6月15日 暑中見舞いの日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 冷やし中華始めましたと言う単語をよく見るようになった。定食屋で、ラーメン屋で、中華料理屋で、至るところでそんな張り紙を目にする様になった。毎年夏が近づくにつれ、ついつい食べたくなるものだが、逆に夏が終わる頃に冷やし中華終わりました。と宣言する店は少ない。ないと言っても過言ではない。冷やし中華は自らの役目を終えたようにこっそりと毎年姿を消していく。だが待って欲しい。私は冬でも冷やし中華を食べたいときがある。一年中冷やし中華が食べられる店は無いものか。本日、2017年6月15日は「暑中見舞いの日」である。


 暑中見舞いの日は1950年のこの日、郵政省が初めて「暑中見舞用郵便葉書」を販売した事を記念して制定された一日である。

 暑中見舞いの本来の目的は、知人や家族の安否の確認、生存確認の一環であるが、通信技術が発達した現代においてそれはただの社交辞令となりつつある。若者からすれば年賀状と次いで絶滅危惧種に制定されるイベントだ。


 そもそもだ。なぜわざわざ手紙を出して暑くなりました。と報告せねばならぬのだ。大抵の人間はそんなもの貰う前から暑くなってきているのに気が付いている。

 暑中見舞いと言えば、その後に出される残暑見舞いと言うのも今一必要性が感じられない。簡単に言えばまだまだ暑いですねといった内容のはがきをわざわざ送る必要があるのか。まだ暑いから水分補給には気を付けましょうってか? 言われなくてもわかるわ!!


 それが一般常識だから。代々続いた風習だから。未だに送る人はそんな事を言うだろう。だが、こんなもの郵政省が世間から金を巻き上げる為に仕込んだイベントの一つに過ぎない。廃れて当然だ。


 どうせはがきを出すならもっと有意義な内容にした方がいい。例えば、飲食関係者ならこんな手紙だ。


 冷やし中華始めました。




 今日は暑中見舞いの日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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