5 犯罪者、猫、蘇生
少女は物音を立てないように慎重に足を運んでいた。その表情は無表情だが、それは己の感情をどうにか押しとどめる限界の表情に見える。夜の街を照らすのは、壊れかけて点滅している街灯と満月の冷たい輝きだけだ。曲がり角にたどり着いた少女は首を伸ばして道路の様子を伺おうとし、すぐさま引っ込める。
少女がのぞいていた先には、人間がいた。月が雲に隠れる一瞬前、少女はその頭の割れ目からのぞいたピンク色の塊を確かに見て、そして今、こちらに向かってくる足音を感じながら、すぐそこに迫った自分の運命に震えていた。
きっかけは工事現場で出土した遺跡の、その封印を、うっかり誰かが解いてしまったことだった。溢れた瘴気はあっという間に街を覆い尽くし、あたりは地獄と化した。少女が今出くわした死者はまだ可愛げのある方で、それらを蘇生し、使役している何者かと、その眷属がこの街を闊歩している。
りん、と、鈴の音がした。振り向くと、夜の中に溶け込むような真っ黒の猫が金色の目で少女をじっと見据えていた。それは蔑むような視線をよこし、跳んだ。少女の足につむじ風を残しゾンビの脇をすり抜ける。チリチリチリと鈴の音が遠ざかっていくのをきいたとき、ゾンビの足音も遠ざかっていることに気づいた。あの猫は私を助けてくれたのか? そう考えかけて、すぐやめた。ゾンビ以外にも脱走した犯罪者など、身の危険がうようよしている。いつか見かけることがあったらお礼をしよう。そう考えて、少女は駆け出した。
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