5月11日 映画芸術科学アカデミー

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 1927年、36名の会員により創立された非営利団体。「映画における芸術と科学の発展を図るため」作られたその団体は映画芸術科学アカデミー。2017年5月11日は『映画芸術科学アカデミー』が発足した日である。


 映画、芸術、そしてアカデミー。今日は諸君らにほんの数日前の私の物語を語ろうかと思う。後にこの体験を動画にし、YouTubeに挙げる予定であったが、今日と言う日はこれを語るにふさわしい。


 あれは1週間前だった。私は大してフォロワーのいないTwitterをなんとなく目で流していた。様々なスマホゲームの広告の中、一風変わった広告が目に入る。『新人俳優メインキャストオーディション』確かそんな名前であった。開いてみると新作映画のキャストを募集。しかも素人も参加可能との事。諸君らもご存じのとおり私は映画好きである。一度は銀幕に降り立ってみたいと思った私を誰が責められるだろう。私は興味本位でそれに登録した。


 返事が来たのはそれから数分後であった。ラインに登録された募集先からオーディションの日時と会場の連絡が入る。こんなにあっさりと決まっていいのか。普通履歴書でも送り書類審査が行われるのではないのか。怪しいと思いつつも私は当日、会場の渋谷へと高崎線で上京したのである。


 渋谷に着くと私はさっそく『一蘭』で腹ごしらえをした。オーディション前に豚骨ラーメンとは何事かと思われるかもしれないが私の大好物である。やむを得ない。会場は道玄坂近く。有名な所で言えば109と書かれたビルの近くにあった。すでに、怪しい宗教の勧誘ではないかと疑いかかっていた私はその会場に辿り着きその疑惑を払拭する。会場には40名ほどの夢見る男女が集結していたからである。


 10分ほどの待ち時間を経て、我々応募者は簡単なプロフィールを配られた用紙に書き込む時間が与えられた。名前、年齢、住所、SNSのフォロワー数、養成所、劇団に所属しているかどうか、好きな俳優、出たい番組などをそこに書き込むように言われた。書き終わり提出すると面接官である映画の監督が会場に登場する。我々は順番に監督の前に立ち1分程度の自己PRを行っていく。他の応募者のPRを見ると監督のファンだと申す者。芸人をやっていて一発芸を披露する者。会社経営をしているが今回の機に芸能活動に挑戦したいと言う者。声優志望で専門に通っている者。自分の番が来るまでに何を話そうか考えていたが、彼らのPRを見ているうちこの場にいる自分が場違いであり、今すぐ帰りたいと言う気持ちが募っていく。ついに自分の番になると緊張してしまい、何を喋ったかよく覚えていない。確か何もできないけど頑張るとかそんな事を言った気がする。


 PRの時間が終わると演技審査が始まった。我々応募者は二人一組になり短い台本を渡される。お互い初対面であるにも関わらず、私はせめて相手役の人に迷惑をかけないよう初めての演技を精一杯したつもりである。


 割愛


 全てが終わり解散となる。

 私は渋谷をぶらつきパチンコ屋に入った。

 他の応募者と私を比べると、私を取る理由は万に一つもない。

 だが、食ってはいけていないが文を書く身としていい人生経験が出来たと、私は今日この日、この会場まで訪れて良かったと心から思った。


 飯を食べ、腹を膨らませた私が山手線のホームで電車を待っていると、一通のラインが入る。送信先は先程の面接関係者。


「いずくかける様。お疲れさまでした。厳正な審議の結果。一次審査を通過いたしましたので二次審査のご案内をさせていただきます。」


 二次審査が行われるのは5月12日金曜日。つまりは明日である。

 この時の詳しい様子。そしてこの先どのような結果を迎えるのか。後日私はYouTubeに挙げるつもりだ。興味のある方は是非視聴してみてほしい。




 今日は映画芸術科学アカデミー、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る