4 魚、憑依、ノイズ
自電車を漕ぎながらチラリと腕時計を見る。7時過ぎ。空を見ると、あれだけ照っていた夕日も沈みかけ、紺色の領域が広がりつつあった。そろそろ今日の夜のことを考えなくてはならない。それとも、今夜は徹夜で漕いで昼にどこかに泊まろってみようか。
結局、今晩はそのすぐ後に見つかった公園で野宿をすることに決めた。目立った木の下にテントを張って寝床を準備し、現在地と今日進んだ距離をメモする。夕飯のおにぎりを食べていると、何かが跳ねる水音がした。外に出て見ると、U字溝の蓋が空いているところで、小さな魚が跳ねているのが見えた。
夜、ふと目が覚めてラジオをつけてみると、ノイズが入りすぎて全く聞き取れなかった。ラジオを切り、目を閉じてじっとしていると、バシャバシャと、水をかき混ぜるような音が聞こえた。
さっきの魚だろうか、それにしてはやけに音が大きいが。明かりをつけずにテントを少し開いて外を見ようとすると、
「むグぅ〜〜」
くぐもった唸り声がすぐそばで聞こえた。同時に水音も激しくなってすぐやんだ。
虫の声が嫌に大きく聞こえる。何か異常者が近くにいるのか? 関わらないよう閉じこもっていようか? それともすぐに出て行って逃げようか? 急に枕や寝袋が離れていように感じた。
またバシャバシャと音がする。息を飲んで外を覗き見る。遠くにある街灯の明かりが、U字溝に横たわっているものの輪郭をぼんやり映し出している。それが時々体を揺すって水音を立てているのだ。
それは一段と激しく身をよじると、途端にシラフになったように立ち上がった。そしてテントの方には目もくれず、何かに憑かれたように歩いて公園を出て行った。
もう眠気はすっかり覚めていた。何かが公園を出て行ってからしばらくテントの中で息を潜め、すぐにテントをしまって出発した。転々と残る水の跡から逃げるように。
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