8月15日 刺身の日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 本日2017年8月15日は「刺身の日」である。


 刺身の日は1448年に初めて文書に登場した刺身を記念しての一日である。

 鯛なら鯛とわかるやうにその魚のひれを刺しておくので刺し身、つまり「さしみなます」の名の起り、と室町時代後期の書記官・中原康冨の文安5年のこの日の日記に記されており、現存する文書で最古の刺身の記録となっている。


 魚を捌いて盛りつけただけの料理。調味料と言えば醤油とわさびくらいのシンプルな料理であるが、言わずもがなその道は深い。魚によって鮮度の見方が変わり、捌き方も変わってくるからだ。

 例えば高級魚として知られるフグ。諸君らはフグと聞いたら向こう側が透けて見えるくらい薄くさばかれたフグを想定するだろうが、ある有名人は食べるのがめんどくさいからぶつ切りで出してくれと要求した。

 これは豪気で値段を気にしないその有名人の武勇伝であるが、実際のところフグを最高の状態で食すなら薄切りに限る。なぜならフグの身は硬く、それ故に薄切りをしているからだ。決してケチケチと食べるためでは無いからだ。


 刺身に欠かせない存在として知られるのは大根のツマと菊である。スーパーで買った刺身には大体この二つがセットとなりつけられている。これらは見た目のみならず抗菌効果、毒消し効果の意味合いを兼ねて添えられている。

 ちなみに添えられる菊は食用菊であり食べることが出来る。だが、私は食べたことが決して人には勧められない味だった。中には花びらだけをとり、醤油に浮かべて風味を味わう人もいるんだとか。


 日本以外では生のまま魚を食べる文化が殆ど無いのは諸君らも知るところだと思うが、私が思うに魚の一番上手い食べ方は刺身に限る。最近では寿司の甲斐もあって外国人も刺身に手を出す事があるようだが、よく考えると人類の文明が発達し火を自在に扱うまでは生魚や生肉を食していたはずだ。所詮、外国人の刺身嫌いはただの食わず嫌いなのかもしれない。




 今日は刺身の日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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