4月13日 決闘の日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 『夜は短し歩けよ乙女』と言う小説をご存じだろうか。2006年に刊行され、累計130万部を発行したベストセラーであるからして、私の様な無名からご存じだろうかという紹介もいささか恐縮ではある。知っている人が多いだろうが、この作品は映画化され、今現在公開されている。面白かったので是非時間のある人は見てもらいたい。なぜここでそんな話を持ち出したのかと言えば、この映画内のあるセリフに非常に感銘を受けたからだ。それはヒロインと、『四畳半神話体系』に登場するあるキャラクターの姿に瓜二つな少年が古本市で繰り広げた会話である。


『本と本は繋がっている』


 誰かの文章に誰かが影響を受ける。何を隠そうこの小説も、『夜は短し歩けよ乙女』の作者である森見登美彦先生の作品の影響を受けている事は隠せない。そしてさらに、もしも誰かが私の作品と繋がってくれたら嬉しい事この上ないと思い、ここで書かせてもらおうと思った所存である。

 そんな話とまったく関係の無い本日、2017年4月13日は『決闘の日』だ。


 決闘の日とは、日本でも一番有名であろうと思われるライバル関係にあった二人が、豊前小倉沖の無人島、巌流島で勝敗を決した日である。

 時は1612年。二刀を用いる二天一流兵法の開祖、宮本武蔵が、「岩流」と呼ばれる流派を用いた佐々木小次郎を打ち破る。正確には決闘時、その地の名は舟島であった。巌流島と名付けられたのは決闘があってからの事である。有名なのは宮本武蔵がわざと遅れて登場したというエピソードだが、これは全くの創作だ。

 二名の剣豪の名前、流派。更にはこの時に佐々木小次郎が命を落としたかどうかですらはっきりとした文献が残されておらず正確性に欠けるが、当時宮本武蔵は20代、佐々木小次郎は60代であったとも言われる。もしそれが本当なら体力的にかなりの差があっただろうに。


 日本の歴史上最強を一人挙げるならば、恐らく宮本武蔵が一番多くの票を集める事だろう。日本人にとって宮本武蔵と言う名は強さの象徴でありまた絶対的なものだ。ゲームや漫画、ドラマなどでも、織田信長と並びイラスト化、あるいは登場している回数で上位に立つ人物である。現在も少年チャンピオンの人気漫画、『刃牙道』にて現代兵器と渡り合うこの世に蘇った宮本武蔵が描かれている。


 天は二物を与えずと言う言葉があるが、実は宮本武蔵は武術だけではなく、重要文化財指定の水墨画や工芸品を残している芸術家でもあった。だが、一般的にはあまり知られていないだろう。これが先に挙げた、本と本は繋がっていると言う話に繋がる。先程のゲームや漫画でも、剣豪の話ばかりが持ち上げられ、それに影響される人が多いと言う話だ。


 この如何ともしがたい現象を解決すべく私はある作戦を打ち立てた。


 なんとなくで

 架空の歴史上の偉人を

 メイキングしない


 通称『ナカメ作戦』である。




 今日は決闘の日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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