7 商店街、占い師、一人
俺は寮の近くの商店街に本を買いに来ていた。ここの古本屋には図書館にはない古い小説が見つかるし、変色や小さなシミが前までの所有者のことを物語っているようで、見ているだけでも気持ちが良かった。
今日ま立ち読みだけして帰ろうと思い本を棚に戻すと、店主の爺さんが声をかけた。
「最近商店街で占いの露店を開く怪しい奴がいる」
なんでも八百屋の女将の知り合いらしく、最初は八百屋の軒先で客を占っていたのが最近自分でゴザを敷いて店を開くようになったと言う。その占いが不気味なことによく当たるのだ。店主は占いのほとんどは誰にでも当てはまることを言っているだけなのだと知っていたが、その占い師はあり得ないようなことだけを当てるのだと言う。
商店街のちょうど入り口になるところにゴザを広げて占いをしている女がいた。女は話も特に聞かずに顔を見ているだけで特に占いらしいことはしなかったが、猫が餌を食べなくなるので病院に連れて行くように言うと金の入った皿を差し出した。一回100円。俺が占ってもらうと同じように女は俺の顔をみた。年はよくわからない。視線は俺の顔を少し通り過ぎていてまるで脳みそを覗き見しているようだった。
「今日の夜中は一人で歩かない方がいいね」
といきなり女は言った。占いはいつ始まっていつ終わっていたのかもわからなかったが、随分普通の助言だった。
「じゃないと死ぬよ」
その晩俺は夕食を食おうとして冷蔵庫がほとんどからだったことに気づいた。コンビニに買い出しに行こうとしたが、昼の占いしの言葉と商店があやふやな目を思い出してやめることにした。
朝ツイッターを見ていると近所で殺人事件かあったことを知った。まさに機能占い師で言った通りのことだと思ったが、毎日言えば当たる日が来るのも不思議ではない。火事や殺人未遂が起きても占いの条件には当てはまると思っただろう。講義が終わって俺は商店街に行き古本屋の店主にそのことを話そうとして、昨日の占い師が。殺人事件の被害者だったことを伝えられた。
そのあと近所だったということもあり、マスコミの調査や学校でのゴタゴタなどいろいろあったが、結局殺人事件は恐ろしい事件として忘れられていった。数ヶ月経った今、俺が当時のことで覚えているのはあのどこを見ていたのかわからない目のことだけだ。あのとき彼女は自分の死が見えていたのか、それともそんなことはわかっていなかった間抜けな話なのか、今でもたまに考えることがある。
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