6 幻想、ヤギ、ネジ

 困ったことになった。ビニールに入った紙袋は、ビニール越しにでも強烈な匂いを発している。友人曰く親戚が作ったオリジナルのヤギチーズらしいが、最初は乾燥した糞でも入っているのかと思ったぐらいだ。

 生のままでは食べる前に吐いてしまうし、冷蔵庫に入れようにも匂いが他のものに移るのがこわい。

「焼いたらましになるかな……」

 含めから取り出すとそれだけで臭いがきつくなる。見た目は普通なのに一体何がこの臭いを出しているのか。

 レンジをつけた後に通販の荷物の受け取りをして戻ってくると、くすぶった匂がして、部屋の空気がなんだか淀んでいた。レンジから煙が出ている! 慌てて空気を吸い込まないようにしながらレンジを開ける。どうやら火は出ていないようだが、チーズは消えて縮こまった炭の塊が代わりに出現していた。どうやらこれが煙の原因らしい。

 チーズだったものを取ろうとすると、急に炭が遠ざかった。ヤギがチーズを咥えて逃げて行ってしまった。晴れ渡った空の下でヤギを追いかけていくと、丘を登って行った先に鉄の部品の塊が散らばっているところがあって、ヤギはそこで待っていた。ヤギはロケットを鼻先でつつくと、こちらをじっと見てきた。この壊れた機械を直せと言っているのがわかったのでネジを締め直したり叩きつけたりして治すとそれはロケットになり飛んでヤギ達の故郷の惑星ユグに着くとそこには幻想的に広がる体毛畑が……

 目が覚めたのは次の日の朝だった。ユグを飲み込まんとするブラックホールに決死の体当たりをかまそうとしていたその時、ちょうど頭をテーブルの角にぶつけて夢から覚めたのだった。チーズの煙は壁や服に染み付いて一週間は取れず、その後友人とまともに会話するには一年もかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る