6月9日  ロックの日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 2017年6月9日『ロックの日』。


 この街でその名を口にすれば誰もが振り向き、そして口を揃え警告される。「命が惜しければむやみやたらとその名を出すな」と。


 ロック。

 それが指し示す人物は刑殺官官長「ハーディ・ロック」に他ならない。

 銀と黒。二丁の拳銃を自在に扱い、巨大刑務所レクイエムの受刑者達を屠り続けてきた最強の刑殺官である。

 奴に目を付けられれば、一日たりとてこの街で生きていく事は至難。やがて受刑者達はその名を口にする事すら憚る様になった。



「はっはっは!! これは楽しめそうだぜ!!」


 男の名はキリシマ・エンカ。

 地上最強の剣豪を目指すべく、名を挙げた人間を一人一人と切り伏せてきた無双の侍が、ハーディ・ロックと出会うのは偶然でも運命でもない。至極必然の事象であった。

 キリシマの目の前に立つのは右手に黒い拳銃、そして左手に銀色の拳銃を持った男。対峙する両者の間に漂う緊迫した空気には、腕途刑から流れる警告音がひっきりなしに流れていた。


「……あんた。強ぇんだってな?」


 キリシマはにやけながらハーディに話しかける。

 対し、ハーディは表情を変える事なくこう返した。


「新入りか……。入獄時にここでのルールは教わらなかったか? 戦闘禁止区域での戦闘、略奪行為は御法度だ」


 両の手に持つ拳銃をキリシマに向けたハーディ。真っ直ぐ伸びた銃身の先には、冷たい瞳がキリシマを捉えている。

 だが、銃口を突きつけられながらも、キリシマの悠然とした態度は一向に変わらない。キリシマの背を支えるものは自信。幾多の修羅場で培った、己の刀に対する絶対の自信であった。


「御法度ねぇ……。なら、どうするってんだ?」


 決して刑殺官は受刑者に嘗められるような事があってはならない。尊敬する上司にそう教え込まれていたハーディは「ふぅ」とため息をつき、そして静かに呟いた。


「――刑を執行する」


「そうこなくっちゃなあ!!」


 ダァン!!


 引き金に力を入れるハーディ。

 デイトナから放たれた弾丸はキリシマを襲った。

 最強の刑殺官と最強の用心棒。これが二人のファーストコンタクトである。




 犯罪者達の鎮魂曲レクイエム最終章。

 犯罪者達の終焉曲フィナーレ鋭意制作中!!




 今日はロックの日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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