3月30日 ゴッホのひまわりが落札された日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 諸君らは美術展に興味はあるだろうか。私はと言うとまったくと言っていいほど無い。たまたま出先の百貨店などで行われていた個展などへと足を運んだはいいものの、実際見回ってみるとどの作品のどの部分が優れているのかまるでわからない。芸術を楽しむためには芸術を楽しめる目を持たなければいけないと知らされたからだ。本日、2017年3月30日は『ゴッホのひまわりが落札された日』だ。


 ピカソと並んで有名な画家、ゴッホ。さすがにその名を知らぬ者はいないだろう。自画像を好んで描いたゴッホの代表作、ひまわりは世に何枚か存在しているが、その内の一枚が落札されたのが1987年。安田火災海上保険が落札者であり、値段はなんと54億円であった。


 たった一枚の絵画が54億円である。一体どんな絵なのかと調べてみた所、なんの変哲もないひまわりが描かれているだけの絵画である。もしゴミ捨て場にこのひまわりが置かれていたとしても、誰もその値打ちに気付かずパッカー車に載せられるだろう。しかし、世の中見る人が見れば大金を投じても手に入れたいものであるのだから、人の価値観と言うのはあてにならないものである。


 だが、これはゴッホが書いたから価値が出ているという見方もある。例えば私がこのひまわりとまったく同じ絵を描いたとして、それが売れるだろうか。私のこの小説も村上春樹や西尾維新が書いたと言えば、突如にPVが増えるのではないだろうか。世にはヴィトンやグッチやプラダといった高級ブランドが存在しているが、その品物よりも高価なもの、価値が高いものであると言った先入観が人の購入意欲をそそるのではないだろうか。


 実際、ゴッホの絵画は生前誰にも見向きもされなかったと言う。彼の絵画に高値が付きだしたのは、ピストルで自殺を遂げた後。つまりは、彼の劇的な人生こそがこの絵画の価値を一気に跳ね上げたのかもしれない。


 ならば、私もピストル自殺を図れば、その翌年にはこの小説も書籍化されてもおかしくはない。だがやはり、そこに自分がいなければ何も面白くない。私は高値が付かずとも、名を残さずとも、見てくれる人の反応が楽しめる事がなによりの原動力であると考えているからだ。




 今日はゴッホのひまわりが落札された日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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