11 増殖、八百屋、祭壇

 お盆休みで昔住んでいた祖母の家にやってきたとき、近所の友達に遊びに誘われた。昔からよく遊び場にしていた山の中の無人野菜販売所に行こうと言う。もうそんなところで遊ぶ歳でもないとも思ったが、なんでもあそこには都市伝説があって、それを確かめにいくついでなのだという。

 この辺りは小高い丘が多くて、件の野菜販売所も友人と自分の家に一番近いというだけの、取り立てて特徴のない丘だった。しかし今ではその野菜販売所では誰も野菜を持って行っていないのに勝手に野菜が増殖しているという噂があるらしい。

 茂みをかき分けると鮮やかな黄色が目に入った。販売所の周りが花畑になっている。背丈は膝から腰ぐらいまであり、小さな黄色の花をたくさんつけて日の光を浴びている。

 そして花畑の中心に販売所があった。かなり木が傷んできているようだがそれ以外は小さかった頃と何も変わっていない。「やさい一品100円」と手書きで書かれた看板に野菜棚が3段あってトマト、きゅうり、なすや大根などが置かれている。お盆らしくナスの牛やきゅうりの馬が置かれた祭壇もある。

 男の声が呼び止めた。

「やあいらっしゃい、何を買っていくかな」

 販売所の小屋の裏に人がいた。汚れたジャケット、大きな麦わら帽子を被っていて顔は見えない。何やら作業をしているようで屈んだまま話している。


 結局出鼻をくじかれ、何も買わずに帰ってきてしまった。都市伝説はただの調査不足から出た噂話だった、今度寄った時は八百屋の代わりに野菜を買いに来てお土産にでもしようか。それにしても友人はさっきから黙ってしまっている。

 別れ際、友人は言いにくそうに話をうちあけた。友人はあの販売所に花畑なんかなく、近くに人もいなかった。と言った。いきなりカカシに話しかけて、頭がおかしくなったのかと心配していたとも。翌日帰る前にもう一度販売所に行くと、友人の言った通り花畑は無くなっていて、昨日の店主らしき人物と同じ服を着たカカシが裏に転がっていた。カカシの頭は腐ったトマトでできていた。後日調べたところによると、あの時みた花畑もトマトの花だったらしいことがわかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る