1月11日 塩の日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 さて、本日紹介させていただくのは、我々の食生活に欠かせない調味料。和食、洋食、中華にイタリアン。フレンチ、民族料理さらにはゲテモノ料理まで、料理と名のつくものには大抵コレが使用されている。そう、2017年1月11日は、『塩の日』である。

 本日が塩の日と呼ばれるようになった所以は、1569年、上杉謙信が敵対していた武田信玄の領民に越後の塩を送った事に由来する。なぜ、敵であった武田信玄へと塩を送ったのか。それを説明するには歴史を紐解く必要がある。


 今川氏真いまがわうじざねと言う男がいた。今川はかの有名な桶狭間の戦いにて、父である今川義元いまがわよしもとを失い、その後に家督を相続する。だが、それと同時に今川家は衰退の一途を辿っていた。

 これを見ていた武田信玄は、武田、北条、そして今川の三家からなる「甲相駿三国同盟」を破棄し、落ち目の今川を切り捨てたばかりか、あろうことか今川領であった駿河に攻め込み、そこを自分の領土としてしまった。


 これに腹を立てた今川氏真は、駿河湾から輸入される塩を武田側の人間に卸さない様に呼びかける。たかが塩が手に入らないくらい、取るに足らない嫌がらせだろうと思われるかもしれない。だがしかし、時は戦国。一家に一台冷蔵庫がある時代とは違うのである。塩が無ければ食料が保存できない。さぁさぁ困った。武田はこの塩止めに手を焼いていた。


 そこで上杉謙信が登場する。

 上杉謙信と武田信玄と言えば、歴史上でも名高いライバル関係にある。俺の一番の好敵手を、こんなくだらないやり方で落とすとは見ていられない。上杉はカバンからさっと越後の塩商人を取り出し、信玄に手渡し一言告げて去って行った。


「べ、別にあんたの為に持ってきたんじゃないんだからね! たまたま余ってただけなんだから!!」


 これがあの有名なことわざ。敵に塩を送る。の語源となった。


 実はこの話には裏がある。

 例えば、例えばだ。

 諸君らが大量の塩を持っていたとしよう。

 かつてのライバルが塩が不足して窮地に立たされている。


 お分かりだろうか。時は戦国。弱きものは強きものに利用される定めにある。

 世に溢れる商品は需要と供給により、時にその相場が破綻、または高騰することがある。もし、この状況で上杉謙信と同じく塩を相手に送ると言う人は、やがて巨万の富を得るのやも知れぬ。お困りなら助けますよ。キャンペーン中です。今ならなんと半額。様々な甘い誘い文句にも、一度疑いを持つべきなのかもしれない。




 今日は塩の日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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