14 指輪、未来、りんご飴

「じゃあまた明日ね」

「ああ、また明日」

 俺はそう言って彼女と別れた。夏の夜風が少し涼しい。食いかけのりんご飴にかじりついて俺は祭りの会場を出る。空を見上げると夏の大三角とさそり座がよく見えた。俺は夜の町に駆け出した。


「パパーあの飴も買ってー!」

 娘はパパを引っ張ってどんどん進んでいく。おもちゃの指輪にキャラクターのお面、今度はりんご飴が欲しいようだ。パパは普段気難しそうな顔を緩ませて楽しそうだ。

 突然叫び声が上がった。

「ウワァーーーーーッ」

 太った男が屋台の前で泣き叫んでいる。娘の目から隠しながら急いでその場を離れる。男は地面に寝そべって駄々っ子のようにわめいていて、呼ばれてきた警備員に引きずられながらも叫んでいるのが遠くから見えた。

「未来が見えない! 未来が見えないよー!」


『「速報です。今日の16時頃、長野県岡崎市の夏祭り会場にトラックが突っ込み、多数の死傷者を出しました。運転席に座っていた男からはアルコールが検出され、警察は危険運転致死傷罪の取り調べを行なっています。」』

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