4月11日 竹藪から現金が見つかった日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 諸君らは道端で現金を拾った事があるだろうか。私はと言うと、千円札を拾った事がある。それも一枚ではなく三枚もだ。それだけ聞くと幸運な話だと思うかもしれない。だがそれは、私がコンビニで買い物をした際、一万円札を差し出した時のお釣りであり、めんどくさがって入れた自分のポケットから落ちたものであったのだから知った時は落胆したものだ。さらに数えてみると一番肝心な五千円札が見つからなかったからさらに落胆したものだ。あれ以来、私は現金をちゃんと財布に入れるように習慣づけているのは言うまでもない。本日、2017年4月11日は『竹藪から現金が見つかった日』である。


 この事件は1989年に起こった。場所は川崎市高津区。ある竹藪の中から現金の入ったバッグが見つかったのである。その額は私の五千円などと比較するもおこがましい金額。なんと1億4522万円である。


 諸君らはそれだけの大金を拾ったらどうするだろうか。100円程度なら黙って財布に入れる人が大半だと思われるが、ここまでの額になるとさすがに警察に届けざるを得ないのではないだろうか。実際、この現金の発見者は素直に届け出ている。


 この事件はこれで終わりではなかった。事件が報道されると現地はお祭り騒ぎ。まるで宝探しの様に周囲を散策する人で溢れた。そしてなんと、16日には9000万円の現金が入った手提げ袋が発見されたのである。


 一体誰がこんな現金を落としたのか。それはさらに数日後に明らかになる。ある会社の社長が、脱税した金を隠していたと届け出たのである。検査の結果、現金は本人のものであると認められたが、現金の発見者には一割が送られる法律がある。つまり最初の発見者には1400万あまりが、第二の発見者には900万の謝礼金が支払われたのだ。


 藪をつついて蛇を出すと言うことわざがある。しなくてもいい余計な事をし、それが原因となって悪い結果を導き出すことを表すことわざであるが、人生はなにが起こるかわからないから面白い。時には藪をつついて金を出す結果に繋がる事もある。

 夢のある話ではあるが、やはりコツコツ真面目に生きていく方が堅実だ。もし現金を拾ったら、真面目に警察に届け出る事をお勧めしよう。え? 私? も、もちろんちゃあんと届け出る。決まっているじゃあないか。




 今日は竹藪から現金が見つかった日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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