕はそういって笑った。
彼との話は尽きなかったが、徳島へ行く前に本省へ寄るから、その時飯でも食おうと約束して電話は切れた。
ベッドに寝転がる。
柿田は、自然の中をかけずり回っている。生き物相手の仕事は大変だ。いくら情報を集めたところで、それで完璧とは言えない。山1つ管理するのも、動物・植物のバランスは常に安定しない。どれかを保護すれば、別のものが激減する。減ったものを守ろうとすると、別の生き物がいなくなってしまう。しかし、全体を見渡して、同時に守ろうというのは、人間の手ではあまりにも大変だった。山を丸ごと抱えて、細かいところまでみれる神様のような心と体が欲しいものよ、と柿田は言ったことがあった。確かに、人間のみる視野と出来ることは限られている。
それでも柿田は元気な男である。40を少し過ぎたくらいだが、役人や地元の研究者、学生らを引っ張って、指揮に走り回っているのだろう。
確かに、ストレスなどはないに違いない。
「人間関係にも煩わされず、日々の出来事にも惑わされない、か……」
うらやましいことだ。僕なんて、情報屋だから、人にも情報にも毎日毎日みっちりと接して気の休まる時もない。このままじゃ病気に……
その瞬間、僕の中で、何かがフッと浮かんだ。
「……?」
僕はぼんやりとタマを見た。猫型ドロイドは猫そっくりにゴロゴロと床を転がっている。だけど、僕はタマを観察しているわけじゃなかった。
柿田の言葉、閉じこもっている3人、コンビニで見た光景……。
「あ……!」
ぼくはガバっと起き上がった。
もしかして、僕はなにか大きな勘違いをしていたのじゃないか?
本当は逆なんじゃないか?
閉じこもっている3人は、電脳技術の専門家だ。ネットワーク世界の申し子だ。
その情報にとらわれすぎてはいないか。その情報をそのまま受け取ってはいないか。その情報の中にあるものを見ようとしていなかったのではないか。
僕は端末の前に座った。素早く操作して、エクサネットを呼び出す。
キーを叩き、検索を開始した。
さほど時間はかからなかった。
僕はすぐに、必要としている情報に行き当たった。
「そうか。彼らはこれなんだ……」
間違いないように思えた。
僕は、推測を多く含めた結論を大家さんに説明することとした。
僕の部屋は散らかっているし、大家さんはあまり呼びたくないので、大家さんの家に行くことになった。環状都市に近い国立市内の一等地にある豪邸だ。この階層はまだ移住の対象になっていない。
お茶を出され、それを一口飲んだ。ローズティだ。おいしくなかった。
大家さんは早速身を乗り出してきた。
「彼らが部屋に閉じこもってる理由ってなんなの?」
「ひと言で言えば、インフォビアです」
「インフォビア?」
「インフォメーション・フォビアの略とでも言いますか。要するに、情報恐怖症です」
「情報恐怖症……」
「そうです。彼らは情報に触れることを極端に恐れるようになったんですよ」
「そう言う病気があるの?」
ええ、と僕はうなずいた。
「電脳の端末から携帯、テレビや雑誌まで、とにかく情報が載っている媒体はすべて遠ざけてしまうんです」
「テレビとかなんとかが怖いわけ?」
大家さんは不思議そうに聞いた。
「専門家のサイトを調べてみたところでは、いくつかの症状があるそうです。たとえば携帯を持たせると、そればっかりに集中するようになって、目が離せなくなるわけです」
「怖いのに?」
「その場合は、情報に触れられなくなることを恐れるんです。自分の存在を失うような恐怖でしょうかね。依存症とも言えます。ところが、それは決して正常な状態じゃないわけですよ。それでずーっと見続けると、反動でキレてしまうんです。携帯を投げつけて壊したり。でもまた、見なければいけないような強迫観念に迫られて……、と言う繰り返し。それが1つのパターンですね」
「彼らもそうなわけ?」
「直接確認していないので、あくまで推測ですが、彼らの場合は別のパターンですね。より進行した形というか」
「というと?」
「一切のメディアを近くに置かないようにするんです。少しでも情報が流れてくると、頭がパニックになって、わけがわからなくなるのだそうです。圧迫感を感じるというか。脳の内部で情報をうまく整理できなくなって、ただひたすらに流れ込んでしまう状態らしいです。それはいま言ったパターンでも同じですけどね。つまり、情報が入ってくるのを止められない」
大家さんは、呆然とした表情で聞いている。
「僕らは、テレビ番組を見ても、携帯のサイトでも、見たいものだけを選びますし、見ているようで見ていないような時もあるでしょう」
「ええ。ぼんやりしていて見逃した時とかあるけど」
「そうです。脳は別のことを考えたり、休むわけですよね。見たくなければ意識しないようにしたり、チャンネルを変えたりする。でも、彼らはそれが出来ないんです。チャンネルを変えるという行動が起こせないし、流れてくる情報から目をそらすことも出来ない。しかもその情報を全部取り込もうとして意識を集中するのです」
「そんなことしたら、頭が変になっちゃうわよ」
「変になるんです。だからパニックを起こす。しまいには、恐怖にとらわれてメディア媒体そのものを拒否するようになる」
「なんてことよ……」
普段陽気な大家さんは、深刻な顔をした。姪っ子にどう説明すればいいか困っているのだろう。
「今は、至る所で情報が流れています。それから避けるためには、家に閉じこもって、携帯もテレビも電脳もみな捨ててしまうしかない」
「そういうことだったの……」
「もちろん、これは推測です。直接本人に聞いた訳じゃないから。でも、そうではないかと気付いた最初のきっかけは、コンビニでお金を払っているのを見た時なんです」
「お金?」
