1月14日 愛と希望と勇気の日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 本日2017年1月14日は、『愛と希望と勇気の日』である。

 愛と希望と勇気の日、大層な名前が付けられた由来は、1959年の本日に、2頭の犬の生存が確認された事にある。諸君らは南極物語と言う映画をご覧になった事があるだろうか。


 そのストーリーは、1958年、南極へと向かった調査隊を厚い氷が阻み、断念された調査が元になっている。先に現地に着いていた11名の越冬隊員はヘリコプターにより救助されたが、同じく現地にいた15頭の犬ぞり用の樺太犬は助ける事ができず、鎖に繋がれたまま南極に置き去りにされた。そして翌年の今日、1月14日に15頭の内2頭の生存が確認され、世界中を愛と勇気と希望が包んだ。


 さて、今回の私の意見は、読んでいて気分を害される諸君が多数出るだろう。主にこのストーリーに、そしてこの記念日に否定的なコメントを書くつもりである。読まれるなら覚悟を持って閲覧してほしい。


 私は学生時代、映像関係の専門学校に通っていた。その授業の一環、どんな番組を制作すればよいのかと言う授業において、講師であった男はこう唱えた。


 ――業界において確実に視聴率を取ろうとするならば、エロ、グロ、動物の御三家は欠かせない。


 エロは人間の三大欲求に直接呼びかける。画面内の料理を見ても腹は膨れぬし、人が眠る姿を見ても睡眠欲は満たされないが、人は、画面の中の異性に置いても性欲を処理することが出来てしまうからだ。

 グロは好き嫌いは別れるが、つい目を引いてしまう。画面内の人間が凄惨な目に合えば、視聴者側は自身が安全であると再認識することが出来るからだ。

 だが、これら二つは流す時間帯を間違えれば悲惨な数字を出す事になる。家族で視聴するにはあまりにもリスキーなのである。

 そこで残る動物である。朝の愛犬紹介から夜の動物とのふれあい番組、または海外の動物ドキュメンタリーまで、幅広いところで数字が取れるのが動物である。それはなぜか。動物は言葉を発しない為である。


 動物は言葉を発しない。つまりは、人間側から都合よく解釈を得ることが出来る。諸君らも、テレビで、まるで動物が話しているかのように勝手にセリフを付けられているのを見たことが無いだろうか。これにより、人間と動物の絆は固い物だと放映され、人類は世界中の動物たちと触れ合っていると勝手に感動を作ることが出来る。


 本日は愛と希望と勇気の日と大層な名前が付けられているが、もし私がろくに餌もとれない極寒の地に鎖を繋がれたまま置き去りにされたのであれば、裏切りと絶望と殺意の日と付けるだろう。事実、残された15頭の内、13頭は死に絶え、残った2頭の内1頭はその後に南極で死亡している。


 人間の勝手により慣れない環境へと連れていかれ、人間の勝手により置き去りにされ、人間の勝手により助けられ、人間の勝手により感動する話へと祭り上げられ、人間の勝手によりこの記念日は作り上げられた。私には、そう思えて仕方がない。


 何もこれはこの日の話だけに留まらない。例えば、私はスーパーの精肉売り場に買い物に行った際、豚が嬉しそうにとんかつをほおばる絵をよく見かけるが、これも人間の勝手な解釈であると思っている。

 と言っても、弱肉強食が世の常である。百歩譲って食べられることは仕方がない。だがしかし、私が豚ならば、親兄弟を殺害した挙句、まるで好き好んでパック詰めされ食卓に並んでいると思わせるようなイラストには吐き気を催す。子供たちの為を思ってのイラストならば、罪悪感を紛らわす事より、義務教育時代に屠殺場の映像でも見せてやった方が遥かに健全であると私は思っている。


 食事中の諸君がいたら、今一度その肉に感謝を持って味わってあげてほしい。もしペットを飼っている者がいたら、今一度その子の気持ちを考え、かわいがってあげてほしい。物を言わぬ動物だからこそ、我々の方が今日と言う記念日に今一度相手の気持ちに立って考える必要があると提唱する。




 今日は愛と希望と勇気の日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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