8月18日 高校野球記念日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 仕事を失ってから早くも半月経とうとしている。最初の内は焦りから求人サイトを読み漁ったり、空いた時間に不安感を抱いていたものだが、人間とは恐ろしい事にそんな生活を続けると次第に慣れ、気づけば昼夜逆転の日々が続いている。蒸し暑い日中を寝て過ごし、涼しい夜間に活動すると言うのは非常に合理的な生活に見えるが、この生活に慣れるにつれ社会と切り離されていく様な、背徳的な罪悪感を覚えざるを得ない。そんな私の生活とは対照的に青空の元青春の汗を流す生き物がいる。本日2017年8月18日は「高校野球記念日」である。


 高校野球記念日は、1915年のこの日、大阪の豊中球場で第1回全国中等学校優勝野球大会が開会した事を記念して制定された一日である。第一回は地区予選を勝ち抜いた10校が参加し、京都二中が優勝を納めた。諸君らが知る高校野球へと姿を変えたのは1948年の事であり、全国高校野球選手権大会と名称を変更する。ちなみに甲子園球場に場を移したのは第10回大会の事であった。


 高校球児たちの青春、汗、そして涙。技術的にはプロ野球の方が上なのだろうが、高校野球に魅了される人は後を絶たない。

 以前どこかで話した事があるだろうが、私はスポーツにはまるで興味が無い。あるとすれば競馬やボートレース。自身の損得に関する試合だけだ。だが、そんな私でも第88回全国高等学校野球選手権大会決勝には心が動かされテレビに釘付けにされた。


 決勝に進んだ二校は南北海道代表の駒大苫小牧高校と西東京代表の早稲田実業学校。ここまで言えば両エースの激闘を思い起こす人も多いのではないだろうか。今や球界を代表する人物。そう、斎藤佑樹と田中将大の投げ合いである。


 8月20日13時に試合開始。

 激しい投げ合いの末8回表に駒大苫小牧が一点の先制点。それを追うように8回裏に早稲田実業に一点が入る。投手戦は延長15回まで続き、第51回全国高等学校野球選手権大会の松山商対三沢以来37年ぶりの決勝再試合となった。


 翌21日13時に再試合が開始される。

 9回表に一点を追う駒大苫小牧。バッターは田中。そして投手は斎藤。

 斎藤は田中の4球目にこの日最速となる147km/hを計測し、ファウルで粘るも田中は7球目に空振り三振で打ち取られる。

 ハンカチ王子の愛称を全国に轟かせ、斎藤率いる早稲田実業は夏の甲子園を制した。


 私のみならず、この試合に興味を持った普段野球を見ない様な人種は少なくなかったと思われる。だが、それと同時に、二人がプロに入った途端に興味が無くなってしまった人も少なくないはずだ。

 来週の月曜日。21日は今年の、第99回全国高校野球選手権大会の決勝が行われる。彼らの熱い夏を、その行方を目撃する為に、私も今から生活リズムを改善しようとささやかな努力をしてみる事にする。




 今日は高校野球記念日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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