「ええ。今はみな携帯で決済するでしょう。でも、彼らの1人、草間という大学生は、コンビニでお金を支払っていた。携帯を忘れても口座のデータを店の端末に入力すれば決済できるのにですよ。しかもコンビニの人も慣れたように対応していた。彼らはいつもそうしているということです。なぜか」
「携帯が使えなかった」
「そうです。彼に電話したことは?」
「そういえばないわね。姪の子だし……。で、でもよ、あの子は、コンピューターに……電脳に詳しいのよ。電脳関係の学部にも進んだし……」
「小さい頃から、慣れ親しんできたわけでしょう」
「そうよ。それでなぜ……」
言いながら大家さんは、何となく理解した様子だった。
「それが、いけなかったと……?」
「一概には言えません。幼い頃から電脳に触れ、それだけで育ってきた人の中で、なにが起こっているのかは、他人にはわからないですよ。でも、情報そのものが彼らにとってストレスになっていた可能性は高いでしょう。その育ちだけじゃない。毎年のようにコンテストに参加したり、若くして会社からも期待されるポストに就いたり、はやばやと情報企業から内定をもらう、そう言ったことが彼らを縛った。しかもそこには電脳があり、情報がある。最初は期待されることにストレスを感じていたのが、やがて電脳やシステムに対する恐怖に発展し、どんどん進行して情報恐怖症になった」
僕は、言葉を切ってお茶を飲んだ。やっぱりマズイお茶だった。
「今の社会、情報のない所なんて、ほとんどないじゃないですか」
「そうか。そうだったのね……」
大家さんの歳なら、若い頃に社会の情報化、電脳化が進行していくのを目の当たりにしただろう。今までは限られた人だけが使っていた電脳、コンピューターが、急速に普及した。携帯だってそうだ。携帯がなかった時代から、誰もが持つ時代が来た。そんな時代を見てきた人の方が、情報にどっぷり浸かった僕らよりも、この症状のことが理解できるかも知れない。
はじめは驚いていた大家さんも、納得したようだ。
「ただし、これは僕の推測ですから、違う可能性もあります。まずはその姪御さんにお話をして、情報恐怖症の可能性を頭に入れた上で、対策を取られる方がよいと思います」
「そうね。でも、どうすればいいのかしら……」
「そうおっしゃると思って、ある方を紹介しておきます」
僕は柿田さんの名前と仕事、連絡先を教えた。
「もし、僕の推測が当たっているのなら、この人に連絡を取って相談してみてください。この人は自然生態系の回復事業を担当している方です。自然の中で暮らしています。脳科学の専門家ではないですけど、仕事柄、学生さんを使うことも多い。その中には悩みを抱えて都会を離れてきた人もいるといいます。うまく相談に乗ってもらえるかも知れません。最初は、僕の方から連絡を取りましょう。そのあとは、この人に預けてみるのもいいのでは。精神をリフレッシュして、そのあとまたこの世界に戻ってくるか、自然と共に歩む道に進むか、もっと別の生き方を探すか、彼らに選択させるのもいいでしょう」
「そうしてもらえる? こういうこと経験ないから、助かるわ」
「ただひとつ、あの3人は、たぶんお互いに共通する何かを見いだして、一緒に住んでいるのだと思います。無理に引き離さず、3人ともに対策を取った方がいいでしょう。他の2人の方の基本的なデータもお渡ししますから、ご家族の方に連絡を取られて、相談された方がいいと思います。女性は家族から捜索願が出てます。まず、先に柿田さんに連絡を取り、アドバイスを受けるといいかも知れません」
「なにからなにまで、ありがとうね」
大家さんは少し涙ぐんだ。ありがとうを何度も繰り返す。
僕は請求書を出した。ここはあくまでビジネスライクにした方がいい。その方が、大家さんも気が楽だろう。僕に余計な気を遣わずにすむ。
大家さんは請求書を見て、僕が、グロスターの名は出さなかったが、情報に詳しい専門家に協力してもらった旨も説明したので、彼女は納得して、支払うことを同意してくれた。もともとこの人、超が付く大金持ちなのだ。
そのあと、柿田さんに連絡を取った。柿田さんは話を聞くと、一度ご家族と話をしてみたい、と言うことになった。彼は若者に対しても誠実だし、人を育てるのが好きな人だ。少し迷惑かな、とも思うが、たぶんうまくやってくれるだろう。
3日後、柿田さんが連れてきた心理学の専門家と共に、家族が彼らの部屋を訪ねた。僕は柿田さんと軽く話しただけでほとんどタッチしなかった。どんな話が行われたかは知らないが、午後には帰っていった。柿田さんの話では、僕の予想通りの症状のようで、まだ心を開くところまでは行っていないが、彼のところで働くことには興味を示しているようだったという。3人だって、このままでいいとは思っていないはずである。
家族らが帰っていくのを見ながら、僕は思った。
僕はエリンターなどと言う仕事をしているから、情報には常に触れた状態にある。そんな僕ですら、すべての情報を目の当たりにしているわけじゃない。今の社会、果たしてどれだけのデータがあふれているのだろう。そのすべてを目の当たりにした時、僕は自分を維持できるのだろうか。彼らと同じように、インフォビアにかかってしまうのだろうか。
人間はまだ、情報化社会に適応できるほどには進化していないのだ。その脳はまだ限界いっぱいの力を発揮できない。すべての情報を理解するだけの永遠の寿命もない。にも関わらず、生み出したシステムが、情報が、人間を追い越してしまったのだ。インフォビアはその目に見える証拠なのだ。
そう考えると、僕らよりも、あの3人の若者の方が、普通のまともな人間であるのかも知れない。
そう思って、僕は背筋にいやなものが走るのを感じた。
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